J1 1st第11節における岩下敬輔(G大阪)の行為について 前編
先日のガンバ大阪戦で岩下敬輔の行為が話題になっています。
その問題についてガンバ大阪から公式発表がありました。内容は下記の通り。
「明治安田生命J1リーグ 1stステージ第11節サンフレッチェ広島戦」における、岩下敬輔選手の行為についてのお詫び
《ガンバ大阪公式HP 2015年5月13日閲覧》
2015年5月10日(日)に行われました、「明治安田生命J1リーグ 1stステージ第11節サンフレッチェ広島戦」におきまして、弊クラブ所属、DF岩下敬輔選手が相手選手に対しプレーとは関係のない場面で、肩と肘をぶつけるという行為を行いました。これは、Jリーグが掲げるフェアプレーに大きく反する行為であり、岩下選手の行為は決して許されるものではありません。日頃Jリーグを応援していただいているファン・サポーターの皆様、Jリーグ・クラブをご支援いただいている関係各所の皆様に不快な思いをさせてしまったことを深くお詫び申し上げます。
本日、岩下選手は、公益社団法人 日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)規律委員会から直接、事情聴取を経て厳重注意を受けました。この処分をクラブ・本人ともに真摯に受け止め、クラブとしてもチーム規律に基づき厳重注意を行うとともに、フェアプレーの徹底に取り組むべく、チーム全体に対して再発防止に向けた指導・教育を行ってまいります。
ご迷惑をおかけした皆様には重ねてお詫び申し上げます。
処分が軽いという意見、審判に対する不満など色々な意見が散見されます。
私個人としても今回の件を有耶無耶にしたくはないので一度まとめてみることにしました。
なお、本稿において敬称は省略させて頂きます。
[Ⅰ]該当シーンの確認
問題シーンはNHKでは映らなかったらしいですが、スカパーではばっちり映っていました。
私は試合会場で観戦していたため、当時何が起きてるのか全く分かっていませんでしたが。
当事者である岩下敬輔(G大阪)と清水航平(広島)を中心に、画像を交えながら少し詳しく状況説明しておきましょう。
塩谷司(広島)がドリブルで持ち上がったところをリンス(G大阪)が倒してファール。
サンフレッチェ広島がFKを獲得します。
FKを蹴る前の位置関係。
岩下敬輔はおそらく左から4番目のG大阪の選手だと思われます。
清水航平は早いリスタートに準備していたのか、まだサイドにいました。
清水航平はセットプレーに参加するため中央へ移動。
岩下敬輔は清水航平の対応をするため、隣の選手に佐藤寿人(広島)をケアするよう指示。
セットプレー直前の位置関係。
なお、この位置どりの際に清水航平が岩下敬輔と接触があったようにも見えます。
そして、FKを蹴る直前に清水航平と岩下敬輔が体をぶつけているのが確認できます。
岩下敬輔からすれば進行方向の妨害にも見えますが、身体のバランスを大きく崩したわけでもないので視野の内での出来事だったのではないかと想像していますが。
FKを柴崎晃誠(広島)がずらして野津田岳人(広島)がシュートしましたが枠を外れます。
ゴールキックになったため各選手がポジションに戻ろうとします。
清水航平は持ち場が右サイドであったため、その方向へ帰ろうとしました。
清水航平は顔を押さえて倒れ込みます。
ここで扇谷主審が笛を吹き事態を確認しました。
映像で見るとイヤホンに手を当てています。
また、副審の方を向いているので副審に事情を確認したと考えるべきでしょう。
[Ⅱ]岩下敬輔の行為と主審の判定
岩下敬輔が清水航平に対して故意に接触したという点に異論はあまりないでしょう。
清水航平が横切るタイミングで腕を振っているように見えますから。
接触部位に関してははっきりとは分かりませんが、顔もしくは胸部、腹部。
ゴール裏からの映像では右肩もしくは右腕、右手をぶつけているように見えます。
サッカー競技規則に照らし合わせれば「乱暴な行為」に相当すると考えるのが妥当でしょう。
《サッカー競技規則 39ページ》
退場となる反則競技者、交代要員または交代して退いた競技者は、次の 7 項目の反則のいずれかを犯した場合、退場を命じられる。●乱暴な行為
《競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン 127ページ》
乱暴な行為競技者がボールに挑んでいないとき、相手競技者に対して過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、乱暴な行為を犯したことになる。また、味方競技者、観客、審判員あるいはその他の者に対して過剰な力や粗暴な行為を加えた場合、乱暴な行為を犯したことになる。乱暴な行為は、ボールがインプレーであるとないとにかかわらず、フィールド内またはフィールドの境界線の外側のいずれでも起こり得る。明らかに決定的な得点の機会が続く場合を除き、乱暴な行為が犯されている状況ではアドバンテージを適用すべきでない。アドバンテージを適用した場合、主審は次にボールがアウトオブプレーになったとき、乱暴な行為を犯した競技者に退場を命じなければならない。審判員は、しばしば乱暴な行為が集団的な騒動を引き起こすことに留意し、積極的に介入して、それが引き起こされないようにしなければならない。乱暴な行為を行った競技者、交代要員、交代して退いた競技者には、退場が命じられなければならない。
余談ですが、競技規則には警告・退場の対象に「報復行為」という項目はないんですね。
他の事例では「報復行為」ではなく「乱暴な行為」として処分されているようです。
このシーンで清水航平の挑発があったという主張も見かけました(たぶん接触前のシーン)。
そうであっても「乱暴な行為」には変わりがないのでやはり退場処分が適当でしょう。
しかし、実際には主審及び副審は退場処分にしていません。
これはあくまでも推測ですが、審判団は該当シーンを見ていなかったのではないでしょうか。
扇谷主審はボールの付近にポジションを取っていました(当たり前です)。
そしてボールの行方を確認した後、副審の方を見ているように見えます。
きちんとラインを割ったかを確認したのではないでしょうか。
角度的にも扇谷主審は岩下敬輔と清水航平の方は見れないでしょう。
常識的に考えたら「乱暴な行為」が行われるはずのないシーンですから仕方ありません。
このシーンで主審が責められるのはやはり酷というものでしょう。
22人全員のエリアを同時に90分間監視することなんて出来るはずがないんですから。
そんなことやってたらゲームなんて出来ませんよね。
では副審は見ることが出来なかったのか。
先程の画像にも映っていますが副審はまずオフサイドのチェックをしていました。
そして、ボールがラインを割ったかの確認のためゴールラインまで走っています。
この状況で副審が確認するのもまた難しいのではないでしょうか。
では第4審はどうかというと、言うまでもなく遠すぎて無理でしょう。
扇谷主審はすぐに副審や選手に事態の確認をしているようでした。
また、後日Jリーグ規律委員会で審査されたことからも審判団が見れていなかったのでは。
この推測は外れてないと思います。
審判団が岩下敬輔の行為をチェックするのは難しかった。
というのが私の結論ですが、ではなんの処分もなくていいのでしょうか。
画像マシマシで長くなったので2回に分けます。次回は試合後のお話。
※追記(2015年5月14日)
岩下敬輔の行為が「乱暴な行為」と判断する説明が弱かったと感じたので補足。
次回の説明にもありますが、今回の岩下敬輔の行為はJリーグ規律委員会の懲罰対象となっているため、まず間違いなく警告相当か退場相当の行為であるはずです。
その上で、サッカー競技規則から警告となる反則と退場となる反則を確認してみます。
サッカー競技規則において、警告となる反則とは次の7項目を意味します。
《サッカー競技規則 38ページ》
警告となる反則競技者は、次の 7 項目の反則のいずれかを犯した場合、警告され、イエローカードを示される。
●反スポーツ的行為●言葉または行動による異議●繰り返し競技規則に違反する●プレーの再開を遅らせる●主審の承認を得ず、フィールドに入る、または復帰する●主審の承認を得ず、意図的にフィールドから離れる
この中で該当しそうなのは「反スポーツ的行為」だけでしょう。
そしてこの「反スポーツ的行為」について、競技規則の解釈と審判員のためのガイドラインでいくつか例示がしてありますが、該当しそうなのは「直接フリーキックとなる 7 項目の反則を無謀に行う」くらいです。
じゃあ直接フリーキックとなる7項目の反則なのかというと…違います。
なぜかというとファウルとなる反則には基本要件が存在するからです。
《競技規則の解釈と審判員のためのガイドライン 117ページ》
ファウルとなるための基本的条件反則をファウルとして判断するためには、次の条件が満たされなければならない。
●競技者によって犯される●フィールド内で起きる●ボールがインプレー中に起きる
困ったことに岩下敬輔の行為はアウトオブプレー中。
インプレー中なのでこの反則には該当しないということになります。
なお、同じ理由で退場となる反則である「著しく不正なファウルプレー」も除外されます。
一方、「乱暴な行為」はインプレーに限定していません。
したがって岩下敬輔の行為は「乱暴な行為」であり、退場相当であると考えられます。
追記終わり