第1回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)
お久しぶりです。
今回のテーマはJリーグクラブライセンス制度(以後、クラブライセンス制度) 。
あれ?と思われた方がいらっしゃったら嬉しいです。
クラブライセンス制度については、制度導入直後の5年前にすでに解説を加えています。
あれから5年が経過し、Jリーグクラブライセンス交付規則も毎年改正がありました*1。
その中でも2017年シーズン向けの改正は大きなものだったと説明されています。
【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(1)今回追加となった『6つの基準』
《Jウォッチャー 2017年2月15日付》
〇青影宜典クラブライセンスマネージャー
結構いろいろな項目で変更点がありますので、本日は大きなポイントのみ説明させていただきます。まずはじめに、今回なぜ改定したのかというところですが、ご記憶がある方もいらっしゃるかとか思いますが、昨年に関しては大きな変更点がありませんでしたので皆さんの前での説明は割愛させていいただきました。本日ご案内するのは2017シーズン、今まさにクラブとやりとりが開始されているクラブライセンス運用について様々な改定がありました。
まず、改定の経緯を端的に言いますと、AFCのライセンスの改定があったからというのが一番の理由になります。AFCの改定2015年「AFC Club Licensing Regulations Edition 2015」に合わせて、今回Jリーグの方でも昨年一年間クラブの皆さんのと情報共有してAFCの変更に基づいて改定した次第です。
また、J3リーグが創設されるなど周囲の状況も変わってきているところです。
そのような状況を踏まえ、以前投稿したシリーズの構成を活かしつつ、最新の情報に内容をアップデートして投稿することにしました。
始めてクラブライセンス制度を調べている方にも、何が変わったのか見直したいという方にも、参考になるよう頑張りますので、よろしくお願いします。
<Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次> | |
回数 | 内容(交付規則の対象条文) |
---|---|
第1回 | クラブライセンス制度導入の背景 |
第2回 | クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条) |
第3回 | クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条) |
第4回 | ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条) |
第5回 | ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条) |
第6回 | 競技基準、法務基準(33条、36条) |
第7回 | 施設基準(34条) |
第8回 | 財務基準(37条) |
第9回 | 人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条) |
第10回 | AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条) |
第11回 | クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条) |
第12回 | 上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条) |
第13回 | J3クラブライセンス交付規則について |
第14回 | クラブライセンス制度の全体像、おわりに |
[Ⅰ]クラブライセンス制度導入の背景
今回はクラブライセンス制度が導入された背景・目的について整理したいと思います。
クラブライセンス制度はもともとドイツで始まり、欧州で広まった制度です。
それがAFCでも導入されることになり、ACLの参加資格にも関わってくることになりました。
《JFA 2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 2頁より》
Jリーグで導入されたのはAFCの決定を受けてということでしたので、積極的に導入したというよりは受動的な導入だったという方がより正確でしょう。
クラブライセンス制度発足の背景
《大東和美・村井満『Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)104頁》
もともとクラブライセンス制度はJリーグが言い出したことではなく、AFCが、加盟国・地域の協会を通じ、ACL出場チームへの参加条件として通達したことがきっかけで導入された。導入以前からJリーグには入会審査基準があり、AFCの求める基準よりJ1クラブに求める基準の方が高いくらいであった。
Jリーグ再建計画 (日経プレミアシリーズ)[本/雑誌] / 大東和美/編 村井満/編 |
一方で、クラブライセンス制度を導入することには、クラブの環境整備を促し、リーグ全体のブランド力を高める狙いもあったとも説明されています。
クラブライセンス制度とは何か?2013年導入を目指すJリーグの不退転
《スポーツナビ 2012年1月20日付》
先の移籍ルールの改定は、いささか「黒船」的なニュアンスが感じられたが、今回のクラブライセンス制度に関しては、少なくともJリーグ側はかねてよりその必要性を感じていたようだ。ここ数年、JリーグもJクラブも、ビジネス面での停滞感がまん延しており、昨年の震災が平均入場者数の減少に追い打ちをかけた。また、Jリーグのメディア価値の低下や、Jクラブ間の階層の固定化(特にJ2では豊かなクラブとそうでないクラブとの二極化は深刻だ)など、憂慮すべき案件が山積している。Jリーグとしては、クラブライセンス制度を導入することで、クラブの「ハード・ソフトの整備」を促し、さらには「投資対象としてのクラブの魅力向上」を期待したい。そして各Jクラブが、より魅力的なものになっていけば、Jリーグのブランド力もまた向上する――。
ここにあるように、ブランド力向上を図る理由として「JリーグもJクラブも、ビジネス面での停滞感がまん延しており、昨年の震災が平均入場者数の減少」があげられています。
これはクラブライセンス制度導入期(2010年~2011年頃)の最大の懸案事項でもありました。
この問題には大きく三つのポイントがあったのではないかと思います。
第一に、Jリーグの放映権交渉が難航していた点があげられるでしょう。
テレビ放送の減少と放映権料頭打ち
《大東和美・村井満『Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)17頁》
この状態で放映権料のアップは見込めず、現在の年間約50億円前後の額を維持することすら危ぶまれているような状況である。
2002年から現在の枠組みであるNHK、TBS、スカパー!の3社と5年ごとに契約更改を行っているが、交渉は毎回難航している。一般層の関心が高いとは言えず、コア層の有料放送加入が伸び悩む中で放映権料を上げることは非常に難しい。
当時、2007年~2011年までスカパー・NHK・TBSの3社と契約していました*2。
最終的に、2012年~2016年までの5年間も前年までとほぼ同額で合意することができたようですが*3、CS以外の放送数は減少傾向だったことが分かります*4。
《2013 J.LEAGUE PROFILE 24頁より》
第二に、厳しい外的要因が立て続けに起こったことです。
2008年のリーマンショックによって企業の広告宣伝費は削減方向に*5。
さらに、2011年の東日本大震災の影響で入場者数が目に見えて減少しました。
下記のグラフは2007年シーズン以降10年間の平均入場者数(J1)の推移。
平均入場者数は約2600人減少。ある程度回復したものの2010年頃の水準には届いていません。
第三に、当時Jクラブの経営問題が大きな話題となっていた点です。
特に、2009年大分のケース*6、2009年~2010年のヴェルディのケース*7は、金額面だけでなく、経営の透明性やリスク管理などの面でも非常に強い衝撃を与えた出来事でした。
Jクラブの経営問題がクラブライセンス制度導入の直接的な引き金となったわけではないようですが、同様のケースが生じさせないことも導入の目的の一つだったと説明されています。
Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。
《日本経済新聞 2011年5月31日37面》
Jリーグのライセンスマネージャーを務める大河正明・管理統括本部長は「降格させることが目的ではない。継続的にクラブの経営を監視することで、リーグが6億円を融資した大分のような重度の経営危機を予防できる可能性がある」と話す。この制度の導入は、プロクラブとしての品質をアップさせ、リーグのブランド価値を上げる狙いもある。
【蹴球論】Jリーグ「クラブライセンス制度」の成果と課題…屋根とトイレをどうするか
《産経ニュース 2015年10月14日付》
クラブライセンス事務局の青影宜典クラブライセンスマネジャーは「クラブの健全化や収入増につながるよう運用していきたいとの考えから、導入した経緯がある」と話す。このため、3期連続の赤字を計上していないことや、債務超過でないことがA等級となっており、導入時からクローズアップされてきた。
以上の問題が生じていたこともクラブライセンス制度導入の後押しになったのでしょう。
岐路に立つ 栃木SC Jクラブライセンス意義と課題
《読売新聞 2013年2月8日付》
新制度はクラブを「ふるいにかける」ものではない。参加資格を明確化することで、経営の成長と施設整備を促す狙いがある。ぜひ前向きな姿勢で、対応してほしい。
次回述べることとも重なりますが、クラブ運営に基準を設けることでクラブの地力を高め、ひいてはリーグ全体の水準を上げることがクラブライセンス制度導入の背景・目的でした。
[Ⅱ]クラブライセンス制度導入のスケジュール
最後に、クラブライセンス制度が導入された過程をざっとおさらいしておきましょう。
《JFA 2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 10頁より》
《JFA 2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 11頁より》
前述したように、クラブライセンス制度は欧州で普及していたものです。
それをAFCが2013年のACLから導入することを決定しました。
そのため、Jリーグでも2013年のACLに間に合うように2011年からセミナーを実施。
2012年にクラブライセンス制度を制度化して実施するというスケジュールでした。
- 放映権頭打ち、リーマンショック・震災、Jクラブの経営問題等も導入の間接的要因
- Jクラブ全体の水準アップによりJリーグのブランド力アップも狙っている
- クラブライセンス制度は2012年に制度化し、実施された
というわけで今回はクラブライセンス制度の導入背景などを整理してきました。
次回はクラブライセンス制度に関する用語の説明を行っていきます。
引き続きよろしくお願いします。
*1:第1回改正が2012年12月11日(2013年シーズン)、第2回改正が2014年1月31日(2014年シーズン)、第3回改正が2014年12月10日(2015年シーズン)、第4回改正が2015年12月8日(2016年シーズン)、第5回改正が2016年12月7日(2017年シーズン)。
*2:スカパーの全試合生中継を了承《スポーツニッポン 2006年8月15日付》、スカパーのお願い「観客動員120%を」《ニッカンスポーツ 2007年1月26日付》。
*3:J1・J2リーグ戦2012-2016までの5シーズン放送権取得について合意《スカパーJSAT 2011年11月15日付》、スカパーと5年契約更新 Jリーグ放送権《スポーツニッポン 2011年11月15日付》。
*4:契約更新期に放送数が大きく変動している。2007年には、NHK-BSとBS-TBS、地上波ローカルの放送数が激減した。2012年はNHK-BSの放送数が増加したが、BS-TBSがそれ以上に減少しているためBS全体で見るとマイナス。2012年にJ2の放送数が増えているのは純粋に試合数が増えたから。
*5:アルビレックス新潟サポーターカンファレンス2012議事録《アルビレックス新潟 2012年12月12日付 10頁》、第2回カターレ富山「2013ファン・サポーターカンファレンス」議事録《カターレ富山 2013年2月24日付 1頁》、Jリーグの現状分析《KPMGジャパン 2015年9月15日付》。
*6:【大分トリニータ 経営に関する記者会見】会見における(株)大分フットボールクラブ 溝畑宏代表取締役社長コメント《J's GOALアーカイブ 2009年11月20日付》、問題企業の“パス回し”に翻弄された大分トリニータ《日経ビジネスオンライン 2009年11月25日付》、トリニータ経営危機問題《武藤文雄のサッカー講釈 2009年12月10日付》、【全文掲載】大分トリニータのケースに見るクラブ運営の課題と克服(前編) 《Jマガ 2011年4月22日付》、【全文掲載】大分トリニータのケースに見るクラブ運営の課題と克服(後編)《Jマガ 2011年4月28日付》、12億円の債務超過を背負った男J2漫遊記 第9回・大分トリニータ《スポーツナビ 2012年11月7日付》。
*7:東京ヴェルディ 株式譲渡承認の件《Jリーグ.jp 2009年9月17日付》、【東京V記者会見】崔暢亮 代表取締役会長、渡貫大志 代表取締役社長の会見コメント《J's GOALアーカイブ 2009年11月17日付》、東京Vやっぱり火の車…Jが経営陣に退陣要求《スポーツニッポン 2010年1月29日付》、Jが東京Vの経営権一時取得へ《ニッカンスポーツ 2010年5月25日付》。