第10回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)
ついに本シリーズも大台に乗りました。乗ってしまいました。
前回のシリーズはギリギリ9回で収まったのですが…。
あともう少しだけお付き合い下さい。
今回は前半部分でAFC規則との関係について確認します。
後半部分では、AFC規則の各種基準と交付規則の各種基準との比較検討を行います。
<Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次> | |
回数 | 内容(交付規則の対象条文) |
---|---|
第1回 | クラブライセンス制度導入の背景 |
第2回 | クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条) |
第3回 | クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条) |
第4回 | ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条) |
第5回 | ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条) |
第6回 | 競技基準、法務基準(33条、36条) |
第7回 | 施設基準(34条) |
第8回 | 財務基準(37条) |
第9回 | 人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条) |
第10回 | AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条) |
第11回 | クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条) |
第12回 | 上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条) |
第13回 | J3クラブライセンス交付規則について |
第14回 | クラブライセンス制度の全体像、おわりに |
[Ⅰ]クラブライセンス制度とAFC規則との関係
まず、AFC規則との関係について確認しておきたいと思います。
AFC規則とは、AFC版交付規則にあたる「AFC Club Licensing Regulations」のことです*1。
そして、第1回で説明したようにAFC規則はACL参加資格を定めるために設けられました*2。
しかし、AFCがアジア全域のクラブを一つ一つ審査するというのは現実的ではありません。
そこで、Jライセンスが交付されたクラブで、ACLの出場資格を有するクラブはAFCライセンスが交付されたものとみなすという簡便的な方法を採用しているのです。
交付規則 第29条〔AFCクラブ競技会への出場資格の承認〕
(1) Jライセンスを交付されたクラブは、国内競技会の結果、AFCクラブ競技会への出場資格を得ることを条件として、AFCライセンスを交付されたものとみなされる。
この方法を認めるためには、AFC規則に定める要件を交付規則でも求める必要があります。
そうしなければAFC規則が有名無実化してしまいますから。
このことが書かれているのが交付規則2条です。
交付規則 第2条 〔AFC規則との関係〕
(1) 本交付規則は、AFC規則の定めに従って、Jライセンスのみならず、AFCチャンピオンズリーグの出場資格(以下「AFCライセンス」という)に関しても必要な事項を定めるものである。この関係において、本交付規則は、AFC規則に規定されるAFCライセンスの各基準およびライセンス交付プロセスにおける必須要件を全て規定する。
(2) Jライセンスに関する基準がAFCライセンスの基準の最低要件より厳格化されまたはAFCライセンスの基準の最低要件に追加されている場合は、当該厳格化または追加された基準は、AFCライセンスに準用されるものとする。
ここで注目するべきは交付規則2条2項の規定。
交付規則における基準をAFC規則のそれよりも厳しくすることを認容しています。
実際、Jリーグのクラブライセンス制度はAFCのものよりも厳しく作られているそうです。
クラブライセンス制度とは何か?2013年導入を目指すJリーグの不退転
《スポーツナビ 2012年1月20日付》
今回はAFCからの通達ということもあり、日本としてはアジアのトップとして模範を示すという意図もあったのだろう。Jリーグは「AFCクラブライセンス交付規則よりやや厳しめのレベルで日本版のクラブライセンスを作る」(資料より。以下、同)という判断を下した。そして日本で定めるルールは「J1・J2・準加盟に関係なく、一部を除いて全クラブ共通」とすることとなった。
キーマンが描く20シーズン目の航海図 ~改革の先にある10年後のJリーグとは?~(後編)
《フットボールチャンネル 2013年5月8日付》
そして第三点が、今後のアジア戦略。リーグとして、アジアでトップを維持しておかないと、これからのグローバルの時代に対応できない、というのがあります。確かに、アジア各国のプロリーグの仕組みというのが、必ずしもレベルが高いというわけではない。とはいえ、それに満足しているようでは、日本のサッカーの発展は望めないだろうと。(AFCが定めるライセンス制度よりやや厳しくしたのは)そういった考えがベースにあります。
ただ、厳しい規定を設けているとはいえ、Jリーグの審査が甘くては意味がありません。
そのため、AFCにはJリーグをチェックする権利が留保されていますし、(全てではありませんが)AFCの決定がJリーグの決定に優先する場合も認められています。
交付規則 第9条 〔AFCによる検査〕
(1) AFCまたはその指名する機関もしくは代理人(これらを総称して「AFC調査人」という)は、本交付規則およびAFC規則の遵守状況を調査するため、Jリーグに対し抜き打ち検査を行うことができ、Jリーグが本交付規則またはAFC規則に違反していると判断される場合には、その違反行為の性質と重大性に鑑み、JリーグはAFCから制裁を受けることがある。
交付規則 第41条〔本交付規則に定めのない事項〕
(2) 前項の定めに関わらず、本規則に規定されていない事項のうちAFCクラブ競技会への出場に関連する事項に関しては、AFC規則に基づきAFCが決定を下すことがある。この場合、AFCの決定がJリーグの決定に優先する。
以上のことから、AFC規則はJリーグクラブライセンス交付規則の上位法のような位置付けという風に考えておけばいいのではないでしょうか。
[Ⅱ]Jライセンスを有しない場合のACL出場権
少し本題から逸れてしまいますがACL出場権についてもうちょっとだけ見ておきます。
ACL出場権は現行制度上、J1リーグ戦の1位~3位と天皇杯王者に与えられます*3。
J1リーグの1位~3位についてはCS制が廃止された今、特に疑問もないでしょう*4。
問題は、J1・J2・J3クラブだけではなく、JFL以下のチームも参加可能な天皇杯*5。
前述の通り、AFCライセンスが交付されるのは原則としてJライセンスが交付された場合。
そして、これまで何度か確認したようにライセンス申請者はJ1・J2・J3クラブのみ*6。
すなわち、JFL以下のクラブはJライセンスを取得することはできません。
では、例えば、いわきFCが今年の天皇杯で優勝してもACL出場権を得られないのでしょうか*7。
結論から言うと、出場権を得られる可能性はあります(あくまで可能性です)。
それがAFCライセンスの臨時適用申請という受け皿的制度。
交付規則 第30条〔AFCクラブ競技会出場の臨時承認〕
(1) Jライセンスを保有していないクラブが、国内競技会の結果によってAFCクラブ競技会への出場資格を得た場合、Jリーグは、JFAを通じ、当該クラブに代わり、AFCに対し、AFCライセンスの臨時適用を申請することができる。
この臨時適用申請の運用方針は(調べていないのと事例がないので)不明です。
後述しますが、AFC規則にはスタジアムのキャパシティに関する定めはありません。
したがって、スタジアムのキャパシティを理由にNGが出ることはないと思います。
ただ、先日物議を醸したプレスリリースにあるナイター設備はACLの日程上必要でしょうが*8。
[Ⅲ]AFC規則と交付規則の基準比較
本稿において交付規則における各種基準はAFC規則のそれより厳しいと説明しました。
では、実際にどのような点に違いがあるのでしょうか。確認してみましょう。
全部細かく見るのはさすがに無理なので、どんな内容があるのか、それらの等級は何か、という点を比較しながらポイントを押さえていきたいと思います。
まずは競技基準。少し分かりにくいですが、対応する条文を矢印で結んでいます。
黄色で塗りつぶしている部分は交付規則に対象条文がない項目。
競技基準で言えば、女子チームの創設はJリーグ独自の項目ということです。
施設基準は6項目がJリーグオリジナルのもの。
特に、Jクラブを悩ませるキャパシティ・屋根・トイレが独自項目なのは意外かもしれません。
また、いくつかの項目で等級が上がっていることも分かります。
人事体制・組織運営基準にはオリジナルが4項目あります。
第9回で見たように、コンプライアンス・オフィサーはJリーグが独自で力を入れている項目。
おそらくクラブライセンス制度には各国のリーグの特色が表れるのでしょう。
法務基準にはあまり変化はありません。
最後に財務基準。こちらも等級が上がったくらいで大きな違いはなさそうです。
ただし、今回比較を行っているのはあくまでも項目名と等級のみ。
実際には、その運用方法(判定等)に違いがある場合も少なくありません。
その代表例が財務基準における三期連続赤字と債務超過の禁止。
この2つの基準はJリーグ独自のものでAFC規則には存在しないものです。
以上のように、AFC規則よりも交付規則上の基準の方が厳しいことが確認できました。
施設基準と財務基準の中でも特にJクラブを特に悩ませる基準がJリーグ独自のものだったというのは意外なものですし、賛否の分かれるところでもあるでしょう。
- Jライセンスを有するJクラブが成績要件を満たせば自動的にAFCライセンスを取得する
- Jリーグクラブライセンス交付規則の基準はAFC規則よりも厳しめ
- スタジアムの収容人数・屋根・トイレ、三期連続赤字・債務超過の禁止はJ独自基準
*1:Jリーグクラブライセンス交付規則 定義集。
*2:2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7《財団法人日本サッカー協会 2010年5月20日開催 2頁》。
*3:来季ACLの出場枠は2+2?リーグ2位はプレーオフから出場も《ゲキサカ 2016年8月24日付》。
*4:2015年~2016年シーズンのJ1リーグにおいて、ACL出場権は現在と変わらずリーグ戦上位3チームに与えられていたが、リーグ戦の順位付方法が現在と異なっていた。すなわち、CS決勝の優勝クラブがリーグ1位、CS決勝の準優勝クラブがリーグ2位となり、リーグ3位以降はCS決勝戦出場チームを除く年間勝点の順位で決定する方式。【2015Jリーグ J1リーグ】大会方式および試合方式について ~2015明治安田生命J1リーグおよび2015Jリーグチャンピオンシップ~《Jリーグ.jp 2014年12月16日付》。
*5:ただし、第95回大会より第2種加盟登録チームの出場は認められていない。第95回天皇杯全日本サッカー選手権大会 大会概要《Jリーグ.jp 2017年6月26日閲覧》。
*6:Jリーグクラブライセンス交付規則18条。
*7:残念ながら記事公開前にいわきFCは清水エスパルスに敗れて敗退した。第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会 試合結果《日本サッカー協会 2017年7月12日付》。
*8:2017年のACLにおいて済州ユナイテッドと浦和レッズの試合は、試合会場にナイター設備がないためデーゲーム開催となった。ただし、本ケースはU-20W杯の開催により本拠地が使用できないという特殊事情があったため、例外的な取扱いが認められたようである。したがって、そのような特殊事情がない限り例外的な扱いは受けられない可能性がある。【ACL】浦和不利?チャンス? 済州のメインスタジアム使えず《サッカーダイジェストWeb 2017年5月24日付》。