第14回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)【終】
ついにクラブライセンス制度シリーズの最終回。
全部で14回と長くなりましたので、前半でクラブライセンス制度を簡単にまとめます。
後半で総括と参考文献を示して本シリーズを締めくくりたいと思います。
<Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次> | |
回数 | 内容(交付規則の対象条文) |
---|---|
第1回 | クラブライセンス制度導入の背景 |
第2回 | クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条) |
第3回 | クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条) |
第4回 | ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条) |
第5回 | ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条) |
第6回 | 競技基準、法務基準(33条、36条) |
第7回 | 施設基準(34条) |
第8回 | 財務基準(37条) |
第9回 | 人事体制・組織運営基準(35条)、各種基準の小括 |
第10回 | AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条) |
第11回 | クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条) |
第12回 | 上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条) |
第13回 | J3クラブライセンス交付規則について |
第14回 | クラブライセンス制度の全体像、おわりに |
[Ⅰ]クラブライセンス制度の全体像
第1回~第13回で述べたことの繰り返しですが、全体像を再度確認しましょう。
Jリーグにクラブライセンス制度が導入されたのは、Jリーグ全体の水準向上もありますが、最大の理由はAFCライセンス(ACL参加資格)の要件を充足するため。
《JFA 2010年度第2回理事会 協議事項9 関連資料No.7 2頁より》
そのため、Jライセンスを取得すればAFCライセンスが自動的に付与されます。
JライセンスとはJ1ライセンスとJ2ライセンスをいいます。
J3の参加資格であるJ3ライセンスはJ3規則に定められた別の枠組みです。
Jライセンス取得のためには、ライセンス申請者がコアプロセスをクリアする必要があります。
コアプロセスとは、ライセンスの申請、審査、決定、交付という手続きのこと。
《Jリーグクラブライセンス交付規則 別紙1より》
その審査においては5つの基準をもとに判定が行われます。
また、5つの基準には、必ず達成しなければならないA等級基準、達成しないと制裁が科される(交付は妨げない)B等級基準、努力目標のC等級基準という3段階が存在します。
A等級基準を全て充足しなければライセンスは交付されません。
5つの基準の中で特に重要なのは、三期連続赤字と債務超過を禁止している財務基準と、スタジアムのキャパシティ・屋根・トイレ・トレーニング施設について規定している施設基準です。
なお、JライセンスにはJ1ライセンスとJ2ライセンスがありますが、これらを分けるのは(現状)施設基準のスタジアムのキャパシティに関する判定だけです。
5つの基準には、AFC規則にはないJリーグ独自の判定項目が存在しており(三期連続赤字、債務超過、屋根、トイレなど)、原則として交付規則の方が厳しい内容となっています。
ライセンスの審査が終われば、FIBによるライセンス決定会議が開催されます。
ライセンス決定会議では、次の5種類の決定が下されることになります。
- ライセンスの交付
- ライセンスの不交付
- 制裁付きのライセンス交付
- 是正措置通達付きのライセンス交付
- 条件付きのライセンス交付
ここでいう制裁は、B等級基準未充足の場合に科されるもの。
また、是正措置通達はクラブ経営上努力すべき内容に関するもの。
条件付きのライセンス交付の内容は条件が課されたクラブによってまちまちです。
ライセンス不交付または制裁付き交付に不服な場合などには上訴することも可能です。
以上がクラブライセンス制度の大まかな概要です。
[Ⅱ]おわりに
本シリーズの目的は、交付規則を通してクラブライセンス制度の全体像を掴むことでした。
全14回という長編になってしまいましたが、ある程度達成できたと思っています。
本シリーズで目指したポイントがいくつかあります。
第一に、目次にもある通り、交付規則にある大半の条文を取り扱うことです*1。
重要性の低い項目まで手は回りませんでしたが、概ねカバーできたのではないでしょうか。
第二に、改正のあった項目をできる限り紹介しようと考えました。
AFC規則の改正や、Jリーグを取り巻く環境の変化(ソーシャル・フェアプレーや熊本地震)によってクラブライセンス制度は毎年アップデートされています。
次表は、クラブライセンス制度導入時と現在との項目数比較です。
サッカークラブの水準向上を目的としている以上、項目数が減少するのは考えにくいところ。
したがって、今後も基準は増えていく傾向にあるのではないでしょうか。
脚注で紹介する部分も多かったですが、こういった改正項目にも概ね言及できたと思います。
第三に、条文の解説だけではなく具体的事例(制裁事例など)も取り入れました。
2012年に投稿した前シリーズとの最大の違いはこの点です。
クラブライセンス制度の運用方針についても、ある程度確認することができたと思います。
以上のポイントを意識しながら仕上げましたので、2017年現在で最も詳しいクラブライセンス制度解説シリーズになったのではないかと自負しています。
他方で、本シリーズでできなかったこともありました。
その一つが、FC岐阜と今西和男氏に関する事例を取り上げること。
本件の詳細については木村元彦氏の『徳は孤ならず』をご覧頂けたらと思います。
木村元彦氏の「徳は孤ならず」はJリーグファンなら是非とも一読するべきものです。
徳は孤ならず 日本サッカーの育将今西和男 [ 木村元彦 ] |
この内容について、読んだ人によって受け止め方は異なるかもしれません。
ただ、この内容について触れるのであれば、第11回で指摘した制裁に関する問題点とは異なり、クラブライセンス制度の制度設計そのものに焦点を当てる必要があります。
それをクラブライセンス制度の解説で取り扱うことはふさわしくないのではないか。
そのような理由から本シリーズでは詳しく触れていません。
しかし、現実にクラブライセンス制度は完璧なものとは言えません。
それは青影宜典クラブライセンスマネージャーも認めているところです。
Jリーグクラブライセンス制度運用のいま
《フットボール批評14巻 2016年11月7日発行 87頁》
青影
当然この件にかかわらず、クラブライセンス制度そのものが、いつの時代でも100点満点の完璧な制度だとは僕は責任を持って言えません。先程の運用の面でも申し上げた通り、年度毎によって当然時流に合わせた対応が必要です。だからこの制度、この仕組み自体はやっぱり見直さないといけない、というような議論があるならば、それは真摯に拝聴した上で、議論した上で、また新しい改革を進めていくべきじゃないかという風に私個人は思っています。
クラブライセンス制度の抱える問題点のような視点から分析・検討することも有益なこと。
あるいは愛するクラブが今どういう状況に置かれているか知ることも重要なことでしょう。
本シリーズがそういった取り組みの一助になれば幸いです。
最後は簡単なまとめ方になってしまいましたが本シリーズは以上で終わりです。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました。
[Ⅲ]参考文献
最後に、本シリーズにおいて参考・参照した文献を以下に列挙しておきます。
ただし、リンク切れを起こしている場合はInternet Archiveに置き換えています。
◆書籍・雑誌・論文
- 広瀬一郎『「Jリーグ」のマネジメント』(東洋経済新報社、2004)
- 大東和美・村井満『Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)
- 木村元彦『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』(集英社、2016)
- 木村元彦「Jリーグクラブライセンス制度運用のいま」《フットボール批評14巻 2016年11月7日発行 87頁》
- 金森純「サッカースタジアム開発の意図と課題に関する研究- JFA の理念と「スタジアム標準」に着目して-」共栄大学研究論集14巻(2016)
- 新スタジアム構想検討委員会「スタジアム整備検討に基づく構想書 ~スタジアム整備検討の基本的骨格について「スタジアムは地域活性化の新たな起爆剤」~」(モンテディオ山形、2016)
◆新聞
- Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。《日本経済新聞 2011年5月31日37面》
- (サッカー・柏革命 J1初制覇)(下)意識変え 器を整える フロント改革、経営を効率化《日本経済新聞 2011年12月6日付》
- 岐路に立つ 栃木SC Jクラブライセンス意義と課題《読売新聞 2013年2月8日付》
- 【蹴球論】Jリーグ「クラブライセンス制度」の成果と課題…屋根とトイレをどうするか《産経ニュース 2015年10月14日付》
- Jリーグ:J3の参加資格を明文化《毎日新聞 2015年4月28日付》
◆Jリーグ
- クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2012年9月28日付》
- クラブライセンス交付第一審機関(FIB)による 2014シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について《Jリーグ.jp 2013年9月30日付》
- クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2015シーズン Jリーグクラブライセンス交付について《Jリーグ.jp 2014年9月29日付》
- クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2016シーズン Jリーグクラブライセンス判定について《Jリーグ.jp 2015年9月29日付》
- クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2017シーズン Jリーグクラブライセンス判定について《Jリーグ.jp 2016年9月28日付》
- 「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について《公益社団法人日本プロサッカーリーグ 2013年3月6日発表》
- 不適切な会計処理に対し 愛媛FCに制裁を決定《Jリーグ.jp 2015年2月23日付》
◆Jクラブ
- 2013シーズン Jリーグクラブライセンス交付における 「J2クラブライセンス」決定のご報告《J's GOALアーカイブ 2012年9月28日付》
- 2014シーズン Jリーグクラブライセンス交付における「J2クラブライセンス」付与のご報告《J's GOALアーカイブ 2013年9月30日付》
- 2013年度 決算について《横浜マリノス 2014年5月8日付》
- 2015シーズン クラブライセンス交付について《ガイナーレ鳥取 2014年9月29日付》
- 2015シーズン クラブライセンスにおける停止条件の充足について《ガイナーレ鳥取 2014年10月29日》
- 平成24年度および平成25年度の決算処理に関するご報告とお詫び《愛媛FC 2015年1月16日付》
- Jリーグによる制裁の決定について《愛媛FC 2015年2月23日付》
- 6.30 Jリーグクラブライセンスについての記者会見を行いました。《ブラウブリッツ秋田 2016年6月30日付》
- 2017シーズン Jリーグクラブライセンス判定について《ギラヴァンツ北九州 2016年9月28日付》
- J2クラブライセンス審査結果について《鹿児島ユナイテッドFC 2016年9月28日付》
- 【質疑応答掲載】6.30 2018シーズンクラブライセンスの申請に関する記者会見を行いました《ブラウブリッツ秋田 2017年6月30日付》
◆その他のウェブサイト
- クラブライセンス制度とは何か?2013年導入を目指すJリーグの不退転《スポーツナビ 2012年1月20日付》
- キーマンが描く20シーズン目の航海図 ~改革の先にある10年後のJリーグとは?~(後編)《フットボールチャンネル 2013年5月8日付》
- 【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(前編)《フットボールチャンネル 2013年7月13日付》
- 【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(後編)《フットボールチャンネル 2013年7月14日付》
- 北九州の新スタジアム構想を追う J2・J3漫遊記ギラヴァンツ北九州<後編>《スポーツナビ 2014年11月18日付》
- 愛媛FCの粉飾決算にJリーグ側が見解 第三者委員会を設置、さらなる原因追及へ《スポーツナビ 2015年1月16日付》
- 愛媛FCが多年度にわたる粉飾決算……第三者委員会で追加調査へ《サッカーキング 2015年1月16日付》
- 不正会計発覚の愛媛FCはけん責と制裁金300万円…組織の直接的関与認められず《サッカーキング 2015年2月23日付》
- 制裁免除のスタジアムが続出…Jクラブを救う「トイレ60%ルール」とは?《サッカーキング 2015年10月1日付》
- Jリーグのクラブライセンス制度における申請手続きのペーパーレス化移行プロジェクトにおいてクライアント課題の解決をトータルに支援《デロイト トーマツ グループ 2016年12月26日付》
- クラブライセンス規則にも変更点、A等級の練習場の天然芝はハイブリッド芝でも代用可《ゲキサカ 2017年2月9日付》
- 【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(1)今回追加となった『6つの基準』《Jウォッチャー 2017年2月15日付》
- 【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(2)内容が見直しとなった5つの項目とは?《Jウォッチャー 2017年2月17日付》
- 【解説】2017シーズンにおけるクラブライセンスの変更点とは?(3)新たに明文化された規定とは?《Jウォッチャー 2017年2月20日付》