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サンフレッチェとサッカーに染まった日々

第12回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)

補足説明回の最終回。
今回は上訴制度と取りこぼしたその他の改正項目ついて取り扱います。

Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次>
回数内容(交付規則の対象条文)
第1回クラブライセンス制度導入の背景
第2回クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条)
第3回クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条)
第4回ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条)
第5回ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条)
第6回競技基準、法務基準(33条、36条)
第7回施設基準(34条)
第8回財務基準(37条)
第9回人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条)
第10回AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条)
第11回クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条)
第12回上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条)
第13回J3クラブライセンス交付規則について
第14回クラブライセンス制度の全体像、おわりに



[Ⅰ]上訴制度のアウトライン

まず1つ目のテーマは上訴についてです。

2017年シーズンライセンス交付時点で上訴申し立ては起きていません*1
しかし、今後生じる可能性はありますのでポイントを押さえておきたいと思います。


第4回と第5回で基本的なライセンス申請手続(コアプロセス)について確認をしました。

基本的に、ライセンス申請者が申請し、CLAが審査し、FIBが決定してJライセンスが交付されるのですが、各種基準を充足していない場合などに不交付の決定が下される場合もあります。

しかし、ライセンス申請者にとっては納得できない場合も出てき得るでしょう。
そのような場合に、FIBの決定に不服があるとして上訴することができるのです


Jライセンス決定に関する上訴フローを抽出すると次の通り*2
ABの役割等については第3回で説明していますので、そちらでご確認下さい。


https://lh3.googleusercontent.com/QtypaeZJk_u9gdKo9MPDa188RWTrMGYd5KrpBxNS4VyHj-LesWYoQNyCUU2LhvlDn0AsHmlBr5ZfAwDoOEAZdvv74h6MsK45Lc0PFzdF2N44Y_0eWcvv9uUl-O8UREd5viCERA_D9g=w960-h720-no
Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則をもとに作成》


この手続き上の流れはコアプロセスと大きな違いはありません。
コアプロセスと上訴手続きとの大きな違いは、誰が申請(上訴)できるかという点

第3回で説明したように、Jライセンス申請はJ1・J2・J3クラブが可能だとされています。
一方、上訴権を有するのは交付規則26条2項に限定列挙されています。


https://lh3.googleusercontent.com/axljpp_fdmDbW4UwQoqw-XqrYE1sxB46QaL6j4y0Nn2YZFBoG4jZoG_183Rz6X00daAMa4VNEykXV-aqGKX6vgHs--IIdHUmP8I-1P7RT5MAd_bmQiddYLQdBE5_10RUTYJnZQ=w960-h720-no
Jリーグクラブライセンス交付規則をもとに作成》


このように、上訴権があるのはライセンス申請者、ライセンシー、LMで一定の者。
ライセンス申請者・ライセンシーとLMとで異なる点はただ1点。

すなわち、ライセンス申請者・ライセンシーはJライセンスが不交付・取消となった場合に上訴権があり、逆にLMはJライセンス保有が認められた場合に上訴権を有するという点です。


上訴権を有するライセンス申請者に変更はありませんが、クラブライセンス制度導入時には「Jライセンスの剥奪の決定を受けた場合におけるライセンシー」と「Jライセンスの交付の決定がなされた場合におけるLM」以外のライセンシー・LMは上訴権を有していませんでした*3

全体の整合性をとるためかもしれませんが、LMによる上訴権がかなり拡大されています。

[Ⅱ]上訴制度の特徴

続いて上訴制度の中身についていくつか確認をしておきたいと思います。
最も重要なのが、原則としてFIBの決定より上訴人に不利益なものにはできない点。

交付規則 第27条〔上訴〕


(3) CLAは、審問期日終了後、ABによるJライセンス決定会議を開催する。ABは、ライセンス申請者に対するJライセンス交付の可否、制裁の有無・内容について、10月16日までに決定する。なお、ABの決定は、FIBの決定より上訴人に不利益なものであってはならない。ただし、LMとライセンス申請者またはライセンシーの双方が上訴している場合はこの限りでない。


つまり、ライセンシーが制裁付き交付を受けたことに対して制裁付きであることを不服として上訴した場合に、審問を受けてJライセンス不交付となることはないということです。

ただ、上訴人がLMである場合に「不利益」が何を指すのかは不明。
上訴申立書に、「上訴の趣旨」を記述するのでそこで判断するのかもしれません*4


次に重要なのが、上訴人は上訴に際して新たな証拠を提出することはできないこと。

交付規則 第27条〔上訴〕


(4) ABによるJライセンス決定会議では、FIBによる決定のみを審査対象とし、審査は、FIBに提出されたライセンス申請書類、FIB決定書およびABに提出された上訴申立書ならびにFIBおよびABの審問期日において顕れた一切の記録のみに基づいて行われる。上訴人は、ABに対して新たな証拠を提出することはできない。


あくまでもFIBに提出されたライセンス申請書類を基礎として審査を受けることになります。
後出しを認めるとFIBの存在意義に関わりますし(FIBによる第1審を捨てるという選択肢が生じる)、そんな証拠があるなら最初の審査を受ける段階で出しておけという話でしょう。


上訴制度とコアプロセスとの違いに目を向けると、下記の2点が挙げられます。

交付規則 第27条〔上訴〕


(5) 上訴の申立てはいつでも取り下げることができる。上訴の申立てを取り下げた場合は、その時点でFIBの決定が確定するものとする。


(6) ライセンス申請者がABに上訴する場合は、上訴手数料として金10万円をJリーグに支払うものとし、当該手数料はいかなる理由があっても返却しない。


Jライセンスの申請手続きは一定の場合を除いて取り下げができません*5
一方で、上訴については取り下げが可能で、取り下げた場合はFIBの決定が確定します。

また、Jライセンスの申請には30万円の費用がかかりますが上訴は10万円*6
不利益防止規程と合わせて上訴のハードルは低めに設定されているようです。


また、FIBの決定にもABによる決定にも不服の場合、さらに上訴申し立てが可能です。

交付規則 第27条〔上訴〕


(9) 前項の規定に基づき上訴権を有する者は、AB決定書の受領日から21日以内に、CASに対して上訴申立てを行うことができ、上訴した場合には速やかにCLAに対して上訴の申立書の写しを送付する。当該期間内にCASに対する上訴がなされなかった場合、当該期間満了時にABの決定が確定する。当該上訴申立ては、ABの決定の効力を中断させる効果は有しないものとする。但し、CASは申立てに基づいてそのような中断させる効果を有する命令を行うことができる。

交付規則 第17条〔ABの権限および義務〕


(5) ABパネルの決定に対する不服の申立機関はローザンヌスポーツ仲裁裁判所(CAS)のみとし、裁判所その他の第三者に訴えることはできないものとする。


この制度はクラブライセンス制度導入時にはなかったものです。
当時の規定は次のとおり(なお、交付規則27条9項は当時存在していない)。

交付規則 第17条 〔ABの権限および義務〕*7


(5) ABパネルの決定は、最終的かつ拘束力のあるものであり、これに対するいかなる不服の申立ても許されないものとする。ローザンヌスポーツ仲裁裁判所(CAS)は、AFCの不服申立機関であって、クラブとAFC間の問題についてのみ管轄を有する。


もともとクラブライセンス制度上の最高決定機関はCASであると考えられていたようです*8


https://lh3.googleusercontent.com/s8I8yK6O9LYQRX6-M_BO_TXo7dA5PAiVJ5pTdvHUpPQaUZ9kjxUlRrvT5jWy1BlO_bA7etBkke53nZFzTjX4M9bUeOrpSuJv_BcMs1yj84vXGPrWgGDeEXzC3jm96dz_DHSJKA=w1120-h792-no
2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 2頁より》


しかし、蓋を開けるとCASに不服申し立てすることは認められない制度となっていました。
2016年12月7日の改正で、ようやくCASへの上訴が認められるようになったようです。

その他の改正点については割愛させて下さい*9



[Ⅲ]不可抗力の事態が生じた場合の取扱

最後は、クラブライセンス制度導入時から大きく変わった改正点についてです。

本シリーズではたびたび改正項目について言及してきました。
今回取り上げるのはその取りこぼし部分となります。

まず第一の重要な改正項目は不可抗力の事態が生じた場合の取扱い

交付規則 第40条〔不可抗力の事態が生じた場合の取扱〕


(1) 自然災害、戦争、テロ等の不可抗力により、ライセンス申請者もしくはライセンシーが第8章から第12章に定める各ライセンス基準を充足することができない可能性が生じた場合、Jリーグ理事会は当該ライセンス申請者もしくはライセンシーからの申請に基づき、FIB、ABが行うJライセンス交付可否の決定、第8条の制裁の決定、第23条3項のライセンス取消しもしくは制裁の決定にあたり、第8章から第12章に定める各ライセンス基準の一部を適用しない旨決定することができる。


内容自体は特に説明する必要もないでしょう。
災害などの不可抗力な事情が生じたことで各種基準を充足できなかった場合には、基準充足を一部免除する可能性を認めているもの。いわゆる宥恕規定です。

この交付規則40条は2016年12月7日改正で新たに盛り込まれました。
これは、2016年に起こった熊本地震が改正の契機になったそうです。

【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(3)新たに明文化された規定とは?
《Jウォッチャー 2017年2月20日付》


最後の一点。不可抗力の事態が発生した場合の取り扱いについてということで、記憶に新しいところですが、昨年熊本で大規模な震災が発生しました。それに伴ってロアッソ熊本に対してライセンスの基準を他のクラブと同じように適用本当に良いものなのだろうかという議論がありまして、その時の最終的な意思決定としましては理事会の方で震災の影響を受けて、例えばフィールドが棄損して債務超過になったとか、というような事態になったとしても、それが例外適用としてライセンス基準を充足しているという判断をさせていただいておりました。


【中略】


従前は第40条、本交付規則に定めのない事項については理事会が決定するということでした。このルールに基づいて昨年は対応させていただきましたが、よりクラブのみなさん、それから関係者の皆さんに理解を深めていただくために明文化ということで、今回、新たに規定の追加をしたということです。


実際問題として、熊本地震によってロアッソ熊本は大きな打撃を受けました。

ホームスタジアムは救援物資の集積や警察などの救援活動の拠点として活用され*10、安全上の確認が必要となったことからしばらく県外で試合開催せざるを得ず、7月3日のセレッソ大阪戦からようやく熊本でのホームゲーム開催が可能となりました*11

また、一時は練習場の使用もできないほどの状況だったこともあって、リーグ戦再開まで時間がかかり*12、必然的に増加した平日開催の影響で経営的に大きな負担がかかりました*13



【熊本ドキュメント第3弾】7.3 熊本vsC大阪 ~帰って来られる場所がある。ホームうまスタから、また一歩ずつ~
www.jleague.jp


このようなJクラブではどうしようもない、やむを得ない事情によって各種基準の充足が難しくなった場合にも厳格にライセンス審査を行うことは、第1回と第2回で確認したクラブライセンス制度の導入目的・制度趣旨に反するものです。

クラブライセンス制度導入直前に東日本大震災があったことを考えると、正直遅すぎるくらいではありますが、きちんと明文化されたことは評価されるべきだと思います。


この規定がどういった場合に適用されるかはその場その場で柔軟に運用するのでしょう。
基本的には自然災害によるものでしょうから、施設基準と財務基準が対象になりそうです。


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[Ⅳ]クラブライセンス申請システム

第二の重要な改正点はクラブライセンス申請システムが導入された点です。

交付規則 第12条〔CLA〕


(4) CLAは以下の業務を行う。
② 電子システムの運営と管理
③ ライセンス申請者に対する電子システム利用に関する研修および支援


ここでいう「電子システム」はクラブライセンス申請システムのことを指します*14

では、クラブライセンス申請システムとは何かというと、端的にいえば従来は紙媒体でやりとりしていたライセンス審査手続をオンライン上で完結させるシステムのこと。

Jリーグのクラブライセンス制度における申請手続きのペーパーレス化移行プロジェクトにおいてクライアント課題の解決をトータルに支援
《デロイト トーマツ グループ 2016年12月26日付》


クラブライセンス制度の運用は、今年で5年目を迎えました。過去4年間の申請手続きの中では、紙媒体を基本とした手続きを実施しておりましたが、1クラブ当り多いものでは大型ファイル1冊分に相当する書類の提出が必要であり、Jリーグ・クラブ双方にて事務手続きの効率化が課題でありました。


今回申請手続きをオンラインベースの申請に移行することにより、ほぼすべての申請情報をペーパーレス化することができました。導入初年度は、申請手続きを行うクラブ側では戸惑いもありましたが、丁寧に操作説明を行うことで、申請の流れや操作の理解につながり、従来と比べ申請手続きそのものの簡素化につながったと報告を受けております。導入初年度を無事に終了したことにより、2年目以降はJリーグ・クラブ双方にて更なる事務コスト削減につながると考えております。


開発手法としては、アジャイル開発を採用いただいたこともあり、非常に高いレベルでのUX(ユーザーエクスペリエンス)を実現することができました。何度もデロイトの担当者と仕様に関する協議を重ね、当初想定より多くの開発時間を費やしたことは事実ですが、試行を繰り返し行いながらの開発であったことが、結果としてエンドユーザーであるクラブ担当者からの評価につながったと考えております。


今回の開発そのものは、直接的な事務コストの削減に期待するとともに、申請手続きそのものの運用・管理が強化されることにつながり、クラブライセンス制度を運用する上ではなくてはならない基幹システムになると考えております。


実際にどういったシステムなのかは明らかにされていません。
ただ、現代において全ての処理を紙媒体で行うことの非効率性は明らか。
事務コストを削減した分、他のことにリソースを割けるはずです。

クラブライセンス制度導入から5年が経った中、大きな変化だったと思います。


<今回のまとめ>

  • FIB決定に不服がある場合、ライセンス申請者・ライセンシー・LMは上訴できる
  • ABの決定はFIBの決定よりも上訴人にとって不利益なものにできない
  • 上訴で争われるのはFIB決定そのものなので新証拠の提出はできない
  • 不可抗力の事態が生じた場合に備えて宥恕規定が新設された


次回はJリーグクラブライセンス交付規則を飛び出し、J3クラブライセンス制度を確認します。

最後までお付き合いいただければ幸いです。



*1:【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(3)新たに明文化された規定とは?《Jウォッチャー 2017年2月20日付》。

*2:あくまでも手続きが順調に進んだ場合。

*3:Jリーグクラブライセンス交付規則26条2項(2012年2月1日施行時)。

*4:Jリーグクラブライセンス交付規則運用細則 5-1(1)。

*5:Jリーグクラブライセンス交付規則24条2項。

*6:Jリーグクラブライセンス交付規則24条10項。

*7:Jリーグクラブライセンス交付規則(2012年2月1日施行時)。

*8:Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。《日本経済新聞 2011年5月31日37面》。

*9:改正内容について説明する。以前はFIB決定書を受領した非より2週間以内に上訴申し立てをすればよかったが、現在は7日いないとされている(交付規則26条3項)。

*10:うまスタ、休止長期化も 「安全性確認できず」《くまにちコム 2016年5月3日》。

*11:J2熊本、本拠地「うまスタ」使用は夏まで困難か《産経ニュース 2016年5月10日付》、7月からの「うまかな・よかなスタジアム」の使用についてロアッソ熊本 2016年6月17日付》、「うまかな・よかなスタジアム」の使用についてロアッソ熊本 2016年8月19日付》。

*12:ロアッソ熊本トップチームの練習についてロアッソ熊本 2016年4月15日付》。

*13:J2熊本、赤字転落へ震災で収支悪化《デイリースポーツ 2016年6月3日付》。

*14:Jリーグクラブライセンス交付規則・定義集。