《Part.4》第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート
※当記事は2012年11月5日に開催されたスタジアムシンポジウムに関するものです※
第4回と第5回は基調講演のメインとなるスタジアム八策について。
今回は前半の4つを取り上げ、次回に残りの5つを取り上げます。
<第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート・目次> | ||
回数 | テーマ | 内容 |
---|---|---|
第1回 | プロスポーツと地域社会 | コベントリーの事例 |
第2回 | プロスポーツと地域社会 | ドレスデン、カムデン・ヤーズの事例 |
第3回 | スタジアムの進化 | スタジアムの発展過程 |
第4回 | スタジアム八策 | スタジアムとホスピタリティ |
第5回 | スタジアム八策 | アオーレ長岡の事例 |
第6回 | その他 | Jリーグの求めるスタジアム像 |
[Ⅰ]基調講演=スタジアム八策+Extra
1.文化としてのサッカースタジアム
Jリーグは豊かなスポーツ文化の振興を掲げている
スポーツ文化=専用
専用には2つの意味がある
ここでは、種目としてサッカー専用であるということ
ホームタウンサミット@甲府でアンケート調査を行った
1位仙台、2市場、3位柏、4位清水、5位浦和という順番で観戦環境が良くて快適という結果
県が作ると陸上競技場になり、市が作るとサッカー場になるという傾向がある
街作りという政策が市にあっても県にはない
競技のためという発想で見れば遠くに多目的に作る
2.シンボルとしてのホームスタジアム
もう一つの専用はホームの専用
たとえばスタジアムにエンブレムを付けたりエンブレムを椅子で表す
こういうことが出来るのもホームのスタジアムだから
- ボルトンの事例
- アストンビラの事例
- ヴォルフスブルクの事例
- プレストン・ノースエンドFC:の事例
- グラスゴー・レンジャーズの事例
愛されるスタジアムとは、愛の証・愛の形とは何か
たとえば絵はがきなどで紹介される
たとえば路線図にスタジアムの場所がサッカーボールとして表示される
クラブだけでなく企業もホームの意識を示さなくてはならない
ドイツ車の広告…全て本社所在地のナンバープレートを使って世界で広告をしている
3.コミュニティとしてのファミリースタジアム
どんな人でも家族みんなで快適に過ごすことが出来る
屋根、コンコース、鉄道アクセス、車いす、キッズルーム、ファミリー席の必要性
赤ちゃんからサポーターにしてしまえとおしゃぶりまでグッズショップで売っている
グッズショップに入ってすぐ子供用のものを売っているのが定番
4.ホスピタリティのある社交スタジアム
なぜCWCが日本開催でなくなったのか
→ホスピタリティゾーン(社交ラウンジ)がないから
FIFAは世界から集まってきて夫婦単位で社交をしたい
これから国際試合を招くためには重要な視点
- エディンバラの事例
ここまでがメモ書きをもとにした基調講演。
ただし、スタジアム八策といっているように後5個ありますが、それは次回。
[Ⅱ]ホスピタリティとはなにか
※語源なんか興味ないわという方は読み飛ばして下さい※
基調講演で何度となく出てきた「ホスピタリティ」という言葉。
どこかで耳にしたことがある方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
ホスピタリティー【hospitality】
《デジタル大辞泉 2018年7月2日閲覧》
1 心のこもったもてなし。手厚いもてなし。歓待。また、歓待の精神。
2 ⇒異人歓待(いじんかんたい)
デジタル大辞泉によるとホスピタリティはこのように定義されています。
しかし、シンボルやコミュニティなどと比べると今ひとつピンと来ません。
そもそも「もてなし」といっても具体的にどういうことなのでしょうか。
そこで服部勝人著のホスピタリティ・マネジメント入門を参考にしました。
ホスピタリティ・マネジメント入門第2版 [ 服部勝人 ] |
まずはホスピタリティの語源について見てみましょう。
第2章 1 ホスピタリティとサービスの語源
《ホスピタリティ・マネジメント入門》
ホスピタリティという言葉は、図1のようにラテン語のホスペス(hospes)という言葉が最初の派生の源になっている。このホスペスという言葉の形成過程を見ると二系統の語源系列が存在する。その一つは「可能な」とか、「能力のある」という意味を持つラテン語のポティスという言葉である。
(中略)
ホスペスのもう一つの言語系列には、古ラテン語ホスティスがある。このホスティスは「ローマ領の住民でローマ市民と同様の権利義務をもつもので味方としての余所者」という意味があった。
(中略)
この経路で合成されたホスペスの原義は「客人の保護者」を示し、「主催者、来客、外国人、異人」などを意味する。
文章で見ても分かりにくいので簡単な画像で表すとこんな感じ。
「hostis」と「potis」が合成されて出来た「hospes」が語源となっているそうです。
「hospes」から変化する過程で「hospital」や「hotel」のもととなった「hospitale」に。
また、「host」や「guest」のもととなった「hospitem」と「gostr」にも派生しています。
大元を辿ればこのような単語にも通じるものがあるのです。
次に、ホスピタリティとよく比較されるサービスとの違いを見てみましょう。
ちなみに、サービスはラテン語で「奴隷の」という意味の「servus」から派生した単語。
派生の過程で他に生まれた言葉に「召使い」を意味する「servant」などがあります。
第2章 4 ホスピタリティとサービスの現代解釈
《ホスピタリティ・マネジメント入門》
このように「サービス」とは、有形及び無形のものを第三者に提供する過程を示すものであることが理解できる。しかし、その背景には主従関係や軍事目的、政府の公共目的、宗教上の儀式など「義務の概念」が常に意識されている。そして、テニスのサービスのように、相手側の立場を配慮するのではなく、自分がポイントを獲得することを優先しているのである。公務員や公共サービスなども、必要とされるレベルの業務を適度に提供するのである。意味のなかには「奉仕」や「貢献」などもあるが、中心は自己の利益や対価を獲得するための義務的・機能的行為であり、そうした語幹によって今日の「サービス」の解釈が為されている事は事実である。
ここまで極端である必要はありませんが、主従関係に近いものがあるのは理解できるでしょう。
本書でも指摘されているように、「お客様は神様です」という言葉はそれを端的に示しています。
ホスピタリティはその点で「主客同一」という言葉が使われています。
「主客同一」とは、主人と客人の立場が対等であるということ。
語源となった「hospes」には(その派生を見れば明らかなように)主人と客人の両方の意味が含まれていることからも理解は難しくないでしょう。
第2章 5 ホスピタリティとサービスの概念比較
《ホスピタリティ・マネジメント入門》
サービスを欲求に見合うものとして等価交換と位置づけると、ホスピタリティは付加的要素(付加価値)として捉えることができる。つまり、ホスピタリティはサービスの上位概念として捉え位置づけられる。ホスピタリティは常にサービスを内包することから、「サービス無くしてホスピタリティは存在し得ない」のである。
また、本書ではホスピタリティをサービスの上位概念と位置づけています。
これに従えばサービスとは需要と対価に応じて提供されるもので、それを上回る必要性はありません。求められた分だけ提供すれば良いのです。
一方でホスピタリティとは、最初から付加価値を加えるものだとされています。
期待感を上回る提供を受ければ、ゲストは再びそれを求めるようになります。
これがリピーターを生み出す源泉であり、欧米社会ではチップ、日本では心付けという慣習に表れているといえます。
このことからもホスピタリティは「相互関係」と「共生関係」が重要なキーワードなのです。
※語源の話はここまで※
ここまでをまとめると次のような感じ
- ホスピタリティはホスピタルやホテル、ホスト・ゲストなどに通じるものがある
- 「相互関係」や「共生関係」から生まれるものである
- 相手と立場が同一である「主客同一」に立脚している
- 上記を満たすような「心のこもったおもてなし」(「心のこもった」が重要)
ここまでホスピタリティの語源とサービスとホスピタリティの違いをピックアップしました。
なんとなくでもホスピタリティのイメージが掴めてきていたらいいのですが。
余談ですが、ホスピタリティとサービスの関係については各種意見があるそうです。
気になる方は更に調べてみてください。
[Ⅲ]スタジアムとホスピタリティ
さて、それではスタジアムにおけるホスピタリティとは何なのか。
具体的な話に入る前に少し考えてみたいところです
第3章 4 「米国にみるホスピタリティ産業」からの拡大解釈
《ホスピタリティ・マネジメント入門》
ホスピタリティ産業は、他産業生産誘発効果を受けることが極めて少なく、第一次・第二次産業の産業形態が縦断的産業であるのに対して、「横断的産業(インターリレイテッド・インダストリー)」といわれ、他産業へ与える生産誘発効果が高く、経済的波及効果が非常に大きい産業として評価されているものである。
本書ではホスピタリティとはサービスの上位概念であるとされています。
その上でホスピタリティ産業は「横断的産業」と表現していました。
ホスピタリティをサービスの上位概念と捉えればサッカー興業自体がホスピタリティ産業です。
サッカーの試合を核として食事、交通、宿泊、観光など様々な分野に影響を与えています。
基調講演やJリーグニュースでは、主に「社交の場」という意味で捉えられています。
しかし、これはサービスの上位概念としてのホスピタリティとは少し違う。
したがって、基調講演などで指摘されているのはホスピタリティそのものではなくホスピタリティ・ゾーン、すなわち「ホスピタリティを提供する場」を提供しているのだと考えるべきでしょう。
要するに、観客自身がホスピタリティを提供するためのスペースをスタジアムに備える。
それが、FIFAやJリーグなどが推奨しているスタジアム像なのではないでしょうか。
このように、食事の提供や名刺交換の場はまさに、「相互関係」、「共生関係」の象徴。
それを観客が自主的に行うことが出来る場が必要とされているのです。
[Ⅳ]参考資料
ここまでホスピタリティについて簡単に記述してきました。
しかし、この分野の研究をたった1回で説明できるはずもありません。
同時に今回うまく説明できてないと感じてしまう部分もあります。
もしも興味を持たれたなら是非ホスピタリティに関係する書籍を読んでみてください。
以下の2冊は個人的なオススメです。
ホスピタリティ・マネジメント入門第2版 [ 服部勝人 ] |
ホスピタリティ学のすすめ [ 服部勝人 ] |
傍士銑太のコラムは次の2つが関連すると思います。
ただ、ホスピタリティをそんなに難しく考えることもなありません
従来のただ観戦するだけのスタイルではなく、新しい観戦スタイルを提供する。
その一種がホスピタリティ・ゾーンだと考えればいいのではないでしょうか。
そして私たちはわざわざ言葉を尽くさなくてもその存在を身近に知っています。
広島市南区南蟹屋に位置する日本最高のボールパーク。
パーティルームなんてその代表的な姿です。
試合観戦の際に少しだけホスピタリティを意識してみるのも面白いかもしれません。
今回は長くなりましたがここまで。
次回はスタジアム八策の後半です 。