小谷野社長の退任に寄せて
サンフレッチェ広島 小谷野薫代表取締役社長の退任のお知らせ
《サンフレッチェ広島公式HP 2015年2月12日付》
本日、サンフレッチェ広島は、「平成27年度第1回取締役会」を開催し、代表取締役社長 小谷野薫(こやのかおる)の退任が決まりましたので、お知らせします。
小谷野薫 前代表取締役社長 コメント
本日の取締役会で、代表取締役社長を退任する承認をいただきました。一身上の都合での急な退任でもあり、株主、スポンサー、サポーターをはじめとする皆様にはご迷惑をおかけしました。
また、サンフレッチェの取締役になってから3年、社長になってから2年の間、皆様には本当にお世話になりました。この間、チームのリーグ戦2連覇やACLの2年連続出場、天皇杯とJリーグヤマザキナビスコカップの準優勝と、今となっては素晴らしい思い出ばかりです。また、監督や選手をはじめとする現場やフロントスタッフが一丸となって、サンフレッチェは安定的な経営基盤を築くことができました。新しい社長、新しい経営体制のもとで、サンフレッチェがさらなる発展を遂げることを祈って止みません。
最後にサポーターの皆様、至らぬことだらけの風変わりな社長に2年間お付き合い下さり、本当にありがとうございました。いろいろなアクシデントや失敗もありましたが、社長就任の時の挨拶の通り、自分なりに「1日25時間」突っ走れたと思います。この2年間は私の人生にとっての宝物のような時間でした。
これからも私は広島のために頑張ります。今シーズンもまた激しい戦いが続くと思いますが、これまで以上に「輝く誇り」をもって、サンフレッチェへの熱い声援をよろしくお願いします!
備考
新社長につきましては、2月20日(金)に行われる取締役会にて、決定する予定です。決定次第、改めてお知らせいたします。
小谷野薫前社長の退任が正式に発表されました。
小谷野氏が1月19日に今年4月の広島市長選挙への立候補したことは周知のことでしょう*1。
当初は現職のままでの出馬を宣言していましたが、けじめをつけることを改めて表明。
サンフレッチェ広島を離れることになりました。
社長在任期間は2年と少しということで史上最短。
それにもかかわらず長年付き合ったような感覚になるのは人徳と実績のなせる技でしょうか。
代 | 名前(敬称略) | 在任期間 | 出身 | URL |
---|---|---|---|---|
初代 | 古田徳昌 | 1992年4月~1995年6月 | マツダ | - |
第二代 | 信藤整 | 1995年6月~1998年6月 | マツダ | - |
第三代 | 久保允誉 | 1998年6月~2007年12月 | デオデオ(現エディオン) | - |
第四代 | 本谷祐一 | 2007年12月~2012年12月 | デオデオ(現エディオン) | ◆ |
第五代 | 小谷野薫 | 2013年1月~2015年2月 | エディオン | ◆ |
今回はそんな小谷野前社長の退任に寄せて思い出を書いてみました。
[Ⅰ]社長就任と経営再建5ヵ年計画
小谷野氏がサンフレッチェの社長に就任したのは2012年12月のこと*2。
もともとはエディオン顧問としてサンフレッチェ広島の経営再建に関わっていました*3。
その後、2012年4月にはサンフレッチェ広島の取締役、9月には常務取締役に就任しており、減資の責任を取って退任する意向だった本谷氏の後任として招聘されたということでしょう*4。
小谷野氏にまず求められたのは自身も関わっていた経営再建5ヵ年計画の遂行。
詳細は明らかになっていませんが、5年間の累積利益2億円などが課されていたようです。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
経営面に目を転じますと、昨年に減資・増資を実施した時に株主の皆さんに提示した『経営再建五カ年計画』のなかで、5年間で累計利益2億円を達成しましょうという目標を掲げました。非常に幸運なことに、昨年度は2億円超の利益を出すことができました。
その経営再建計画はひとまず目処が立ったと言っていいでしょう。
3期連続の大幅黒字でおよそ4億5000万円弱の利益をたたき出しています。
これによって、今後2年間堅実に経営することで経営再建5ヵ年計画は無事達成できるはず。
また、2012年の増資と利益確保により純資産は7億円を突破。
安定経営のための基盤を確保することが出来ました。
《第13回サポカン ~優勝効果という魔法が解けたとき~より》
これは前回述べたように優勝効果が大きかったのは事実ではあります。
ただ、小谷野氏に課されていたタスクが確実にクリアされたというのも事実です。
全て小谷野氏の手腕によるものと言うのは難しいのですが、優勝・連覇というチャンスをしっかりと利益に結びつけた事実は一定の評価を与えるべきものでしょう。
[Ⅱ]小谷野社長時代の取り組み=継続、そして発展
経営再建と同時に小谷野氏が取り組んだことの1つは広告宣伝の分野。
小谷野氏は就任直後の紫熊倶楽部のインタビューで次のように答えています。
ロングインタビュー 小谷野薫新社長 継続
《紫熊倶楽部 180号(2013年2月号)22頁》
小谷野
減資・増資の時にエディオンの顧問として経営再建5ヵ年計画のレビューとアドバイスをしたのですが、本谷前社長のリーダーシップのもとで、その骨格はかなりできあがってきたと思います。フロントの志気も高いし、来年に向けて何をやるべきかの指針もはっきりしている。問題は、プロモーションやビッグアーチ集客など様々な企画が立ち上がっても、広告宣伝費等の制約があった中では、やりたくてもできなかったことが多かったことだと思います。それを少しずつ形にしていくのが、来年度以降の経営課題となります。
優勝効果により資金面の課題を解決し、多くのアプローチを試みました。
その中で出てきたキャッチフレーズが、広島の街に「もっと紫を」というもの。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
また、話は変わりますが、経営上のさらなる課題として付け加えるならば、これは明確に数字に表れるものではありませんが、サンフレッチェの広島におけるさらなるプレゼンスの拡大が挙げられます。昨年はおかげさまでクラブ創設20周年で初優勝しましたが、広島の街にまだまだ紫が少ない。街に「もっと紫を」ということで、試合の告知やサンフレッチェを応援する気運をさらにどうやって盛り上げていくのか、クラブとして知恵を出さなければいけないところだと考えています。
その成果の1つがPRサポートショップのページの充実でしょう。
数えるのも大変ですが2015年1月31日時点で451件も登録されています。
過年度との比較は資料不足でできませんが毎年確実に増えているようです。
PRサポートショップではスローガン入りの幟を掲げたり、ポケット日程表を設置しています。
ショップ数が増えれば増えるほど街中に紫が広がっていくわけです。
また、2013年9月にはTwitterとLINEアカウントを開設*5。
2014年5月には公式HPをフラットデザインに変更するなどウェブ上でも変化が見られました。
特に2013年から始まったバナー芸には楽しませてもらいました。
従来の堅苦しい宣伝ではなく、話題にしやすく取っつきやすい印象は大事です。
《サンフレッチェ広島より》
2013年マスコット総選挙で32位だったサンチェのテコ入れも話題になりました。
その結果、2013年の第2回 輝く!Jリーグマスコット大賞では主演男優賞を受賞*6。
2014年総選挙では直前に整形を敢行したこともあって(?)2位に躍進しました*7。
その成果もあって2014年第3回マスコット大賞ではマスコット大賞を受賞*8。
そして2015年総選挙では1位でセンターを獲得するなど一躍有名キャラクターに*9。
《サンフレッチェ広島より》
マスコットとしてのキャラも立ってきたのは素晴らしい成果と言えるでしょう。
特にサンチェを起用しての宣伝が期待できるようになったのは非常に大きい。
このように、リアル・ネット共に宣伝に力を入れ、一定の成果を得ることができました。
その他にもグッズ開発にも力を入れ、その売り上げはリーグ上位に。
スポンサーの数もホームページ上ではかなり増えました。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第12回サポーターズカンファレンス議事録》
そうしたなかで、グッズ収入の伸びが注目されます。今年度は4.0億円と昨年度3.4億円から0.6億円の増加が見込まれます。2012年シーズンの優勝記念グッズの一部のデリバリーが遅れたことから本年度に昨年度から収入がずれ込んだ面もありますが、ついに4億円到達とリーグでも3~4位の水準に近づいています。
5)その他(森脇豊一郎企画広報部長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
回答(小谷野社長)
ただ、我々の中でも出ている話ですが、広島や中国地域に根ざしているスポンサー比率をできるだけ上げていきたいという思いもあります。そうした意味では、まだまだ広島のスポンサーを増やせるのではないか、まだまだ未開拓な部分もあるのではないかと考えます。安易に中央の大企業にばかり頼らずに、サンフレッチェ広島の地元の深堀りの戦略をやっていくのが王道だと考えています。
こうした変化も優勝効果があってこそ。
資金面の制約から解放され、知名度が増したからこそ進んだことだと言えます。
逆に言えば、小谷野社長の実績とは優勝効果という波に上手く乗って、サンフレッチェ広島のポテンシャルを最大限活かしたことではないでしょうか。
[Ⅲ]夢スタプロジェクトの推進
小谷野社長時代の大きな取り組みの1つにスタジアム運動が挙げられます。
サンフレッチェ広島の社長としての活動としては、主に署名活動とシンポジウムの開催の2つ。
署名活動自体はもともと広島県サッカー協会が実施していたものを継続・発展*10。
サンフレッチェも加わって活動が本格化したのは本谷氏が社長在任中の2012年夏のこと。
なお、広島市、広島県、商工会議所に要望書を提出したのもこの頃です*11。
小谷野氏が社長に就任した翌月、2013年1月には約37万件の署名を提出。
『サッカースタジアム建設早期実現のための署名簿』提出についての記者会見を行いました
《サンフレッチェ広島 2015年2月24日閲覧》
本日、公益財団法人広島県サッカー協会・サンフレッチェ広島後援会・サンフレッチェ広島の3者は、サッカースタジアム早期実現のための署名簿(2013年1月17日現在の署名数【369、638件】)を松井一實市長、湯崎英彦県知事に提出し、広島市および広島県へ署名活動の報告をいたしました。これに伴い『サッカースタジアム建設早期実現』に向けて、さらに加速していくために引き続きご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
2014年6月には40万件を突破し、村井チェアマンを招いてトークイベントも実施しました*12。
こうした活動とリーグ初優勝という熱気もあって2013年6月には漸くサッカースタジアム検討協議会が設置され、小谷野氏も委員の一人として参画することになりました。
署名活動と並行してシンポジウムも積極的に開催しました。
シンポジウムでは佐藤寿人選手、中島浩司氏や森保監督を招いたり、協議会の話が中心*13。
スタジアムの熱を失わせないようとする取り組みだったのでしょう。
2014年7月には森保監督が欧州のスタジアム視察を行う企画を実施。
ホームテレビで放映されたほか、youtubeでも公開されています。
一方、サッカースタジアム検討協議会の委員としての活動にも積極的に取り組みました。
最終的な結論はみなと公園と旧広島市民球場跡地の2ヶ所併記でしたが、小谷野氏の説明などがなければみなと公園で決まっていた可能性も否定できません。
久保社長時代、本谷社長時代から取り組んでいたスタジアム運動。
小谷野氏の社長在任中に実を結ぶことはありませんでしたが、種は蒔きました。
[Ⅳ]積み残した課題
当然ではありますが、成功の陰で積み残した課題も多くあります。
その1つが年パス販売数の拡大。
毎年、サポカンで小谷野氏が口を酸っぱくして言ってきたことでもあります。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
また、「クラブ経営上の一番の課題は何か」というサポーターの方々からの質問に答えるならば、喫緊の課題としては、個人観客向けのシーズンパスの売り上げが伸び悩んでいることが、経営の安定性という観点からは依然として大きな課題です。クラブ史上初めて4,500枚の大台に乗りましたが、大抵のJリーグ優勝クラブで、翌年のシーズンパスは6,000枚程度を販売しています。また、他のJクラブですとシーズンパスとレプリカ・ユニフォームの販売数は大体同じくらいです。今年はJリーグとACLとで2着ご購入いただいたサポーターの方もいらっしゃいますが、それを考慮しても約7,000人がレプリカ・ユニフォームを購入している。うちのシーズンパスの販売数は、スタジアムの立地条件など色々考えてもやはり物足りないなと私は考えています。また、シーズン後半に向けてのハーフ・シーズンパスも売れていない訳ではありませんが、われわれの見込みほどではないという事実もあります。
昨日も経営会議の中で来シーズンの販売目標として「6,000枚ぐらい」と現場スタッフサイドから話が出てきましたが、私は「7,000枚ぐらいは行っても良いんじゃないか」と話したばかりです。フロントの英知を集めてシーズン・パスの販売数を伸ばしていきたいと考えているところです。特典のあり方とか、クラブとしてのマーケティングの体制作りとか、かなり経営の根幹を成す部分だと思います。
優勝効果もあって2011年度の販売数約3300枚から大幅に増加しています。
2012年度は約3300枚、2013年度は約4500枚、2014年度が約5000枚でした。
確実に増えてはいるのですが目標として設定しているのは6000枚台の大台。
今後優勝効果が薄れていく中で、新体制はこの課題に取り組むことになります。
また、優勝効果からの脱却もポイントとなるでしょう。
前回も説明しましたが、優勝効果は非常に大きな影響を与えていました。
今後はそれに頼らないでも安定的に黒字になることが求められます。
そして、経営再建5ヵ年計画の完遂も積み残し課題と言えます。
最早ほぼ達成が確実ではありますが、小谷野氏が語っていたように安定経営のためには2015年度を黒字に出来るか否かということは大きなポイントとなってきます。
[Ⅵ]小谷野社長の退任に寄せて ~広島市長選に向けて~
全体的に少し駆け足になってしまい申し訳ありませんでした。
小谷野社長時代のことを語るには時間とスペースが全く足りなかったもので。
たった2年間とは思えないほど濃密な内容だったと思います。
それはここまで述べてきた客観的事実の基づく実績だけではありません。
トップチームの試合には当たり前のように顔を出し、ユースの試合まで見に行く。
そんな誠実な対応を2年間見てきたからこそだと思います。
明日、ついに広島市長選の投票日を迎えます。
これからの4年間、広島市の舵取り役を選ぶ、とてもとても大事な選挙です。
4年間というのは短いようで非常に長い期間です。
4年前のサンフレッチェは前監督時代、未だ三大タイトルに届いていない時代でした。
それからの4年間で私たちはリーグとゼロックスで連覇を果たし、ACLは初のGL突破。
また、悔しいことですが天皇杯とナビスコカップで準優勝をすることができました。
同じ広島にあるプロスポーツ、カープも似たようなものでしょう。
2011年まで2年連続5位だったものが順位を上げていき2年連続CS出場。
4年間で物事は劇的に変わるというのは広島の人間が一番知っているのかもしれません。
選挙に行っても何も変わらないという人もいるでしょう。
その言葉は選挙に行って投票することで初めて言うことのできる言葉です。
是非投票に行ってください。
私には広島市の選挙権がないんだという人がいるでしょう。
それでもできることはあります。
広島市に選挙権を持つ知り合いに投票に行くように伝えてください。
特定候補への投票を頼むのではなく、投票をお願いすることが必要なのです。
明日、これから4年間の広島市の旗振り役が決まります。
難しいことはできなくても仕方ありません。できることを最後までやりましょう。
すなわち、投票と投票のススメです。
それをやりきって最後は笑いましょう。
*1:広島・小谷野社長が市長選出馬表明 サッカースタジアム建設推進へ《スポーツニッポン 2015年1月17日付》。
*2:サンフレッチェ広島 本谷祐一代表取締役社長の退任ならびに、小谷野 薫(こやの かおる)代表取締役社長就任のお知らせ《サンフレッチェ広島 2012年12月18日付》。
*3:減資及び第三者割当増資完了のお知らせ《サンフレッチェ広島 2012年5月15日付》、サンフレッチェを再建した元社長“こやのん”こと小谷野薫の経営/前編「経営と強化のバランス、フロントの一体感が大切」《サッカーキング 2016年8月24日付》。
*4:サンフレッチェ広島 取締役3名選任のお知らせ《サンフレッチェ広島 2012年4月26日付》、サンフレッチェ広島 本谷祐一代表取締役社長の退任ならびに、小谷野 薫(こやの かおる)代表取締役社長就任のお知らせ《サンフレッチェ広島 2012年12月18日付》。
*5:『サンフレッチェ広島 公式Twitter、公式LINE@』開設のお知らせ《サンフレッチェ広島 2013年9月9日付》。
*6:第2回 輝く!Jリーグマスコット大賞 主演男優賞発表!《J’s GOALアーカイブ 2013年12月30日付》。
*7:【FUJI XEROX SUPER CUP 2014】Jリーグマスコット総選挙 結果発表!《J’s GOALアーカイブ 2014年2月22日付》。
*8:【第3回 輝く!Jリーグマスコット大賞】各賞の受賞者を発表!《J’s GOAL 2014年12月30日付》、第3回 輝く!Jリーグマスコット大賞 サンチェ(広島)大賞受賞コメント《J’s GOAL 2014年12月30日付》。
*9:2015年の結果 Jリーグマスコット総選挙《Jリーグ.jp 2018年1月24日閲覧》。
*10:広島にサッカースタジアム建設を要望する署名活動!!《広島県サッカー協会 2011年1月21日付》。
*11:スタジアム建設要望書提出に関する記者会見について!公益財団法人広島県サッカー協会・サンフレッチェ広島後援会! 《Friendly Sports 2012年8月1日付》。
*12:7月6日(日)『Jリーグ再開&スタジアム署名40万件突破トークイベント』千葉和彦選手・水本裕貴選手トークステージ追加決定のお知らせ《サンフレッチェ広島 2014年7月4日付》。
*13:「ひろしま夢スタジアム~スタジアムは、街づくり~」シンポジウムを開催しました。《サンフレッチェ広島 2013年5月26日付》、2月19日(水)『第4回 夢スタジアムシンポジウム』開催のお知らせ《サンフレッチェ広島 2014年2月18日付》、4月9日(水)『第5回 夢スタジアムシンポジウム』開催のお知らせ《サンフレッチェ広島 2014年4月2日付》。