《Part.5》第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート
※当記事は2012年11月5日に開催されたスタジアムシンポジウムに関するものです※
前回に引き続き、今回も"スタジアム八策"について。
<第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート・目次> | ||
回数 | テーマ | 内容 |
---|---|---|
第1回 | プロスポーツと地域社会 | コベントリーの事例 |
第2回 | プロスポーツと地域社会 | ドレスデン、カムデン・ヤーズの事例 |
第3回 | スタジアムの進化 | スタジアムの発展過程 |
第4回 | スタジアム八策 | スタジアムとホスピタリティ |
第5回 | スタジアム八策 | アオーレ長岡の事例 |
第6回 | その他 | Jリーグの求めるスタジアム像 |
[Ⅰ]基調講演=スタジアム八策+Extra
5.街中スタジアム
これからはロケーション次第
ロケーションを決めるのはそのスタジアムに何を求めるか
目的、そのスタジアムから街として地域として何を得たいか
それが合意されれば自ずと場所は決まってくる
- アムステルダムの事例…スタ街
アウェイツーリズム
浦和、FC東京、G大阪、名古屋、もう1つどこかがアウェイ客として大きい
年間780試合で100万人が動いている
これはスタジアムが決め手になる
毎年ここには行きたいと思わせるようなスタジアムが必要
浦和へ聞き取り調査…50人乗りバスでどのくらい繰り出したか
→札幌まで4000人、広島まで4000人
サッカーであれば毎週末起こる
スタジアムが良くなれば増えていくのでは
6.複合型とスタジアムビジネス
365日のうち30日しか使わないのはもったいない
ならば、多機能・複合型にすればいいじゃないか→スタジアムビジネス
日本の中でも街中にスポーツと公共施設の合体という事例が起きている
7.環境志向のグリーンスタジアム
ブンデスではコンビチケットがある
試合前後4時間公共交通機関乗り放題(コンサート、オペラ、スポーツ)
8.プロフェッショナルによるスタジアム経営
管理の対象ではなく不動産経営に近いもの
つまりプロが経営しないといけない
9.防災拠点としてのライフスタジアム
備蓄倉庫、シャワー・トイレ、情報施設、医療施設
厨房施設があるので煮炊きが出来る、長期の避難には適している
ここまでがメモ書きをもとにした基調講演。
前回と合わせてスタジアム八策です(1個多いのですが)。
[Ⅱ]市庁舎を取り込んだ複合型アリーナ
アオーレ長岡とは、2012年4月長岡市に誕生したシティホールプラザ。
新潟県長岡市の市庁舎とBJリーグのアリーナを組み合わせた全国でも希有なケースです。
その最大の特徴は、日本では類を見ない複合施設である点にあります。
《アオーレ長岡パンフレットより》
アオーレ長岡は、アリーナ、市役所、市議会に「ナカドマ」が一体化しています。
「ナカドマ」は「中土間」からきていて、屋根付き広場のこと。独特な雰囲気ですね。
そのコンセプトは名称の「アオーレ」に込められています。
中心市街地の再生のカギは?(新潟県長岡市「アオーレ長岡」視察)
《福井県中小企業診断士協会 2013年4月22日閲覧》
また、今回の設計を担当した隈研吾氏は、「20世紀はハコモノの時代で、駐車場を求めて郊外へ向かった。21世紀は交流の時代で、交流のポイントとなる広場が必要になる。そこで、周辺に施設を配置し真ん中に広場をつくるとともに、この広場と全ての施設がオープンにつながることを目指した」とコンセプトを語った。
「アオーレ」とは長岡の言葉で「会おうよ」。
アオーレ長岡を人とモノの交流する拠点に位置づけているのです。
駅から雨風をしのいで来場できるペデストリアンデッキもその象徴。
《業務事例紹介|イートラストより》
アオーレ長岡の建設構想は2006年にスタートしました。
当時、長岡市では「平成の大合併」の影響で市役所機能が分散していました。
この市役所を中心部に移転させるというのが最大の目標だったと言えます。
これに加えて街のシンボルとするべく考えついた方向性が「複合化」でした。
「アオーレ長岡」が示した新たな市役所像
《PHPビジネスオンライン 衆知|PHP研究所 2012年10月16日付》
以来、6年をかけて完成したアオーレ長岡の特徴は「合わせ技」という言葉に集約できる。
第一に、「市役所の移転」という直接の政策目的に加えて、「中心市街地の活性化」、「コンパクトシティ化」、「まちの顔づくり」、「市民の交流の場づくり」などを複合的に実現する効果をもたらしていることだ。合併自治体の場合、合併当初は周辺地域に対する配慮が優先される傾向があるが、ある時点からはまちの一体性を高めていく必要がある。アオーレ長岡によるまちなか創造は、こうした時間軸からみても妥当性が高い。
第二に、「機能の複合化」がある。ハード面の複合化はいうまでもないが、ソフト面に関しても工夫が凝らされている。1階にある総合窓口は、旧庁舎で1階から3階に分かれていた住民異動、福祉、税金など身近な手続きがワンストップでできる。平日夜間や土日祝日も利用可能である。さらに「市役所コンシェルジュ」を配置して、利用者のよろず相談を受け持っている。また、市民協働センターや市民交流ホールが置かれ、さまざまな市民活動の舞台となっている。市民と接することの少ない部局は旧庁舎に残し、市民活動のスペースを優先したのだという。
第三は、「財源調達の多様化」である。138億円とされる総事業費のうち、積み立ててきた都市整備基金から43億円を充てるなど、未来への投資のためにあらかじめ財源の準備を怠っていなかったことがわかる。さすが「米百俵」の土地柄である。さらに、市民公募債を発行することで市民の参画意識を高めることも狙い、15億円分が早々に完売している。
このレポートを読めば分かるように、綿密に計画的に作り上げられた施設だと言えます。
地域におけるシンボルとしつつ、市役所やBJリーグといったソフトを活かす。
「機能の複合化」と一言で言ってしまえばそこで終わりですが、地域のニーズと持っているソフトをしっかりと理解していなければ出来ないことでしょう。
余談ではありますが、このアオーレ長岡には職員食堂がないそうです。
中心市街地に市職員が繰り出すことで地域活性化にもなるのだとか。
この考え方からも「交流」というコンセプトを感じ取れます。
[Ⅲ]アオーレ長岡がもたらす地域への影響
まずはアオーレ長岡に対するポジティブな評価を見てみましょう。
オープンから半年、88万人が利用 全国が注目!アオーレ長岡
《長岡市市政だより(平成24年11月/第698号) 2ページ》
視察者は451団体に
市民協働・交流の拠点として4月1日に誕生したシティホールプラザ「アオーレ長岡」。オープンから半年で延べ約88万人が来場しました(上表)。
アリーナやナカドマ(屋根付き広場)、市民交流ホール、市役所など、目的が異なる空間が一体となった全国初の施設が注目を浴び、連日、県内外から民間団体や行政・議会・学校関係者など視察者が絶えません。
オープンから半年で88万人。現在では年間120万人以上が来客する施設となりました*1。
52:「アオーレ効果」で活性化に弾み
《長岡新聞 2013年4月22日閲覧》
中心市街地で働く市職員(臨時・嘱託職員を含む)は約1100人。分散型庁舎配置が完了したことで、マイカー通勤する市職員は70・6%から29・5%に減少。その結果、年間約388㌧の二酸化炭素(CO2)削減が見込まれている。森市長は「(CO2削減は)想像以上に効果があった。さらなる来訪者と回遊性の創出を目指し、中心市街地全体へアオーレ効果を拡大していく」としている。
他にも環境への配慮があげられます。
上記以外でも、可動式太陽光発電システムや雨水循環型環境制御システムを設置。
長岡市産天然ガスによる発電を行っているそうです。
平成21年度 第1回住宅・建築物省CO2 推進モデル事業にも選ばれているとか*2。
一方でポジティブとは言えない評価もあります。
次のレポートは長岡市中心市街地活性化協議会が2012年7月に実施したアオーレ長岡のオープンに伴う「長岡市中心市街地における小売・サービス業アンケート調査」の報告書。
《長岡市中心市街地における小売・サービス業アンケート調査より》
ここにあるように70%前後の店舗が来客数・売上げが変わらなかったと回答しています。
また、アオーレ長岡オープンに伴って取り組みをした店舗も半数程度。
周辺地域がその効果を体感しているとは思えない結果だと言えます。
原因は様々あるでしょうし、このレポートでもそれについて触れてあるので割愛。
ただ、少なくとも言えるのは「作って終わりではない」ということ。
どれだけ完成前に快適・エコだとか賑わいなどの言葉をあげつらえても意味はありません。
実際に地域民から支持され、愛されないとそれはただの箱でしかないのです。
アオーレ宣言
《長岡市市政だより(平成24年5月/第692号) 2ページ》
アオーレ長岡は本日、待望のオープンの日を迎えました。
いつの時代も市民が集い、長岡の「顔」であったこの地に、長岡の伝統である市民協働・市民交流の拠点が、装いも新たに誕生しました。
屋根付き広場「ナカドマ」を中心に、アリーナ、市民交流スペース、市役所、議会などの機能が渾然一体に溶け合う、全く新しいコンセプトを形にした公共建築・アオーレ長岡は、市民の創造性を刺激する、かつてないコミュニケーション空間です。
限りない可能性を秘めたこの空間を、市民が楽しみながら自由な発想で使いこなしていくことによって、アオーレ長岡は限りなく成長していくことでしょう。
さまざまな人々が立場を超えて交流し、絆を強めていくことで、合併した長岡市の一体感はよりいっそう深まります。アオーレ長岡が心のよりどころとしていつまでも愛され、市民の誇りであり続けることを確信しております。
みなさん、アオーレ長岡は未来に向かって、今日から歩み始めます。みなさんの知恵と行動力とで、大きく育てていきましょう。
完成時に長岡市市長が読み上げたアオーレ宣言。
この言葉はこれから作られる全てのスタジアムで心に留めないといけない。
私はそう考えています。
[Ⅳ]参考資料、その他の補足
2回にわたって基調講演の"スタジアム八策"について取り上げてきました。
前回は「スタジアム八策」の中でも特に分かりにくい「ホスピタリティ」について。
今回は具体的事例としてアオーレ長岡を取り上げる中で「複合化」について触れました。
しかし、「スタジアム八策」そのものについての言及はしていません。
理由としてはいくつかあって、そもそも分量的に全て網羅できないだろうこと。
そして、わざわざ説明するよりも後述するJリーグニュース等を見る方が分かりやすい。
そのような理由で一部だけ見る形にしています。
この特集は本当に良質なまとめになっているので是非読んでみてください。
Jリーグが志向するスタジアムの方向性がよく理解できます。
その他では、今年2月に放映されたFOOT×BRAINの特集も理解の助けになるでしょう。
www.youtube.com
www.youtube.com
最後にアオーレ長岡の参考資料を纏めておきます。
今回は取り上げることは出来ませんでしたが、アオーレ長岡の運営も独特です。
市民主体の市民交流ネットワークアオーレなども興味があったら是非。
*1:市役所なのに、来場者年120万人!「アオーレ長岡」《プレジデントオンライン 2015年7月4日付》。
*2:平成21年度第1回省CO2推進モデル事業(全般部門)採択事例紹介《第3回 住宅・建築物の省CO2シンポジウム 2009年6月17日開催》。