《Part.2》第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート
※当記事は2012年11月5日に開催されたスタジアムシンポジウムに関するものです※
今回も引き続き「プロスポーツと地域社会」がテーマ。
前回扱えなかったドレスデンの事例とカムデン・ヤーズの事例を取り上げます。
<第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート・目次> | ||
回数 | テーマ | 内容 |
---|---|---|
第1回 | プロスポーツと地域社会 | コベントリーの事例 |
第2回 | プロスポーツと地域社会 | ドレスデン、カムデン・ヤーズの事例 |
第3回 | スタジアムの進化 | スタジアムの発展過程 |
第4回 | スタジアム八策 | スタジアムとホスピタリティ |
第5回 | スタジアム八策 | アオーレ長岡の事例 |
第6回 | その他 | Jリーグの求めるスタジアム像 |
[Ⅰ]チームカラーに染まったスタジアム(ドレスデンの事例)
ドレスデンはドイツ東部、チェコにほど近い場所に位置しています。
ルドルフ=ハルビッヒ=シュタディオンはディナモ・ドレスデン(2部)の本拠地。
ネーミングライツによってグリュックスガス・シュタディオンと呼ばれています。
www.youtube.com
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ドレスデンは第二次世界大戦末期にあったドレスデン爆撃を受けた都市としても有名です。
1922~1923年に出来たスタジアムは戦争によって一度は破壊されました。
現在あるスタジアムは、戦後建てられた陸上競技場を改修したもの。
2005年から建築に向けて動き出し、2009年に開場した「サッカースタジアム」。
2011年女子W杯では準々決勝のブラジル代表とアメリカ代表の試合が開催されています。
グリュックスガス・シュタディオンはチームカラーに染まっていることでも有名。
《Stadion Dresden - Emotionen im Grosformatより》
こちらの画像にあるようにスタンドは黄色一色。
ゴール裏スタンドにはディナモ・ドレスデンのエンブレムも象られています。
《Stadion Dresden - Emotionen im Grosformatより》
こちらは「Kinder-Geburtstag」というパンフレット。
直訳すると「子供たちの誕生日 その忘れがたい時をスタジアムで!」。
これまた綺麗に黄色に染まっていますね。
百年構想のある風景 (90)ホスピタリティ
《Jリーグ関連書籍・コラム 2018年7月2日閲覧》
同様に、“ホーム”という意識を共有できるスタジアムを通して関係づくりが行われている。欧州のスタジアムには、ホスピタリティ・ゾーンと呼ばれる大小のラウンジが必須の空間となり、日常から地域の社交場として活躍している。昨年完成したディナモ・ドレスデンのルドルフ・ハルビッヒ・スタジアムの建設に際して、市長曰く「これからのスタジアムは、経済的な合理性もいいが、もっと感情(Emotion)を大切にしようよ」。
ドレスデンの事例は後述する中国新聞の特集で取り上げられています。
そちらもオススメです。
[Ⅱ]ボールパークのはしり(カムデン・ヤーズの事例)
最後にご紹介するのはオリオール・パーク・アット・カムデン・ヤーズ。
サッカーではなく、大リーグのボルチモア・オリオールズの本拠地です。
《OriolePark.comより》
画像を見れば分かるとおり、スタジアムが微妙に左右非対称なのが特徴的。
しかし最大の特徴はその中に詰め込まれた様々な仕掛けでしょう。
カムデン・ヤーズは大リーグのボールパーク化のはしりだと言われています。
前回も説明しましたが、1992年以降多くのチームが「街中スタジアム」に変わりました。
そのパイオニアとなったのがカムデン・ヤーズであり、顧客志向がきっかけです。
“カムデニゼーション”のルーツ
《スポーツビジネス from NY 2007年5月25日付》
また、こうした外観上の工夫だけでなく、観客収容人数を4万ちょっとまで減らすことで相対的に観客収容率を上げ、チケット購入に対する飢餓感を作り出す(「チケットが売り切れるかもしれない」という状態を作り出すことがチケット販売上最高のマーケティングとなります)、ラグジュアリースイートやクラブシートといった席単価の高い高付加価値シート(プレミアム・シート)を思い切って増設し、座席数を減らしながらも、収益性は逆に高まるというビジネスモデルを作り出したのです。
カムデン・ヤーズは、まずコンパクトなスタジアムを目指しました。
当時の流行は巨大なスタジアム。NFLの会場としても使用されていたことが原因です。
サッカーにおける陸上兼用と同じく大リーグではアメフト兼用が当たり前な時代でした。
NFLはアメリカのスポーツの中でも最も人気なスポーツと言っていいでしょう。
レギュラーシーズンはもとより、スーパーボウルでは当たり前のように10万人前後入ります。
一方で大リーグの観客数はそこまで多くはありません。
ことスタジアムに限って言えば「大は小を兼ねる」が通用しないことが多々あります。
そこでカムデン・ヤーズは「満席」という異常事態をより多く作り出すことを重視しました。
これは顧客の心理をきちんと理解していなければ出来ない施策です。
USスポーズビズ2004 第3回ゲーム ・デー・エクスペリエンス~アミューズメントパーク化するスタジアム~
《Jリーグニュースvol.108 7ページ》
試合を観るためだけにスタジアムを訪れるアメリカ人はほんの一握りである。スポーツビジネスの世界で成功するため(あるいは生き残るため)には、充実した売店、楽しいイベント、気の利いた演出等は欠かせない。問われるのは総合的なエンターテインメントとしての質。これは、アメリカのスポーツビジネスに携わる者が持つ共通認識である。
また、観客の消費に多様性を持たせることも意識しています。
単にスタジアムで試合を見る時代ではなく、たとえばグルメであったりグッズであったり。
そういった試合以外を楽しめる空間作りもカムデン・ヤーズの特徴です。
2010年8月21日、ボルチモアのカムデンヤーズは、セーフコのお手本になった「新古典主義建築のボールパーク」。80年代のクッキーカッター・スタジアムさながらの問題を抱える「日本のスタジアム」。
《Damejima's HARDBALL 2010年8月22日付》
91年までボルチモア・オリオールズの1試合あたりの観客数はおよそ3万人だったのだが、カムデンヤーズのできた92年以降は、1試合あたり45000人と、1.5倍にも膨れあがった。これだけ応援してくれるファンが多くなって、いつもボールパークが満員になることがプレーヤーに力を与えないわけはないのであって、97年にボルチモアは98勝64敗の好成績で地区優勝まで遂げている。まさにカムデンヤーズ効果である。
観客が楽しんでお金を使えばクラブは潤い、チームは強くなる。
これは必ず比例するわけではありませんが強い相関関係があることでしょう。
野球から学ぶべき点も多いのではないでしょうか。
[Ⅲ]参考資料
さて、ここからは参考資料のご紹介。
中国新聞では2013年3月5日から「都市とスポーツ」というタイトルで連載を取り扱っています
第一回は、この講演でも取り上げられたドレスデンのスタジアム。
第二回は、オランダはアムステルダム・アレナ。
第三回は、デュッセルドルフのエスプリ・アレナ。
第四回は、ザンクト・ヤコブ・パルク(バーゼル)となっています。
このうち、アムステルダム・アレナに関しては2008年の調査でも紹介されています。
濃い内容なので、是非中国新聞の特集は読んでみてください。
また、Jリーグの欧州スタジアム調査報告がHPで公開されています。
こちらも参考になりますので、興味のある方はどうぞ。
- 欧州におけるサッカースタジアムの事業構造調査(2008年7月)
- スタジアムプロジェクト欧州視察報告(2010年10月実施)
- Jリーグ欧州スタジアム視察2014 報告書
- Jリーグ欧州スタジアム視察2017 報告書
基調講演の内容は「サッカースタジアム建設 広島で早期実現を!」とリンクします。
Jリーグの資料をふんだんに使ってるみたいなので、改めて見直すのもいいと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=bqa5fNfxkWUwww.youtube.com
今回はここまで。
次回はスタジアムの進化について進めていきます。