《Part.6》第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート
※当記事は2012年11月5日に開催されたスタジアムシンポジウムに関するものです※
今回はシンポジウム前半レポートの最終回。
最後に傍士銑太氏が述べた細々とした話をまとめつつ、最後に簡単に締めたいと思います。
<第1回サッカースタジアム建設シンポジウム 基調講演レポート・目次> | ||
回数 | テーマ | 内容 |
---|---|---|
第1回 | プロスポーツと地域社会 | コベントリーの事例 |
第2回 | プロスポーツと地域社会 | ドレスデン、カムデン・ヤーズの事例 |
第3回 | スタジアムの進化 | スタジアムの発展過程 |
第4回 | スタジアム八策 | スタジアムとホスピタリティ |
第5回 | スタジアム八策 | アオーレ長岡の事例 |
第6回 | その他 | Jリーグの求めるスタジアム像 |
[Ⅰ]基調講演=最後に色々と
各地のスタジアム構想
- 北九州のスタジアム構想
- 徳島のスタジアム構想
これからのスタジアム
これからの時代=少子高齢化、人口減少の時代
→サッカーが好きな人、スポーツの好きな人という単純な動機で集めるのは難しい
→観戦動機をいかに増やすかが鍵(食事など)
→動機がたくさんあるスタジアムがこれから重要に
笑顔がたくさんあるようなスタジアムを作っていきたい
しかめっ面の人が怒っているスタジアムより、老若男女が笑顔をこぼすようなスタジアム
Jリーグ開幕宣言
「スポーツを愛する多くの皆様に支えられまして今日ここに大きな夢の実現に向かってその大きな第一歩を踏み出します」
→この言葉の「スポーツ」を「スタジアム」に変えるだけで今日話をした価値があるかもしれない
広島について
ヨーロッパ勤務時に知っている日本の都市をあげてもらった
→回答で出てきたのは東京、大阪、京都、そして広島
→その広島は戦争のイメージの広島
→これからは逆に、プロスポーツの街広島、平和の使者というイメージを
世界最古のサッカークラブ=シェフィールドFC
→世界最古のクラブという看板だけで世界中を回ってチャリティイベントを行っている
→スポーツ文化を売りにしていくプロモーションもあっていいのでは
ここまでがメモ書きをもとにした基調講演ラストです。
[Ⅱ]Jリーグの求めるスタジアム像
ここまで傍士銑太氏の基調講演をまとめてきました。
その根幹となるのは前回・前々回で触れた「スタジアム八策」でしょう。
「スタジアム八策」は2010年に行った欧州視察のまとめでもあります。
実際に、基調講演でも具体的事例の紹介が多く、新鮮なお話をして頂きました。
その他では第1回で取り上げた街スタ・スタ街。
第3回で取り上げたスタジアムの変遷と管理→運営→経営という段階。
そして今回記述した観戦動機を増やすという考え方。
これらが重要なポイントとなるのは間違いありません。
今回のシンポジウムで傍士氏が語られたのは、いわばJリーグの考えるスタジアム哲学。
「こんなスタジアムがあったらいいな」という理想を言葉にしたものです。
一方でJリーグがスタジアムの指標として示しているのがJFAのスタジアム標準*1。
サッカースタジアムの建設・改修にあたってのガイドライン
《日本サッカー協会 2010年3月31日発行 前書き》
本スタジアム標準は、日本サッカー協会が 2002 年に発表した「スタジアム標準」をもとに、FIFA(国際サッカー連盟)が提示した「サッカースタジアム技術的推奨及び要件」を踏まえ、スタジアムのあるべき姿を示したものです。
今回の改訂にあたっては、二つの視点があります。ひとつに、 “スタジアム・ホスピタリティ”です。スタジアムは、そこでプレーする人ばかりでなく、観戦者、大会等の運営者、管理者、地域住民など、非常に多くの方々が関わりを持ちます。こうした多くの方々の誰にとっても、より愛されるべき“サッカースタジアム”を目指すものです。特に、観客席は冬期においても気持ち良くサッカーを観戦できるようなオールシーズン対応型を目指し、その他に入場ゲート、コンコースの売店・レストランの整備など、観客にとって、これまで以上のより一層のホスピタリティ溢れるサッカースタジアムを目指します。
ふたつめは、“世界標準”。サッカーは世界のスポーツです。2002 年のFIFA ワールドカップの記憶も新しいところですが、各種世界大会を誘致するには、世界を視野に入れた魅力的なスタジアム環境が求められます。それには、スタジアム自体が、時代に応じて、サッカー、スポーツの魅力を最大限に世界中の人々に発信できる機能を有していることが求められます。
本標準は、新しくサッカースタジアムを建設する際の指標になることは勿論、改修など既設のスタジアムを充実させる際に拠り所となることを主眼としています。本標準に沿うかたちで、スタジアムが建設・改修されることで、プレーする選手、観客、試合を運営する関係者、更にはスタジアム周辺の地域住民に対して、サッカーというスポーツのより一層の素晴らしさ、楽しさを提供できることを心より願うものです。
「スタジアムはかくあれ」を定めたのがこのスタジアム標準だと言えるでしょう。
その中身は先ほどの"スタジアム哲学"がふんだんに散りばめられています。
ホスピタリティはもとより、ロケーション、エコスタジアム等々...。
今回のシンポジウムを切っ掛けにして、改めてスタジアム標準を読み直すのもいいでしょう。
新しく見えてくることもきっとあるはずです。
[Ⅲ]スタジアムを作るのはクラブ、ファン、そして地域
Jリーグの求めるスタジアム像はとても立派なものです。
そのスタジアムならカスタマーサティスファクションを最大化できることを疑っていません。
しかし、一方でそんな立派なものが簡単に作れるのでしょうか。
スタジアム建設にはいくつかのハードルが存在します。
1つ目は金銭面。お金がなくてはスタジアムを作ることは出来ません。
2つ目は土地。建てるだけでなくロケーションも含めて適切な土地が必要です。
3つ目は理解。行政の力を借りる場合は地域の理解が不可欠です。
他にも法令や管理・運営など様々な制約が出てくると予想されます。
Jリーグの求めるスタジアム像はこれらのハードルを越えた先に存在しています。
あくまでもそれは理想として、地に足を付けたスタジアム像も意識するべきでしょう。
Jリーグのスタジアム像は海外の研究に裏打ちされたものが多く、それが実際に建設を考えている地域にも当てはまるかどうかは疑問が残ります。
Jクラブも全国に多数誕生していますから、個別具体的な指標を用意するのは難しい。
理想論・一般論が中心となっているのは当然と言えば当然かもしれません。
前回取り上げたアオーレ長岡のようにまずは自己分析。
そして、「スタジアム八策」の説明で用いられた「ロケーションを決めるのはそのスタジアムに何を求めるか。目的、そのスタジアムから街として地域として何を得たいかそれが合意されれば自ずと場所は決まってくる」という言葉を大事にするべきではないでしょうか。
Jリーグのスタジアム像はしっかりと参考にしつつ。
その上で自分たちに必要なスタジアムとは何なのかを深く考えることが大事。
それがこの基調講演を聴いた上でだした私の結論です。
「○○が××と言っていたから」という理由は拙い。
「スタジアムは街の誇り」「私たちのスタジアム」というにはそれだけでは足りないのです。
[Ⅳ]参考資料、その他の補足
今回は短いですが、シンポジウムで配付された資料3点について。
ここまで何度となく取り上げたJリーグニュース特別編も入っていました。
- シンポジウムのプログラム
- Jリーグニュース特別版 スタジアムの未来
- アンケート用紙
プログラムの裏面にはサンフレッチェの署名ページにもある「『サッカースタジアム』の潮流」のほか、「サッカースタジアム建設が地域にもたらす効果」、「全国で構想・計画が具体化しつつあるスタジアム候補地」が載っていました。
最後にJリーグのスタジアム像を理解するのに適した映像資料をまとめておきます。
www.youtube.com
www.youtube.com
www.youtube.com
見たことがないものがあったら是非一度見てみてください。
「スタジアムが必要」と言うは易し行うは難し。
そう思ってない人を説得するためには自分の中でしっかりと消化しておかないと難しい。
「何かできることはないか」と考えている人はまず勉強してみませんか。
約2ヶ月と長いシリーズになってしまいましたがお付き合い頂きありがとうございました。
なんとかスタジアム協議会がスタートするまでにと思って企画した本シリーズ。
書き終わった段階ではまだ立ち上がっていませんが、間に合ったでしょうか?
拙い文章でしたが、少しでも参考になれば幸いです。
*1:現在はこれに加えてUEFAガイド:良質なスタジアム建設の手引き(日本語版)が公開されている。