第5回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)
前回、Jライセンスの申請・審査・決定フローの説明をしました。
今回はJライセンスの交付上の取扱について確認していきたいと思います。
なお、今回のテーマについてはクラブライセンス制度導入時から大きな変更はありません。
<Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次> | |
回数 | 内容(交付規則の対象条文) |
---|---|
第1回 | クラブライセンス制度導入の背景 |
第2回 | クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条) |
第3回 | クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条) |
第4回 | ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条) |
第5回 | ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条) |
第6回 | 競技基準、法務基準(33条、36条) |
第7回 | 施設基準(34条) |
第8回 | 財務基準(37条) |
第9回 | 人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条) |
第10回 | AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条) |
第11回 | クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条) |
第12回 | 上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条) |
第13回 | J3クラブライセンス交付規則について |
第14回 | クラブライセンス制度の全体像、おわりに |
[Ⅰ]Jライセンス決定後の取扱い
前回の最後で説明したように、Jライセンス決定会議の決定には、Jライセンスの交付、制裁付き交付、不交付という3種類のものがあります*1。
このうち、Jライセンスの単純な交付と不交付について詳しい説明は不要でしょう。
以前も解説しましたが、JライセンスはJ1・J2の参加資格を意味しますので*2、交付されるならその参加資格があり、不交付なら成績は関係なしに参加資格を有しないというだけです。
というわけで、今回取り扱うテーマはJライセンスの単純な交付と不交付以外のパターン。
単純な交付と不交付以外のJライセンス交付方法には、実務上も含めて3種類あるようです。
1つ目が、これまでも何回か触れてきた制裁付き交付。
B等級基準未充足によるもので、Jライセンスは交付されますが制裁もついてきます。
交付規則 第8条 〔ライセンス制度上の制裁〕
(1) ライセンシーまたはライセンス申請者にB等級基準の未充足があった場合、当該ライセンシーまたはライセンス申請者はFIBまたはABにより以下の制裁(ただし、当該制裁は網羅的なものではない)が科される可能性がある。ライセンシーまたはライセンス申請者は、シーズンの開始前のみならず、シーズン中にも、制裁が科されることがある。
ちなみに、クラブライセンス制度上の制裁にはいくつか種類があるのですが、今回それを取り扱うと大変なことになる(文量的な意味で)ので第11回の補足説明で取り扱います。
2つ目が、Jライセンス交付に合わせて是正措置を通達する場合。
交付規則15条に規定されているように、これはクラブ経営上に関する内容が対象です。
交付規則 第15条〔FIBの権限および義務〕
(6) FIBパネルは、Jライセンス交付の可否を決定するにあたり、ライセンス申請者に対し、付帯事項としてクラブ経営上の是正措置を通達することができる。
3つ目が、条件付きライセンス交付。
これは交付規則や運用細則で具体的に定められているものではないようです。
したがって、「本交付規則に定めのない事項」に該当するものと考えられます。
交付規則 第41条〔本交付規則に定めのない事項〕
(1) 本交付規則に規定されていない事項については、Jリーグ理事会がこれを決定する。
今回は以上の3パターンについて確認していきたいと思います。
[Ⅱ]制裁付き交付の運用方針
クラブライセンス制度導入から5年が経過していますので制裁事例も出ています。
そこで、これまで実際に科された制裁内容からその運用方針を探ってみましょう。
B等級基準未充足による制裁は前述したようにB等級基準未充足の場合に科されます。
次回以降で詳しく取り扱いますが、B等級基準には、特にクラブ単独で解決することが容易ではないスタジアムの屋根とトイレに関する基準が含まれています。
そのため、クラブライセンス制度導入初年度から制裁対象クラブが出ました。
初年度は41クラブのうち、36クラブに制裁が科されていますからほとんどのクラブが対象。
クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ.jp 2012年9月28日付》
(2) B等級基準未充足
【注】クラブライセンス交付規則の用語上、「制裁」という厳しい言葉になっているが、本件における制裁の内容は「文書提出」である。具体的には、「2013シーズンにおいて使用することを予定するスタジアムの衛生施設および屋根の不足を理由とする観客に対するホスピタリティの欠如に対し、クラブが実施しているまたは実施を予定しているホスピタリティ向上策について、2012年10月31日までに書面で回答すること(ライセンス事務局が受付、FIBへ送付)」となっている。
このように、2013年シーズンライセンス決定では文書提出が科されています*3。
ただ、初年度は上記のように注書きで「制裁とは名ばかり」というようなフォローまで入れてくれていたのですが、2年後の2015年シーズンライセンス決定から一転厳しくなりました。
クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について
《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》
■ホームスタジアムのトイレの数および屋根のカバー率に関するB等級基準未充足
制裁対象となっているホームスタジアムと対象クラブ、制裁内容は以下の通り。
未充足項目
トイレの数(対象:2クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・クラブはトイレの洋式化の計画または構想を2014年12月31日までに提出する
未充足項目
屋根のカバー率(対象:11クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・AFC主催大会のホームゲームが開催できない可能性があることを通知する
・クラブは屋根のカバー率不足への対応策または構想を2014年12月31日まで提出する
未充足項目
トイレの数と屋根のカバー率(対象:11クラブ)
制裁内容
・対象スタジアム名を公表する
・AFC主催大会のホームゲームが開催できない可能性があることを通知する
・クラブは抜本的な施設改善計画(今後の活動計画)を2014年12月31日までに提出する
・2015年の審査時に計画の進捗が見られない場合には「戒告」とする
文書提出が求められている点は変わりませんが、対象スタジアム名の公表と今後戒告処分となる可能性について言及した警告が出ています*4。
さらに、2016年シーズンライセンス決定では、戒告処分の警告こそ無くなりましたが、トイレの数と屋根のカバー率の両方が未充足のクラブには「2016年の審査時に活動報告および翌年のクラブライセンス審査時までの活動計画を提出」と「活動報告および活動計画に関連し、クラブライセンス事務局が個別文書を発信する可能性がある」が追加されています*5。
このように、B等級基準未充足による制裁は重くなる傾向が認められます。
第1回で説明したように、クラブライセンス制度はJクラブの水準アップも目的の1つでした。
逆に言えば、基準を示しているにもかかわらず何年たっても変わらないのでは困ります。
そのため手を変え品を変え、なんとかB等級基準充足クラブを増やそうとしているのです。
他方で、スタジアム問題はJクラブ単独でどうにかできるものでもありません。
スタジアム新設や大規模改修がおこなわれる場合は話が別ですが、そうではないクラブについては(矛盾するようですが)現状のように軽微な制裁が続くものと考えられます。
[Ⅲ]クラブライセンス制度上の是正措置通達
次に取り扱うのはクラブライセンス制度上の是正措置通達。根拠条文は前述の通り*6。
この是正措置通達には是正通達と個別通知の2種類があるようです。
クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》
(3) クラブ経営上の指導
Jライセンス判定には直接関係ないが、判定に際し、クラブに経営改善を促す目的で、FIBが独自に指導を行うことができる。指導には「是正通達」および「個別通知」があり、「是正通達」のほうが重い指導となる。
是正通達
Jライセンス交付判定に付帯して、クラブ経営上是正すべきと思われる点について、FIBが対象クラブに通達を出す。通達の内容は公表する。(※対象:12クラブ)
個別通知
「是正通達」とまではいかないが、FIBからのクラブ経営上改善を要請する旨の指摘があった場合、それを受けたライセンスマネージャーが対象クラブに個別に指摘事項を通知する。(※対象:5クラブ)
個別通知よりも是正通達の方が重い措置で、内容も公表されることになります。
ただ、それだと現状のB等級基準未充足による制裁と変わらないような気もします。
財務基準に関わる措置なので厳しいものとなっているのだと受け止めるべきでしょうか。
なお、是正通達の具体的な中身は、①当年度の損益見通しをJリーグに定期的に報告すること、②翌年度予算編成時にJリーグに事前に説明すること、だとされています*7。
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[Ⅴ]条件付きライセンス交付
最後に、条件付きライセンス交付について説明を加えます。
過去のJリーグによるプレスリリースをまとめると次のとおり*8。
該当シーズン | 該当ライセンス | 対象クラブ | 条件の内容 |
---|---|---|---|
2013年シーズン | J1ライセンス | 大分トリニータ | 融資の返済 |
〃 | J2ライセンス | V・ファーレン長崎 | J2入会審査に合格 |
2014年シーズン | J2ライセンス | 町田ゼルビア | J2入会審査に合格 |
〃 | 〃 | ツエーゲン金沢 | J2入会審査に合格 |
〃 | 〃 | カマタマーレ讃岐 | J2入会審査に合格 |
2015年シーズン | J2ライセンス | ガイナーレ鳥取 | 停止条件充足(増資) |
4クラブがJ2入会審査を求められたのは当時の交付規則20条の規定によるものです。
余談ですが、交付規則20条は2014年12月10日の改正で削除されたため現在はありません。
交付規則 第20条 〔ライセンス申請者が準加盟クラブの場合の特則〕*9
ライセンス申請者がJリーグ準加盟クラブの場合は、第 22 条の定めのほか、Jリーグ規約第 15 条に定める審査を経て、Jリーグ理事会がJ2会員としての入会を承認しなければ、Jライセンスを付与されないものとする
一方で、大分や鳥取はそうした理由ではなく財政状態やキャッシュフローの問題。
第1回でも少しだけ触れていますが、大分は2009年頃経営危機に陥っており、その際Jリーグ公式試合安定開催基金から借入を行っていましたので*10 、その返済を求められた形*11。
鳥取は、2014年10月30日までに条件(増資)を達成できればライセンス交付というもの。
プレスリリースにもありますが、資金繰りに懸念があったのでしょう。
2015シーズン クラブライセンス交付について
《ガイナーレ鳥取 2014年9月29日付》
この度のクラブライセンス審査を通じて、弊クラブの財務管理能力の未熟さと今期及び来期のキャッシュフローの維持、つまりクラブ持続可能性が論点となりました。資金難の中、来季J2に向けて可能性はつながったと考えておりますが、クラブ代表としましては今回のライセンス付与条件のクリアは対処的な措置に過ぎないと考えており、根本的な基盤整備やガイナーレ鳥取の方向性を再度見つめ直す作業は避けて通れないと考えます。関係各位のご指導ご協力を仰ぎ、今後についての議論を進めて参る所存です。
財務基準の回で詳しい内容について解説しますが、大分は借入金返済の目途が*12、鳥取は増資の目処が立っており*13、これが「ライセンス申請者の財務状況に(好影響か悪影響かを問わず)影響を及ぼし得るような経済的重要性のある事象」に該当し、それを加味して条件付きのライセンス交付となったのかもしれません*14。
いずれにせよ、クラブライセンス制度を(良く言えば)柔軟に運用した結果、条件付きライセンス交付というような取扱いが存在しているものと考えられます。
- Jライセンス決定会議の決定には交付、制裁付き交付、不交付の3つがあるとされているが、実務上は是正措置通達付き交付と条件付き交付というケースもある
- B等級基準未充足による制裁は年々厳しくなる傾向にあるが、その性質から過度な制裁を科すことは難しい
- 是正措置通達はB等級基準未充足による制裁と同じような厳しさ
- 条件付き交付は根拠条文がなく、内容もクラブによって様々
長くなってしまいましたが、今回はここまで。
次回からついに各種基準の解説に入っていきます。
*1:Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 フロー11。
*2:Jリーグクラブライセンス交付規則1条、21条1項。
*3:なお、2014年シーズンライセンス決定における制裁は、2013年シーズンライセンス決定におけるそれと同内容。クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》。
*4:なお、調べた限りでは戒告処分とされたクラブはないようである。ただし、非公表の場合は除く。
*5:クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2016シーズン Jリーグクラブライセンス判定について《Jリーグ.jp 2015年9月29日付》。
*6:Jリーグクラブライセンス交付規則15条。
*7:クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》。
*8:クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2012年9月28日付》、クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》、クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》。
*9:ここではクラブライセンス交付規則2013(2012年12月11日改正)の条文を引用している。クラブライセンス制度導入時の条文とは多少違いがあるが大筋は同じ内容。
*10:Jリーグ公式試合安定開催基金の設置について《Jリーグ.jp 2005年7月19日付》、Jリーグ「公式試合安定開催基金」借入申請について (株)大分フットボールクラブ 代表取締役 溝畑宏のコメント《J's GOALアーカイブ 2009年11月11日付》。
*11:リーグ戦安定開催融資規程において、「制度融資を受けたクラブが第5条および第8条に基づき決定された返済期日までに融資を返済できなかった場合、当該クラブに対しては、返済期日の属するシーズンの翌シーズンのJリーグクラブライセンスまたはJ3クラブライセンスを原則として交付しない、または取消すものとする。」と規定されている(リーグ戦安定開催融資規程12条2項)。
*12:【トリニータ】借入金、きょう完済へ《大分合同新聞社 2012年10月12日付》。
*13:2015シーズン クラブライセンスにおける停止条件の充足について《ガイナーレ鳥取 2014年10月29日》。
*14:Jリーグクラブライセンス交付規則37条4項F.05(2)。