第13回サポカン ~優勝効果という魔法が解けたとき~
先日開催された第13回サポーターズカンファレンス。
その日の朝に小谷野社長の広島市長選出馬が報じられ、驚きに包まれました。
一方で、社長職を退くという話はあの時点では出ていませんでした。
まさか小谷野社長にとって最後のサポーターズカンファレンスになるとは…。
次回、小谷野社長についての記事を書く予定です。
その前に、第13回サポカンを簡単に振り返っておきたいと思います。
今回のテーマは優勝効果。
いつもより数字とグラフが多くなっていますが、よろしくお付き合い下さい。
[Ⅰ]優勝効果とは何か
本稿において、優勝効果とは優勝による経営数値への影響を指すものとします。
第13回サポーターズカンファレンスで小谷野社長は次のように述べています。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第13回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
2014年度の当期利益の着地予想に関しては、一部インタビューでは5,000万円くらいの黒字と申し上げていましたが、お陰様でTV放映権料の配分やグッズの売り上げが予想以上に好調だったことや期中のコスト見直しも奏功したことなどから、2014年の当期利益見込みは9,000万円前後と、2012年度の2.2億円、2013年度の1.3億円に続く黒字になりそうです。
ただし、賞金の選手の手取り分や優勝記念グッズの粗利等を勘案すると、優勝効果を除いた当期利益はずっとトントンという状況には変わりはありません。
この優勝効果依存に対する懸念は小谷野社長が以前から指摘していた点でもあります。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
非常に幸運なことに、昨年度は2億円超の利益を出すことができました。今月発表になったJリーグ各クラブの経営状況の開示をみましても、Jクラブの中でも利益水準は一番大きい方でした。しかし利益の内容を分析すると優勝効果が非常に大きく、それを除くとやはり収支が均衡状態から脱していないも事実でございます。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第12回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
当期利益の水準ですが、今期(2014年1月期)は8千万円から1億円程度の当期利益を見込んでいます。昨年度の2.2億円からは減少しますが、2年連続の黒字が見込まれています。ただ、売上高の説明でお判りのように、本年度も昨年度同様に賞金と優勝記念グッズに支えられた部分が大きく、こうした優勝効果を除くと収支はほぼトントンという状況に変わりはありません。
優勝により経営数値が好転することは決して悪いことではありません。
しかし、優勝効果に依存しなければ安定した経営が望めないのならそれは本末転倒。
安定した経営から優勝という目標に近づくことこそが正道でしょう。
そこで、まずは優勝効果がどういう形で表れていたかを見てみることにします。
今回は経営数値中でも分かりやすく影響が出ている営業収益と営業費用に着目しました。
[Ⅱ]営業収益から見る優勝効果
まずは営業収益から見てみましょう。
Jクラブ個別経営情報開示資料の中で営業収益は広告料収入、入場料収入、Jリーグ配分金、アカデミー関連収入、その他の5区分に分けられています。
このうち、アカデミー関連収入は2011年度から設けられた表示科目です。
そのため、今回は比較のためにその他収益の中に組み込んでグラフ化しています。
営業収益は2012年度・2013年度ともに30億円を超え、歴代最高額となりました。
2014年度についても30.7億円と3年連続30億円を超えることが確実だといいます。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第13回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
結果として、2014年度の着地見込みの売上高は30.7億円で、2012年度の31.8億円、2013年度の32.0億円に続いて3年連続で30億円を越えられそうです。
優勝前の2011年と比較すると営業収益は約4~5億円増加した計算です。
入場料収入は2010年並みに回復している一方で、広告料は緩やかに減少傾向。
配分金はJ2時代の2008年度を除いて大きな変動はありません。
収益三本柱…広告料、入場料、配分金では営業収益の増加は説明できないのです。
回りくどくなってしまいましたが結論を述べておきましょう。
つまり、2012年・2013年の営業収益増加要因の大半はその他収益の増加にあります。
その他収益にはグッズ販売による収益やアカデミー収益などが含まれます。
さらに、財務諸表を見る限りではここにJリーグの賞金などが含まれているようです。
優勝効果が営業収益の数字に如実に表れた結果と言えるでしょう。
[Ⅲ]営業費用から見る優勝効果
次に営業費用を見てみましょう。
営業費用の内訳についてはチーム人件費とその他(販管費)で区分しました。
これもまた2011年度を境に財務諸表の表示方法が変わっているためです。
こうして並べてみると明らかですが、2012年度・2013年度は営業費用も大きく伸びました。
チーム人件費は2006年度の14億1400万円を更新(2013年度は14億4900万円)。
販管費も概ね13億円台だったものが2012年度は15億円台、2013年度は16億円台に。
人件費の増加は、現有戦力の維持、勝利ボーナスや賞金分配が原因だと推測できます。
販管費については、観客増による付随費用やグッズ製造等が影響しているでしょう。
これも優勝効果が表れた結果なのではないかと考えています。
[Ⅳ]優勝効果がもたらしたもの
さて、ここまで営業収益と営業費用から見る優勝効果を見てきました。
特に、営業収益における優勝効果は誰がどう見てもポジティブなものでしょう。
2012年に減資・増資を行ったサンフレッチェ広島。
経営再建5ヵ年計画で設定した目標を早々に達成できたのも優勝効果があってこそ。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
経営面に目を転じますと、昨年に減資・増資を実施した時に株主の皆さんに提示した『経営再建五カ年計画』のなかで、5年間で累計利益2億円を達成しましょうという目標を掲げました。非常に幸運なことに、昨年度は2億円超の利益を出すことができました。
2012年度の2億2300万円、2013年度の1億3000万円、そして2014年度の9000万円。
この合計は約4億4300万円となり、当初予定利益の2倍以上になります。
この結果、純資産も7億円を超えることが確実で、安定経営のための基盤が出来ました。
ちなみに純資産が7億円を超えるのは約20年ぶりになるようです*1。
一方、営業費用に目を転じたとき優勝効果はポジティブでしょうか、ネガティブでしょうか。
3つの理由から一概にネガティブと断じることは出来ません。
1つ目の理由は、現有戦力の維持という方針と好成績による影響だからです。
現有戦力の引き留めにはどうしてもコストがかかってしまうのは仕方がありません。
好成績を出しているのですから、勝利ボーナス等でも報いる必要があります。
2つ目の理由は、一般論としてチーム人件費の多寡は成績に比例するからです。
もちろん予算だけで成績が決まるものではないことは確かです。
一方で、すべてのクラブが適切に資金を配分することが出来たと仮定すれば、当然資金が潤沢なクラブの方が好成績を出すことは容易となってくるでしょう。
人件費についてJ1平均と比較してみたのが次のグラフです*2。
2012年度、ついにサンフレッチェ広島のチーム人件費がJ1平均を超えました。
少しずつではありますが、J1の平均レベルに肩を並べつつあります。
一方で、クラブが主張するように残留圏や優勝クラブと比較すると十分ではありません。
これを一定以上の水準で保つことが安定した成績を残すためには必要でしょう。
3つ目の理由は、2011年のシーズンオフが厳冬更改だったことです。
サンフレ経営再建へ 厳しい契約交渉 現有戦力は維持
《中国新聞 2011年12月30日12面》
例年とは趣の違う交渉となっている。クラブ側は、森保新監督を迎える来期以降のチームづくりの方針とともに、経営の現状や今後の再建策についても説明。織田秀和強化部長は「ここまで経営の話をした記憶がない」と言う。
今オフは年俸総枠の縮小が避けられないが、今季限りで退団するペトロヴィッチ監督や服部、ムジリらの年俸総額は推定で2億円超。高額年俸やベテラン選手は減俸となったほか、アップ幅も例年より抑えた。「大なたを振るわないといけない状況で、選手には申し訳ない」と織田強化部長。
一部の選手からは「プロである以上、活躍したら金額で評価してもらいたい」などと本音も聞かれた。それでもチームへの愛着や新体制への期待感から、積極的に移籍を模索する動きはほとんどなかった。1年契約を結んだ森崎浩司は交渉後、「純粋にこのチームでプレーしたい思いが強い」と話していた。
経営危機を盾に厳しい条件をのんでもらった選手はチームにまだ数多くいます。
そうした選手に対して大きな利益が出ている現状で年俸に反映しないわけにはいきません。
現有戦力の維持という観点からも、今後の契約交渉という観点からも。
以上の3点から営業費用の増加は一概にネガティブとは言えないのです。
[Ⅴ]優勝効果という魔法が解けるのは
優勝効果とは、優勝による経営数値への影響だと冒頭で述べました。
その影響を営業収益と営業費用という切り口で見てきました。
視点を変えると、優勝効果には短期的なものと長期的なものがあると考えることもできます。
大ざっぱに区分けするとすれば、次のような形でしょうか。
経営数値を見る限りでは短期的効果は明かに表れているようです。
これは前項までで見てきた内容と一致していますね。
一方で営業収益の長期的効果は今のところ数字には表れていません。
2014年度の広告料収入は伸びているようですが、小谷野社長は次のように述べています。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第13回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
2015年度の広告料収入はスポンサーからの優勝ボーナスやご祝儀受注が剥落しますので厳し目の年になると思います。2012年度の14.3億円と2013年度の13.9億円に対して2014年度は15.5億円の見込みですが、2015年度の予算は15億円をわずかに上回る程度と考えています。
これを長期的効果と言えるかどうかまだ保留といったところでしょうか。
対して、営業費用の長期的効果…選手の基本給高騰は既に進行しています。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第13回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
プロチームの編成上は選手・スタッフの基本給合計額が重要となりますが、この基本給の合計額は2012年度から2013年度にかけてはプラス5千万円、2014年度はプラス9,000万円とかなり積み上げてきています。チーム成績が上位を続ける中で選手の獲得以上に引き留めにも資金がかかります。今年は五輪予選等の年代別代表の招集も多く予想されますので、今年はACLがないとは言ってもチーム陣容を落とす訳にはいきません。2015年度の予算上の基本給合計額は、さらにプラス5,000万円程度を想定しています。
前述したとおり、チーム人件費の増加は一概に悪いわけではありません。
それが悪いかどうかを決めるのはその財政的裏付けが出来るかどうか。
すなわち、チーム人件費の増加に見合うだけの増収が可能かどうかとなります。
短期的なスパンでは営業費用に見合うだけの営業収益をあげることが出来ました。
長期的なスパンで営業費用が増加することは容易に予想できます。
優勝効果という魔法が解けるのはチーム人件費の増加に耐えうるだけの営業収益をあげることが出来ないと判断されたそのときなのでしょう。
[Ⅵ]おわりに=優勝効果という魔法が解けたとき
さて、現在のサンフレッチェ広島は拡大路線を歩んでいます。
2012年の経営再建計画が早々に達成され、2度の優勝を経験。
営業収益も営業費用も過去例を見ない水準を保っているからです。
この拡大路線を継続するか、軟着陸するかどうかは2015年度に懸かっています。
テーマ1 クラブについて(小谷野社長)
《第13回サポーターズカンファレンス議事録》
【経営面について】
コスト削減等を引き続き行っても当期利益2,000万円前後の際どい予算になろうかと思います。ここまでやってもおそらくJ1で10 位くらいの人件費に過ぎないのがつらいところですが、これで2015年度に黒字が達成できれば、クラブ財政としては相当に自信になると思います。
もし、2015年度にタイトルを獲得できればまた優勝効果は続くかもしれません。
しかし、それが叶わなかったとき、小谷野社長の述べた通りそれでも黒字をキープできれば、クラブにとっての身の丈が一段上がるのではないでしょうか。
私はそんな予感がしています。
一方で、優勝効果があったとしてもこのレベルが頭打ちなのだということも実感しました。
今年から2ステージ制になる傍ら、賞金方式も変更されることになっています。
従来の目標だった賞金圏内というのもかなり難しい戦いになることが予想されます。
Jリーグ「経済格差」拡大も 「共存」から「競争」へ、遂に舵切る「配分金」分配方法
《産経ニュース 2015年2月11日閲覧》
来季の賞金は年間優勝が1億円、各ステージ優勝が5000万円、年間勝ち点1~3位に8000万円、3000万円、2000万円を与える。クラブは最大で2億8000万円を得ることができ、今季までのJ1優勝賞金2億円を上回る。年間7位まで賞金を獲得した今季までとは大きく異なる。上位に食い込まないと賞金は手にできない方式になった。
優勝したにもかかわらず、長期的効果が数字に表れていないのはなぜか。
入場料収入が伸びないのはなぜか、広告料収入が一過性なのはなぜか。
そう考えるとお金を払ってでも見に行きたい、お金を払っても広告を出したい存在か。
そういう問題にどうしても行き着いてしまうのだと思います。
その改善にはクラブの不断の努力が欠かせません。
サポーターも友人を誘い、初めての人が来やすい雰囲気を作り上げることが必要でしょう。
ですが、おそらくこれは、それだけで埋めることは出来ない壁でもあると思っています。
ですが、最終的にはどうしてもスタジアム問題に行き着いてしまうのです。
観客を第一に考えたスタジアムであるか、スポンサーにとって有益なスタジアムであるか。
その思想に立ったスタジアムでないと出来ないことがあまりにも多い。
だからという「だけ」では決してありません。
それでも、「だからこそ」私はスタジアムを求めます。
優勝効果という魔法が解けても変わらずサンフレッチェがそこに在るために。
[Ⅶ]おまけ
スタジアムを作るのはサンフレッチェのためだけという意見をたまに目にします。
私はそれは正しいとは思いませんが、間違っているとも思いません。
サンフレッチェのためのスタジアムという視点は非常に重要です。
私企業ではありますが利益確保を目的とした企業ではなく、公共財に近いもの。
出来る限り自立して歩むことが出来るよう補助することは必要なことだと考えています。
しかし、サンフレッチェのため「だけ」ではない。
誰か「だけ」のスタジアムであっては駄目なのです。
みんなのスタジアムというように誤魔化すのではありません。
あの人にとってはこういうスタジアム、この人たちにとってはそういうスタジアム。
そんな多面性を持ったスタジアムであるといいと願っています。
それは多目的スタジアム、複合スタジアムであればいいということでもありません。
多くの人がスタジアムに対して様々な価値を見出して欲しいということです。
その先に多目的スタジアムや複合スタジアムのような形がある。
私はそういう風に考えています。
長くなってしまいましたので、第13回サポカンについては以上とさせてください。
本来であればもう少し落ち着いた形で書きたかったのですが。
小谷野社長の広島市長選出馬、そして社長を退任するというニュース。
これに併せて文章を書くとなると少し慌ただしいスケジュールになってしまいました。
次回は小谷野社長の退任に寄せてというタイトルを予定しています。
よろしくお願いします。