サンフレッチェ広島 2018年通信簿(その一) 成績編
あけましておめでとうございます。
本年も当ブログをよろしくお願いいたします。
さて、本年最初の更新は前年を通信簿形式で振り返る企画。
昨年は今年の漢字として「変」を採用しました。
「変」化、「変」更、「変」革、そして大「変」な一年だったという印象からです。
2012年から3度の優勝を見せてくれた森保体制は終焉し、変革の時を迎えました。
クラブもサポーターも強い危機感を持って臨んだ一年だったように思います。
その1年を漢字一字で喩えるとすればこの漢字でしょうか。
《J's GOALの「今年の漢字」を加工したもの》
まるでサポーターを「試」すかのような成績の乱高下は「試」練と言っていいほど。
有料駐車場の「試」験導入をはじめとしてクラブも「試」行錯誤を重ねました。
全てが結果を出せたわけではありません。
しかし、改革を進めるための「試」みを数多く実施した一年だったのではないでしょうか。
それでは2018年シーズンを「試」をキーワードに振り返ってみたいと思います。
[Ⅰ]2018年シーズンの成績
大会 | 成績 |
---|---|
J1リーグ | 2位 |
ルヴァンカップ | 予選リーグ敗退 |
天皇杯 | ベスト16 |
前年残留争いをしたチームが見事2位でフィニッシュ。
ただ、皆さんご存じの通り前半戦と後半戦が対極のような一年でもありました
このように前半戦勝ち点を荒稼ぎしていましたが、後半戦は大失速して川崎Fが逆転優勝。
それどころか鹿島・札幌の猛追を受けて2位の座すら危うかったほどです。
前半戦勝ち点1位のチームの前半戦と後半戦の成績を比較したのがこちら。
実は前半戦1位で最終的に年間勝ち点1位だったケースは直近20年間でわずか6例。
前半戦の平均勝ち点を上回るケースが皆無な点もJリーグの難しさを痛感させてくれます。
ただ、それを差し引いても2018年のサンフレッチェ広島はジェットコースターのようでした。
上記の表にあるように、前半戦平均勝ち点は2009年の鹿島に次いで史上2位タイ。
一方で、後半戦の失速度合いはおそらく直近20年間で最も酷かったのではないでしょうか。
「平成最後のリーグ覇者」「夢のカープとダブル優勝」
そんな夢を中断期間中に抱いたサポーターも少なくないと思います。
そういう意味ではサポーターにとって2017年とはまた別の形の「試練の年」でした。
[Ⅱ]好不調の理由
では、何故このようにジェットコースターのようなシーズンだったのでしょうか。
新聞雑誌などの論評を集約していくと次の3点が主に指摘されているようです。
第一に、前半戦におけるコンディション調整の成功があげられます。
サンフレッチェ広島は2017年オフを例年以上に長くとることを決めていました。
このように、2017年シーズン終了後のオフは過去14年間で最長の51日間でした。
第16回サポーターズ・カンファレンス議事録
《サンフレッチェ広島 2018年1月20日開催》
回答(足立強化部長)
練習のスタートについては、久しぶりに選手たちを休ませました。ここ数年はACLが絡んだり、天皇杯の勝ち残りなどでオフが短かった。いろいろな意味での心身のプレッシャー、肉体疲労が蓄積され、ここ数年は「勤続疲労」があったと思います。そこで思い切って休ませようという狙いから、この日程になりました。先週から自主トレは始めていて、ほとんどの選手が練習していますので、良い休みが取れ、良いコンディションで迎えられたのではないかと思っています。
ここで説明されているように2015年~2016年のオフが短かったことは事実。
2014年オフも2012年~2013年のオフの短さを受けて長めに設定していたようです。
後で分かったことですが、これはヨンソン前監督のもと決められていたことでした*1。
同じ監督が引き続き指揮を執るのであれば、たしかにおかしな話ではありません。
しかし、新監督に変わったことでメンバー選定だけでなく戦術指導もしなくてはならない。
しかもW杯イヤーということで過密日程になるのはシーズン前から明らか。
さらには降雪による吉田公園使用不可、タイキャンプの暑熱馴化と課題は山積みでした。
それらをまとめて解決してくれたのが、2018年に招聘した池田フィジカルコーチ。
池田氏の指導もあって連戦にもかかわらず非常に強度の高いサッカーができました*2。
池田正剛フィジカルコーチ/タイキャンプでのフィジカルコーチング
《「TSSサンフレッチェ広島」公式モバイルサイト 2018年2月4日付》
広島はオフの時間が6週間もあり長かったじゃないですか。自主トレを入れず、みんなが同じメニューをこなすのが4週間。そこで開幕を迎えるのが1つのポイントなんです。
6週間というオフの間、選手は自主的なトレーニングをしているが、個人によって内容が全然違う。何をどれだけやってきたか、揃えられてはいない。でもチームとして、揃えていかないといけない。みんなが同じコンディションならやりやすいが、全員バラバラなんです。今は、1つのメニューを全員でやるレベルではない。例えば、稲垣とティーラシンを2人とも同じメニューをこなせるわけがないんです。このデコボコな状態をフラットにならしながら、最高のコンディションをつくっていき、ゲームに持って行くことが1番難しいところ。そして今はそれをやっている段階ですね。
そして選手のコンディションが良かったこととW杯による連戦が見事にマッチ。
フィジカルコンディションをあげてパトリックで殴る戦術が見事にハマりました。
チームだけでなく、林卓人とパトリックが月間MVPを獲得*3。
青山敏弘は最終的に辞退したものの、ロシアワールドカップの候補にも選ばれました*4。
チームとしても個人としても素晴らしいサイクルを生み出したこと。
これが前半戦の快進撃に繋がったのです。
第二に、W杯中断を上手く生かせなかったこと。
2018年は前述の通りW杯イヤーだったため、5月~7月まで約2ヶ月間の中断がありました。
この間に韓国キャンプを実施して体力強化と攻撃力アップに力を注いだそうです*5。
しかし、残念ながら失敗とまでは言わずともこれが上手くハマりませんでした。
サンフレ2018 シーズン総括 <上> 失速の背景 望外の独走 戦術に迷い
《中国新聞 2018年12月3日10面》
約2カ月間の中断期、指揮官は新たにパスをつなぐ戦術に取り組んでいた。だが堅守速攻で積み上げた勝ち点。負ければ守備を重視した前半戦のスタイルに回帰した。結局、攻撃の幅は広がらず、待っていたのは得点力不足。戦術の迷いに、9月1日の勝利を最後に白星は遠のき、川崎に2連覇を許した。
また、千葉和彦、渡大生、森島司が手術するなど長期離脱も比較的多いシーズンでした*6。
しかし、中断中に補強したのはFWのベサルト・ベリーシャのみ*7。
逆に、丹羽大輝と高橋壮也を放出するなど編成面からチームを支えられませんでした*8。
サンフレ2018 シーズン総括 <中> 進まぬ育成 先発固定 世代交代阻む
《中国新聞 2018年12月4日14面》
「選手層に明らかな課題があった」と指揮官が言うように、チームのいびつな年齢構成にも問題があった。シーズン最終戦時点で、広島が保有する選手は30歳代が11人に対し、24歳以下は7人。J1では浦和、鳥栖に次いで3番目に少ない。そのうち3人は高卒1年目で、主力と競える若手の人数が少なかった。このような状況もメンバー固定化に拍車を掛けた。
第三に、後半戦途中で方針転換できなかったことがあげられます。
対戦相手が広島のウィークポイントを的確に突いてきているのに対して、選手起用が硬直化したまま終盤まで戦い続けることになってしまいました。
上図はリーグ戦の出場時間でJ1チームを比較したものです。
このように90%超出場している選手が広島には5人おり、リーグ最多*9。
80%以上、70%以上で見ても広島が最多であることからも選手起用の硬直化は明らかです。
実際、選手起用・戦術の硬直化については城福監督も認めていました。
城福浩監督が2018シーズンの総括会見を行いました!
《サンフレッチェ広島 2018年12月4日付》
Q)中断期が明け、9月以降、勝点をなかなか積み上げられなかった原因は。
「もちろん戦っている中でもスタッフと話し合い、選手とも話し合い、自分の中でもいろんな思いが巡ったし、選択肢もあった。ただ、史上最大の勝点を取ったと言われた我々の15試合があった後だったので、我々の立ち返る場所を失ってはいけないとずっと思っていた。もう一つは、安易にいろんなものを変えた時に、選手たちが場所にフォーカスして、チーム作りをスタートした部分に目が行かなくなるのは嫌だと自分が判断した。実際、そうなるかは分からない。ただ、今年のチーム作りを考えた時に、立ち返る場所だけは安易に手放さない中でクオリティーを上げていこうとした。その葛藤によって、ひょっとしたら選手によっては自分の得意なことを出し切るだけでなく、クオリティーのところに少し頭がいってしまったり、そこにこだわることによってハードワークのところが少し疎かになったとしたら、何か一つのことに徹底させることができなかった私の問題だと思っている」
前半戦は過密日程だったため功を奏したコンディション差で殴る戦い方が通用しなくなる。
さらにはパトリックの膝の状態が悪化していたことと*10、代役不在の状況。
そして上記のような指揮官の迷いが後半の失速を生んでしまったのだと思います。
[Ⅲ]賞金
ただ、そうは言っても2位に踏みとどまりました。これはクラブの歴史上4番目の成績です。
しかも、前年残留争いをしたチームが2位になった。V字回復としか言いようがありません。
さらに、2位を死守したことで賞金は最高で8.2億円にまで受け取ることができるそうです。
今季2位の臨時収入8億2000万円 補強や育成に、慎重に使い方検討
《中国新聞 2018年12月12日面》
J1で2位となった広島は、リーグから支給される理念強化配分金(7億円)と賞金(1億2千万円)を合わせ総額8億2千万円を手にする。クラブにとっては、安定経営に向け大きな追い風となる臨時収入。使い方を慎重に検討している。
理念強化配分金は、Jリーグが英国の動画配信大手と大型契約を結んだ2017年に新設。1~4位に順位に応じて支払われる。広島には19年に4億円、20年に2億円、21年に1億円と3年間で計7億円が入る。
使用目的は、選手獲得などのチーム強化、アカデミー組織を含めた選手育成、練習場などの環境整備、地域交流の推進と定められている。各年、Jリーグに計画書を提出し、審査を経て支給を受ける。2位の賞金は選手・スタッフに6割、クラブに4割で分配する予定。
なお、2015年に獲得した賞金は約5.5億円ですから2018年単年でも歴代最高クラス*11。
また、フェアプレー賞(J1)も受賞しましたのでその賞金も手にしました*12。
7年連続8回目で、歴代最多受賞は誇らしく思います。
他方で、2012年から6年連続で獲得していたフェアプレー賞高円宮杯は逃しました。
ただこれは、単純にセレッソ大阪の反則ポイントが非常に少なかっただけのこと。
2018年に記録したマイナス11ポイントは2014年シーズンに次ぐ2番目に少ない数字でした*13。
キックオフ遅延時間も加味すれば後一歩及ばなかっただけ。
《Jリーグ公式サイトより》
[Ⅳ]仔熊たちのたたかい
2018年といえばユース・ジュニアユースらの活躍を無視することはできないでしょう。
2018年シーズンからユース監督の沢田謙太郎氏がトップチームコーチと兼任になりました*15。
第16回サポーターズ・カンファレンス議事録
《サンフレッチェ広島 2018年1月20日開催》
チーム強化と選手育成について(足立修 強化部長)
今まではトップチーム、ユース、ジュニアユース、ジュニアで、若干の分断があったように反省しております。年代によって、トップチームと同じサッカーはできないと思いますが、指導者は同じ意識を持っていなければならない。我々のクラブには、城福監督、ユースの沢田謙太郎監督と、いろいろな監督がいますが、サンフレッチェとして考え直しているのは、監督は城福監督であり、以下トップ、アカデミーの指導者は全員一律のコーチだということ。週に一度、アカデミー以下のスタッフが集まってのミーティングを常にやっておりますが、そのあたりを、さらに強化していこうと思っております。
この取り組みの結果、沢田監督の心身を心配する声も多かったように思います。
しかし、そんな我々の心配を吹き飛ばし、高円宮杯ファイナルを制することができました。
https://twitter.com/sanfrecce_SFC/status/1073855946097549319
さらに、ジュニアユースもクラブユース選手権(U-15)大会で優勝。
https://twitter.com/sanfrecce_SFC/status/1032835819147411456
仔熊達が勇気を与えてくれた一年でもありました。
[Ⅴ]まとめ
ここまで2018年シーズンのサンフレッチェ広島の成績を見てきました。
終盤の失速は気がかりですがトータルで見れば評価されるべき結果だと思います。
少なくともシーズン当初目標のJ1残留は果たしたのですから正当な評価をするべきでしょう。
2019年シーズンは3年ぶりのACL出場も決まりました。
過密日程が確定し、シーズン前に戦術的な面でリセットがかかるのも不安要素ではあります。
ですが、また一年厳しい戦いを乗り切って欲しいと思います。
さて、最後になりますがどうしても語らなければならない存在がいます。
それが森﨑和幸の引退についてです。
www.youtube.com
www.youtube.com
1999年に二種登録で試合出場してから20年間サンフレッチェ広島でプレーしました。
サンフレッチェ広島の歴史自体がまだ27年程度ですからその偉大さは十分伝わるでしょう。
ただ、彼のことを語るにはスペースがいくらあっても足りません。
森﨑和幸に関する素晴らしい記事を紹介することで彼に対する敬意を表したいと思います。
20年間本当にお疲れ様でした。ありがとう。
www.soccer-king.jp
www.footballista.jp
number.bunshun.jp
sportiva.shueisha.co.jp
sportiva.shueisha.co.jp
https://twitter.com/sanfrecce_SFC/status/1066233956121505794
https://twitter.com/sanfrecce_SFC/status/1066234676791009281
*1:手応え《ちゅーピーメルマガ:運動部デスク日誌 2018年2月7日配信》、池田誠剛が語る、城福浩。「彼が評価されなければ、日本に未来はない」《footballista 2018年8月14日付》。
*2:【ライターコラムfrom広島】「エンジン」から「扇の要」へ…心身ともに崩壊した1年を乗り超え、青山敏弘は進化する《サッカーキング 2018年5月5日付》、池田誠剛が語る、広島。「ここにいる選手たちを鍛え上げたい」《footballista 2018年8月15日付》。
*3:2、3月度『明治安田生命Jリーグ Mastercard priceless japan 月間MVP』に、林卓人選手が選出されました!《サンフレッチェ広島 2018年4月17日付》、5月度『明治安田生命Jリーグ Mastercard priceless japan 月間MVP』に、パトリック選手が選出されました!《サンフレッチェ広島 2018年6月5日付》。
*4:「キリンチャレンジカップ2018」の日本代表メンバーに、青山敏弘選手が選出!《サンフレッチェ広島 2018年5月18日付》、青山敏弘選手、日本代表メンバー離脱のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年5月24日付》。
*5:体力・攻撃力アップへ あすから韓国キャンプ 監督、底上げ図る サンフレ《中国新聞 2018年6月22日18面》。
*6:千葉和彦選手の手術について《サンフレッチェ広島 2018年2月27日付》、渡大生選手の手術について《サンフレッチェ広島 2018年6月20日付》、森島司選手の手術について《サンフレッチェ広島 2018年8月7日付》。
*7:ベサルト・ベリーシャ選手(メルボルン・ビクトリー)完全移籍加入のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年6月29日付》。
*8:高橋壮也選手 ファジアーノ岡山に期限付き移籍のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年7月10日付》、丹羽大輝選手 FC東京へ完全移籍のお知らせ《サンフレッチェ広島 2018年7月18日付》。
*9:林卓人(2060分・100%)、佐々木翔(3045分・99.51%)、和田拓也(2946分・96.27%)、青山敏弘(2814分・91.96%)、パトリック(2809分・91.80%)。
*10:パトリックが残留へ サンフレ《中国新聞 2019年1月9日16面》。
*11:J1年間勝ち点1位の8千万円、2ndステージ優勝で5千万円、CS優勝で1億円、天皇杯ベスト4で2千万円、クラブW杯3位で250万ドル(約3億円)を獲得した。懐にもV効果、賞金既に3億円 天皇杯で加算も《中国新聞 2015年12月7日20面》、佐藤寿人、クラブW杯3位の賞金は「サッカースタジアム建設に」《サッカーキング 2015年12月20日付》。
*12:2018Jリーグ 各賞発表のお知らせ 最優秀選手賞は家長 昭博選手(川崎フロンターレ)が初受賞~同一クラブからの最優秀選手賞3年連続選出は初~《Jリーグ.jp》、2018Jリーグアウォーズ 各賞の副賞が決定《Jリーグ.jp 2018年11月15日付》。
*13:なお、反則ポイントの集計方法はたびたび変更されている。例えば2012年には異議行為と遅延行為の罰則が強化され、それぞれ追加で1ポイント加算されるようになった。「+Qualityプロジェクト」(プラスクオリティープロジェクト)の発足について《Jリーグ.jp 2019年3月13日閲覧》。
*14:サンフレッチェ広島はフェアプレー賞高円宮杯を6年連続で受賞していた。広島がJ3連覇中の「反則ポイント」。球際の激しさとクリーンの両立は? 《Number Web 2015年11月7日付》、【サンフレッチェ広島】5年連続6回目の受賞「フェアプレー賞高円宮杯」《リビングひろしま.com 2017年1月7日号・新春号掲載》。
*15:2018シーズン アカデミー担当スタッフについて《サンフレッチェ広島 2018年1月9日付》。