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サンフレッチェとサッカーに染まった日々

第6回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

今回から、ついにクラブライセンス制度の本題=各種基準に入ります。
各種基準の初回は競技基準と法務基準について。範囲は交付規則33条と36条です。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]競技基準

まず最初に取り扱うのは競技基準です。
いきなり「競技基準」といわれてもさっぱり内容が分からないので目的を見てみます。

交付規則 第33条〔競技基準〕


(1) 競技基準の目的は、以下のとおりである。


① 最高の質を有するサッカー選手が育成され、継続的に輩出されることを確実にすること
② 明確な進路を備えた漸進的な育成体制を確立すること
③ クラブ固有の質を重視したアカデミープログラムを設計し、実施すること
④ アカデミー選手のために、サッカー関連の教育および補足的な理論教育に裏付けられたエリート選手向け技術教育を実施すること
⑤ 全選手のために総合的な医療支援サービスを提供すること
⑥ 適格性を有する人員がエリート選手の育成および管理に従事することを確実にすること


こうしてみると、選手の育成やトレーニング環境に関する基準なのだと分かります。
クラブライセンス制度導入時より目的が充実しており、Jリーグも力を入れているようです*1

続いて、競技基準に関する審査上の項目と等級は下記の通り。


規則番号等級項目記号
S.01A等級選手の育成体制(アカデミーチーム)
S.02A等級アカデミープログラム(Youth Development Programmes)
S.03A等級選手の医療面でのケア
S.04A等級教育プログラム
S.05B等級グラスルーツプログラム
S.06C等級人種的平等の実践
S.07C等級女子チーム
S.08C等級企業の社会的責任(CSR)プログラム
S.09C等級クラブユースアカデミー(Club Youth Academy)
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


この中で注目すべきポイントを具体的に確認していきましょう。

S.01「選手の育成体制(アカデミーチーム)」、S.02「アカデミープログラム(Youth Development Programmes)」ではアカデミー、すなわちU-10、U-12、U-15、U-18の各チームを保有または支援しなければならないとされています*2

他方、女子チームの保有はC等級とされており、必須のものとはされていません。


クラブライセンス制度導入時と比較して気になる改正項目はS.04「教育プログラム」。

交付規則 S.04 教育プログラム(A等級


ライセンス申請者は、JFA審判委員会が説明するレフェリングおよびサッカー競技規則に関するルール講習会、ならびにスポーツ・インテグリティ、ドーピング管理およびその他AFCが求めるテーマに関するイベントやセッションに、選手、監督、コーチ、強化責任者が出席したことを証明しなければならない。


もともとは「レフェリングに関する事項と「競技規則」」という項目で、選手・監督・コーチ・強化責任者が講習会に出席することを義務づける内容でした。

これが拡大され、現在はスポーツ・インテグリティやドーピングに関しても含まれています。

ちなみに、スポーツ・インテグリティを一言で説明するのは難しいのですが、要するに、違法賭博、違法薬物、暴力、ドーピング、八百長などを許さず、スポーツ界の高潔性・健全性を確保しようという取り組みのことだとされています*3

近年のスポーツ界の動きが反映されたのではないでしょうか。


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また、S.05「グラスルーツプログラム」が新設されました。

交付規則 S.05 グラスルーツプログラム(B等級


(1) ライセンス申請者は、サッカーに関する平等なプレー機会を提供するために、ホームタウンに居住する12歳以下の子供を対象とする定期的な催しやイベント(以下「当該プログラム」という)を開催するものとする。


ホームタウンの子どもたちに対して定期的にイベントを開催するというごくごく普通の内容。
注目すべきはこれがB等級の基準とされていることです。すなわち未充足なら制裁の対象。

もっとも、ほとんどのJクラブがクラブライセンス制度導入前からグラスルーツプログラムに関する取り組みを実施しているでしょうから、制裁とは縁遠い基準だとは思いますが。

ただ、施設基準だけだったB等級項目が今後は他基準にも新設される可能性を示しています。


その他の改正としては、いずれもC等級ですが、S.08「企業の社会的責任(CSR)プログラム」とS.09「クラブユースアカデミー(Club Youth Academy)」が新設されたことなどがありました*4

[Ⅱ]法務基準

第二のテーマは法務基準。この基準は唯一その設置目的が示されていません*5

これは、法律上、規約上、規範上守るべきものを守るのが大前提であるということもあるでしょうし、それぞれ別の規約・規定等でその制度趣旨が示されているからかもしれません。


規則番号等級項目記号
L.01A等級AFCクラブ競技会出場への宣言書
L.02A等級クラブの登記情報
L.03A等級他クラブの経営等への関与の禁止
L.04A等級プロ選手との書面による契約
L.05A等級クラブ内の懲戒手続
L.06C等級選手と社員のための行動規範
クラブライセンス制度導入時との比較を記号欄で示している。各記号の意味は次の通り。
 ☆:新設の規定 ○:大きな変更あり △:軽微な変更あり ◆:別の基準から移動した


法務基準の項目は最も少なく上記6個のみ。自然と改正項目も少なめでした*6
内容も示されたものを守るというものがほとんどなので、1点だけピックアップします。

交付規則 L.03 他クラブの経営等への関与の禁止(A等級


ライセンス申請者は、クラブの経営、管理運営および/または競技活動に関わるいかなる自然人も法人も、直接と間接とを問わず、以下の各号のいずれにも該当しないことを宣言する旨の文書を提出しなければならない。ただし当該宣言書は、Jリーグへの提出期限3か月前以内に、クラブの代表者が社印を押印したものとする。


① 同じ競技会に出場している他のクラブの証券または株式を、重大な影響を与えうる割合で保有するかまたは取引すること


② 同じ競技会に出場している他のクラブの株主の議決権の過半数を有すること


③ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、管理運営および監督機関の構成員の過半数を任命するかまたは解任する権利を有していること


④ 同じ競技会に出場している他のクラブの株主であり、かつ、そのクラブのその他の株主と締結した契約に従って、当該クラブの株主議決権の過半数を単独で有していること


⑤ 同じ競技会に出場している他のクラブのメンバーであること


⑥ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、運営管理または競技活動に何らかの地位において関与していること


⑦ 同じ競技会に出場している他のクラブの経営、運営管理または競技活動について何らかの権限を有していること


この「他クラブの経営等への関与の禁止」という基準が2016年ににわかに話題になりました。

というのも横浜マリノスの親会社である日産自動車が、浦和レッズの親会社である三菱自動車工業の株式34%を取得し、筆頭株主となったからです*7


www.sponichi.co.jp


これによって日産自動車マリノスと浦和の両クラブに強い影響力を持つことになりました。

それは拙いということで、Jリーグが「法務基準L.03「他クラブの経営等への関与の禁止」に抵触する恐れがある」と浦和に対して指摘。対応を迫られることになりました*8

なお、この後に浦和の一部株式を三菱重工が取得し、増資もして問題は解消されています*9


Jリーグに限らず、スポーツ界は八百長等の影響を受けやすい性質を持っていますから、このクロスオーナーシップに対する制限は必要不可欠です(ある意味スポーツ・インテグリティ)。

実際、クロスオーナーシップ規制はクラブライセンス制度導入前から規定されていました。

Jリーグ規約 第25条〔Jクラブの株主〕 *10


(5) Jクラブは、直接たると間接たるとを問わず、他のJクラブまたは当該他のJクラブの重大な影響下にある法人の経営を支配しうるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有している者に対し、自クラブまたは自クラブの重大な影響下にあると判断される法人の経営を支配できるだけの株式(公益社団法人または特定非営利活動法人にあっては社員たる地位)を保有させてはならない。


ただし、Jリーグ規約による制限は、経営権の取得に限られていました*11
現実には経営権を取得せずともクラブに影響を与えることは可能でしょう*12

法務基準L.03は、クロスオーナーシップに対する制限を詳細且つ明確にしたものといえます。


<今回のまとめ>

  • 競技基準は、選手の育成やトレーニング環境に関する基準
  • 選手・監督は、競技規則だけでなく、スポーツ・インテグリティやドーピングなどについても学ばなくてはならない時代
  • 法務基準は、法律上、規約上、規範上守るべきものを守るという基準


今回はここまでとして、次回は施設基準の解説をしていきます。



*1:クラブライセンス制度導入時は、①質の高いアカデミープログラムを構築すること、②アカデミー選手のオフ・ザ・ピッチ教育についても支援・奨励すること、③アカデミー選手の医療ケアを充実させること、④ピッチ内外でフェアプレーを遵守すること、という4つが目的とされていた。

*2:Jリーグクラブライセンス交付規則33条2項F.01(1)。

*3:スポーツ・インテグリティ(Integrity)とは?《Jリーグ.jp 2017年6月16日閲覧》、スポーツ界のインテグリティの徹底スポーツ庁 スポーツ審議会スポーツ基本計画部会(第6回) 配付資料3》。

*4:これら以外の改正項目について述べる。まず、細かい点だが、交付規則S.01とS.02の順番が入れ替わっており、S.04にあった「プロ選手との書面による契約」が法務基準L.04に移動した。交付規則S.02(1)について、従来は「アカデミー認定の有効期間」もアカデミー申請書に記入する必要があったが現在は削除されている。運用細則のS.01について、U-10、U-12、U-15、U-18の定義が削除された。運用細則S.02の1について、アカデミー申請書の提出期限が4月30日から6月30日に変更されている。また、運用細則S.02の3(1)は削除されており、3(2)の②と③が変更された。運用細則S.04の2について、「「ルール講習会」においては、講習会当日にJリーグ(前条第2項に該当する場合はJFL)または講師が出席者を確認のうえ、ライセンス申請者が出席者リストを作成したかどうか」が削除された。運用細則S.06とS.07について、資料等の提出期限が6月30日とされた。

*5:Jリーグクラブライセンス交付規則36条。

*6:改正内容について簡単に説明する。L.01における宣言書の内容に「⑦電子システム等により提出済みのすべての文書、資料および情報は完全かつ正確であること」が追加された。L.02で提出する書類が「登記簿謄本」から「履歴事項全部証明書」、「印鑑登録証明書」の2点に変更された。L.04は競技基準S.04から移動したものである。

*7:日産自動車と三菱自動車、戦略的アライアンスを締結 日産、2,370億円で三菱自動車株34%を取得へ三菱自動車 2016年5月12日付》。

*8:浦和、一部株式を三菱重工が取得。日産自動車とのクロスオーナーシップ抵触を回避へフットボールチャンネル 2016年10月31日付、日産傘下入りの浦和、株主構成の変更により「赤を守る」《ゲキサカ 2016年11月1日付》。

*9:浦和レッドダイヤモンズの株式取得に関するお知らせ三菱重工 2017年10月31日付》、浦和レッズ、地域密着経営一段と 地元企業など16社が出資日本経済新聞 2017年1月26日付》。

*10:なお、現行のJリーグ規約からは削除されている。Jリーグ規約・規定集2016 20頁。

*11:なお、Jリーグ規約・規程集2017に掲載されたJリーグ規約(2017年1月25日改正)において25条5項の内容は削除されている。Jリーグ規約・規定集2017 20頁。

*12:例えば、筆頭株主ではなくとも議決権の1/3以上を保有することで株主総会の特別決議に対して拒否権を発動できる(会社法309条2項)。