サンフレッチェ広島 2018年通信簿(その四) グッズ・広報編
その三では観客数の推移と試合企画・チケット企画などの集客対策を振り返りました。
その四では、まず最初にグッズ販売について確認し、続いて広報関係を振り返ります。
画像マシマシなので量の割に重くない、はず。
[Ⅰ]グッズ販売
①2017年度のグッズ売上
まずはグッズ販売から見ていきましょう。
グッズ売上に関しては2016年度から各クラブの数字が公表されるようになっています*1。
そこで、2017年度トップ20をまとめると共に前年の売上との比較を表にしてみました。
このようにサンフレッチェ広島はJリーグ全体で9位。
その一方で前年比1億2500万円の減収かつ、順位も5位から9位に落としています。
この原因は優勝グッズなどの売上計上が翌年にずれ込んだからではないかと推察されます*2。
実際に、2013年度のグッズ売上が伸びた背景には2012年の優勝があったそうです。
第12回サポーターズカンファレンス議事録
《サンフレッチェ広島 2014年1月18日開催》
テーマ1 クラブについて(小谷野薫社長)
そうしたなかで、グッズ収入の伸びが注目されます。今年度は4.0億円と昨年度3.4億円から0.6億円の増加が見込まれます。2012年シーズンの優勝記念グッズの一部のデリバリーが遅れたことから本年度に昨年度から収入がずれ込んだ面もありますが、ついに4億円到達とリーグでも3~4位の水準に近づいています。
近年は優勝時は4億円強、平常時は3億円台で推移していたようです*3。
したがって、2017年度の大幅な減収は、2016年度のグッズ売上が2015年の優勝の影響で特別跳ねているだけであって、そこまで不安に感じる必要はないと推測しています。
②2018年度のグッズ開発・販売
では2018年度のグッズ販売はどうだったのでしょうか。
2017年度J1クラブ決算数字開示を受けてここまでの成果と課題~山本拓也社長に聞く
《紫熊倶楽部 247号19頁》
「ただ、今季の(物販販売の)スタートは悪かった」と山本社長は振り返る。「最大の要因は、単価の高いユニフォーム販売の低迷ですね。やはり昨年の戦績の影響もある。今年はユニフォームを買ってまで応援したいという方が減ってしまった。
(中略)
今年の出遅れを取り戻すべく、マーチャンダイジング担当と、何をいつ、どれくらい売っていくのかをはっきりとさせました。それによって何月に何を出そうということが整理されてきたし、(ピースマッチの)記念ユニフォームをご購入頂けたこともあって、目標に近づいてきた感があります。
上記のようにスタートダッシュに失敗したものの盛り返すことはできたようです。
では、2018年にどのようなグッズを企画販売したのか見ていきましょう。
まずはなんと言っても一番話題になったこちらの商品を取り上げないわけにはいきません。
《サンフレッチェ広島より》
箸という実用的なグッズであり、クラブ名の由来にもかかっている。
しかも面白さまで兼ね備えた全方面で完璧な史上最高クラスのグッズでした。
商品名を「1.5膳」と引っかかりやすくしたのもいいアイディアだったと思います。
ピースマッチ記念ユニも売れたそうですが、こちらの子犬用ユニもなかなか可愛い。
2015年にドッグシャツを販売していましたが背番号付きの方がいいですね*4。
《サンフレッチェ広島より》
川崎フロンターレとのコラボグッズも話題性がありました。
他クラブとのコラボはあまり記憶がありません。試合結果も記憶にありません。
《サンフレッチェ広島より》
JFK(じょうふく)Tシャツやパトリックモデルのフォームフィンガーも発売。
選手ら広告塔に絡めた話題性のある商品開発はプロスポーツクラブにとってグッズ販売の肝。
その点について山本社長は次のように語っています。
2017年度J1クラブ決算数字開示を受けてここまでの成果と課題~山本拓也社長に聞く
《紫熊倶楽部 247号19頁》
自分自身の経験と照らし合わせても、ちょっと気付きが遅い。たとえば、何でパトリックをやらないのか。パトリックのTシャツを着て、パトリックのポーズをやりたくなるんじゃないのか。そういうことも伝えています。ただ城福監督のTシャツが「売れた」という経験は大きいですね。このシャツについては、企画時に「監督が嫌がるのではないか」と。でもそのことを、監督に確認していないのに、心配しているわけです。タイミングを見て確認してみると、監督は「全く問題ない」という。一歩出る、そこがどうしても遅かった。ただ今は、「行けっ」と言ってますし、確かめもせずに逡巡することはない。
上記以外では、熊に絡めた熊野筆の「クマの筆」や「勝福!!サンフレ熊手」*5。
また、プロレスマスクや選手ハンガーのように尖った商品もありました*6。
ファン感謝デーで販売した「工藤家の揚げおからぎょうざ」・「青山珈琲」も会場で展開*7。
このように、グッズの企画力は年々身についています。
今後は社長の指摘するように展開スピードを向上させることが課題なのでしょう。
[Ⅱ]広報
①ユニフォーム発表会とパブリックビューイングと前日練習
2018年の広報関係で大きく変わったことはファンと接する機会が増えたこと。
その代表例の一つが新ユニフォーム発表の方法です。
従来の会場はホテルでしたが、2018年はエディオン蔦屋家電のオープンスペースで開催*8。
また、パブリックビューイングを数多く実施した一年でした。
特筆するべきは基町クレド・パセーラ1Fふれあい広場を会場として使用したことでしょう。
基町クレドでのPVはおそらく2007年のJ1・J2入れ替え戦以来のこと*9。
勝利には恵まれませんでしたが、今後も続けたい積極的なPRイベントでした*10。
こうした施策はすそ野を広げていくために必要なことでした。
SpecialInterview 顧客戦略部長兼サッカースタジアム建設推進室長 信江雅美さん
《紫熊倶楽部240号20頁》
優勝を3回も重ね、強いチームを好きになってくれた方がありがたいことにたくさんいらっしゃいます。でも裾野がまだまだ。そこは我々フロントの努力不足です。育成組織も含め、どう好きになってもらい、関心を持ってもらって、スタジアムまで見に来てもらえるか。裾野の広いマーケティングピラミッドを作ることを、フロントとしては頑張りたい。
また、試合会場以外でのファンサービスにも意欲的に取り組みました。
開幕前に次のように説明しており、市内での練習機会を増やそうとしていたことが伺えます。
第16回サポーターズ・カンファレンス議事録
《サンフレッチェ広島 2018年1月20日開催》
顧客戦略部の取り組みについて(顧客戦略部長 信江雅美)
昨年は、通常は吉田サッカー公園で行っているチーム練習を、何とかエディオンスタジアム広島で公開することができないか、そのときにハイタッチなどのファンサービスができないかと考え、回数は少なかったですが、そういう機会を作りました。告知が直前になったにもかかわらず、1000人くらいの方に来ていただきました。こういう機会もぜひ増やしていきたいと思います。先ほども「チーム練習を見たい」という声がありました。チーム練習を見ていただき、あとで少しでもファンサービスを、という形を継続的におこないたいと考えています。
もちろん吉田サッカー公園での練習見学、その後のファンサービスは継続してまいります。吉田までお越しいただいている方々には、本当に感謝の言葉しかありません。ただ、吉田に来ていただける方は、既に少なからずサンフレッチェのことを好きになっていただいた方ですが、練習やファンサービスをきっかけに、これから好きになる方を増やしていきたいと考えています。そのためには、我々のファンになっていただけるかもしれない、大多数の方が住んでいる広島市内で、こういう機会を増やしていくことが非常に大事だと思っています。
実際に好調だった序盤は現場も協力的でフロントと現場が一体となっていました。
しかし、中盤以降はその機会が激減。その理由は次のように説明されています。
城福浩監督 2018年シーズン総括記者会見
《サンフレッチェ広島携帯サイト 2018年12月6日付》
……練習の非公開について。
城福●最初は全てを公開していたのですが、非公開にした理由はセットプレーです。セットプレーでの得失点を逆にしたいという想いの中で、選手たちが経験したことのない緻密さを求めたんです。試合前日、トリックプレーも含めて綿密にやった。そうでないと目標を達成できないと思ったので。その中で、ある試合で「絶対にそういう守備の立ち位置とか、やり方はしてこないだろう、なのに」ということがあった。トリックをしようとしたことが全てばれていた。サポーターと共に(相手チームのスタッフが)トレーニングを見ていたとしか、思えなかった。実際、その試合は勝てなかった。だから勝てなかったとは言わない。ただ、セットプレーで緻密さを保つにはトレーニングを公開できないと思ったんです。
(中略)
ただ、サポーターには本当に申し訳ないと思っています。来季については、相手に漏れない対策があれば少しでも多く公開したい。吉田まで来て頂くのは、サポーターの皆さんにとっては大変な労力。市内での練習は貴重な機会。ただ、勝負が決まるトレーニングの日にスタッフを派遣するクラブがあることは経験したこと。そこも含めて、ご理解いただければと思います。
こうした現場の意見は理解できるもので「仕方がない」としか言いようがありません。
スカウティングにかかるコストが増加することによる自衛というのは確かにあるでしょう。
ならばセットプレーの練習を別の日にすればいいという批判が考えられます。
しかし、戦術的ピリオダイぜーションの考え方からこれを採用することはできません*11。
このジレンマに対する回答を2018年中に見つけることができませんでした。
サンフレ2018 シーズン総括 <下> 伸びぬ集客 V争い 盛り上げられず
《中国新聞 2018年12月5日18面》
会場外のファンサービスも思うように進まなかった。新たなサポーター獲得を目指し、広島市内での練習を増やそうとしたが、城福監督の要望で7月以降、エディオンスタジアム広島である試合前日練習を非公開に。ファン対応も取りやめた。
サポーターの不満はくすぶる。広島市安佐南区の会社員山田国治さん(40)は「戦術的な練習が非公開なのはしょうがない。せめてサインなどファンサービスはしてほしい」と訴える。久保雅義事業本部長は「クラブのことを知ってもらうために、どうあるべきか現場と話し合いたい」と再考する。
2019年シーズンどう取り組むこととしたのかは来年改めてチェックしたいと思います。
②ホームページ・SNS運用
HP・SNS運用に関して深く掘り下げると長くなるので簡潔にピックアップしていきます。
まず、プレスリリースの発表方法について2018年から大きな変更がありました。
それが従来は中国新聞頼りだった契約更改選手の発表。
中国新聞はかなり網羅的に報じてくれていましたが、多少漏れもありました。
特に新人選手の契約関係は不透明な部分が多く、それが2018年からはっきりした形です。
ただ、この方式を採用すると中国新聞の需要が減衰しないかという懸念もありますが、野球報道で培った年俸情報があるので、そこまで喧嘩しないのではないかと想像しています。
また、スタッフの契約関係の情報をきちんと発表するようになったことも大きな変化でした*12
特に吉崎健チーフトレーナーはこれまでの広島を下支えした重要な方でした。
これまでお疲れ様でした。本当にありがとうございました。
SNSの方に目を向けると、ユニフォーム情報を徐々に解禁する方法を採用しました。
2018シーズンユニフォームの一部を"チラ見せ"👀
— サンフレッチェ広島 公式 (@sanfrecce_SFC) 2017年12月26日
1月の発表に向け、少しずつ公開していきます✨#nikefootball #sanfrecce pic.twitter.com/Pl0zWuUBPL
オンライン上の広報において話題の持続性は非常に重要なポイントです。
シーズンオフの話題提供にもなりますし、いい取り組みだったのではないでしょうか。
そして、InstagramとTwitterでは「#サンフレパープル」という企画を実施しました。
《サンフレッチェ広島より》
従来のやり方からはあまり考えられなかった若者・女性に対するアプローチ。
投稿の様子を見る限りでは、それなりに成功を収めたように見えます。
小谷野元社長が繰り返し主張していた「広島にもっと紫を」というキャッチフレーズ。
ただ一方で、広島のクラブカラーはバイオレットであるというクラブアイデンティティを否定しているようにも思えるのが多少気がかりですが。
最後に、Facebookでは360°VR動画の公開をスタートしました。
従来の動画よりもさらに臨場感の増した映像になっています。
本動画は安田女子大学の協力を受けて撮影されているそうです。
安田女子大学との関係は紫熊倶楽部で特集されていますので是非読んでください*13。
この他に、森崎浩司アンバサダーのInstagram開設と第2弾LINEスタンプ発売などもありました。
インスタ始めましたよー✌️😊皆様これからよろしくね〜🙏😆今日はハッピーバレンタイン😊皆さまチョコ🍫を送って下さりありがとうございます👍皆さんフォローして下さい😍 https://t.co/VRc13zOSff
— 森﨑浩司【サンフレッチェ広島】 (@KojiMorisaki77) 2018年2月14日
サンフレッチェ広島公式ラインスタンプ、2018バージョン誕生✨
— サンフレッチェ広島 公式 (@sanfrecce_SFC) 2018年5月23日
監督と28選手、サンチェ、フレッチェをモチーフとし、特徴を活かした“あるある的”スタンプになっています‼️
ダウンロードして、どんどん使ってね✌️
デザインの確認&LINE STOREはこちら👉https://t.co/vfIdBukYgf pic.twitter.com/6SRC786xhy
③その他広報全般・まとめ
シーズン開幕前に行われるマスコット総選挙。サンチェは4位。
2017年以来2年ぶりの優勝とはなりませんでした。
ただ、2013年に32位だったにもかかわらず、ここ数年は上位をキープし続けています。
「ミシュランガイド広島 愛媛2018」特別発売記念イベントが広島空港で行われ、ミシュランマンとサンチェ&フレッチェが登場🐻
— サンフレッチェ広島 公式 (@sanfrecce_SFC) 2018年4月14日
JAL客室乗務員の方と一緒に、記念撮影を行いました📸
「ミシュランガイド広島 愛媛2018」は、4月16日発売です‼️#sanfrecce pic.twitter.com/gwtw5whXiG
ミシュランガイドのイベントにも参加するなどオフィシャルマスコットとしての仕事は増加。
突然売れた芸人が地方で稼ぐのと似た構図のような気もしてきますが、頑張っています。
また、本人たっての希望だったと聞く丹羽大輝選手のサイン会もありました。
移籍する直前に挨拶を欠かさない素晴らしい人徳が見られたのではないでしょうか。
本日、エディオンスタジアム広島 おまつり広場にて、17:00~18:00の間、丹羽大輝選手のサイン会を行います。
— サンフレッチェ広島 公式 (@sanfrecce_SFC) 2018年7月18日
スケジュールの都合により、サイン会は18:00定刻で終了いたします。列にお並びいただいても、必ずサインがもらえるとは限りません。あらかじめご了承ください。#sanfrecce
というあたりが2018年の広報関係の特記事項でした。
どれだけ頑張っても満足できることはないでしょうが、前日練習公開ができなくなるのは想定外のことでしたし、それ以外のフロントの頑張りは目立っていたように思います。
*1:2016年度(平成28年度)Jクラブ個別経営情報開示資料《Jリーグ 2017年7月20日公表》、2017年度(平成29年度)Jクラブ個別経営情報開示資料《Jリーグ 2019年2月8日閲覧》。
*2:サンフレッチェ広島の決算期は1月末なので、グッズの引き渡しが2月以降だと翌決算期に売上計上されている可能性がある。実際に、2015年の優勝記念グッズの引き渡しは翌年2月下旬だった。『明治安田生命2015Jリーグ年間優勝記念グッズ』受注販売開始のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年12月5日付》。
*3:2012年度のグッズ売上は3.4億円、2013年度は4.2億円、2014年度は4.3億円が着地見込みだった。第13回サポーターズカンファレンス議事録《サンフレッチェ広島 2015年1月17日開催》。
*4:ドッグシャツ 販売開始のお知らせ《サンフレッチェ広島 2015年5月23日付》。
*5:2月24日(土)明治安田生命J1リーグ ホームゲーム開幕戦!勝利をかき寄せろ『勝福!!サンフレ熊手』販売開始のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年2月21日付》、熊野筆の『クマの筆』販売開始のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年4月6日付》。
*6:9月22日(土)FC東京戦、“勝祭”限定グッズ販売のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年9月18日付》、オンラインショップ「e-VPOINT」限定!!『選手ハンガー』受注販売開始のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年10月1日付》。
*7:工藤壮人選手コラボレーション商品 お持ち帰り用「工藤家の揚げおからぎょうざ」レギュラー販売のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年11月8日付》、青山敏弘選手コラボレーション商品「青山珈琲」レギュラー販売のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年11月8日付》。
*8:第16回サポーターズカンファレンス議事録《サンフレッチェ広島 2018年1月20日開催》
*9:J1・J2入替戦第1戦 12/5(水)vs.京都サンガF.C.基町クレド前大型ビジョンにてパブリックビューイング開催のご案内 《サンフレッチェ広島 2007年12月3日付》。
*10:PVは成績の悪化した後半戦から実施したため、第26節vs鳥栖(0-1)、第28節vsG大阪(0-1)、第30節vs清水(0-2)、第31節vs磐田(2-3)、第34節vs札幌(2-2)という試合が対象だった。
*11:林舞輝GMが指南!女子高生でもわかる最新戦術用語講座《footballista 2019年2月1日付》、戦術的ピリオダイゼーション実践編。ゲームモデルは歴史や文化も含む《footballista 2018年7月27日付》。
*12:吉崎健チーフトレーナー、契約満了のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年12月3日付》、ベガルタ仙台ユースコーチに、細渕隼ジュニアユースコーチが就任《サンフレッチェ広島 2018年12月27日付》。