la vie en violette

サンフレッチェとサッカーに染まった日々

第16回サポカン ~エディオンスタジアム広島に洋式トイレがやってきました~

[Ⅰ]はじめに

毎年サポーターズカンファレンスから着想を得て書き殴る本企画。
前年に続いて今年もなかなか筆が乗りませんでした。

そうこうしているうちにJリーグクラブライセンスの判定が公表される時期に。


www.jleague.jp


この内容を解説したいなと思っていたのですが、これってサポカンと繋がるじゃないかと。
そこでサポカンのシリーズにこじつけてクラブライセンスの解説をしたいと思います。

なお、クラブライセンス制度を解説するのは大変なので、以前作成した解説をご覧下さい。
本稿は当該解説がある程度頭に入った状態であることを前提に進めていきます。


awayisum.hateblo.jp


本制度は昨年12月に改正されていますのでその解説はまた書きます(たぶん)。
ただ、そこまで大きな変化はないようなので基本的にこの解説で十分だとは思いますが。

それではサンフレッチェ広島のライセンスを中心に見ていきたいと思います。



[Ⅱ]サンフレッチェ広島のライセンスについて

サンフレッチェ広島は2019シーズンJ1クラブライセンスを取得することができました。
成績基準は既に満たしていますので来シーズンもJ1で戦うことができます。

他方で、今年もB等級基準未充足であるとして制裁が科されました。

クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2019シーズン Jリーグクラブライセンス判定について
《Jリーグ.jp 2018年9月27日付》


制裁対象
屋根のカバー率の不足のみ(17クラブ)


スタジアムとクラブ

エディオンスタジアム広島【広島】


制裁内容
・対象スタジアム名公表
・屋根のカバー率不足への改善策もしくは構想の提出[期限:2018年11月末]


クラブライセンス制度がスタートしてから変わらず毎年制裁対象です。
ただし、制裁対象が今年から変わっていることに気付かれたでしょうか。

クラブライセンス交付第一審機関(FIB)決定による 2018シーズン Jリーグクラブライセンス判定について
《Jリーグ.jp 2017年9月26日付》


制裁対象
トイレの数と屋根のカバー率がいずれも不足(5クラブ)


スタジアムとクラブ
エディオンスタジアム広島【広島】


制裁内容
・対象スタジアム名公表
・スタジアム環境の抜本的な改善に向けた以下の計画および報告の提出
 ① 2017年7月から2017年12月までの活動報告[期限:2017年12月末]
 ② 2018年活動計画[期限:2017年12月末]
 ③ 2018年1月から2018年6月までの活動報告[期限:2018年6月末]
・活動報告および活動計画に関連し、クラブライセンス事務局が個別文書を発信する可能性あり


このようにトイレの数は要件を満たしたため制裁対象から外れました。
この点について第16回サポカンで次のように説明されていました。

テーマ3 試合運営について(運営部長 山西博文)
《第16回サポーターズ・カンファレンス議事録》


〈3.エディオンスタジアム広島の施設改善について〉


Jリーグのスタジアム検査基準を満たしていない洋式トイレ、観客数の個席数について、広島市に改善を進めていただいております。


トイレの洋式化工事の着工は平成30年度を予定しており、工期は10カ月と想定されています。和式トイレ144室が洋式トイレ144室に改修されます。ちなみに、「観客1000人につき、少なくとも5室」としているJリーグの基準からすると、144室は2万8800のお客様に対応できる規模ということです。


このように、和式トイレ144室が洋式トイレ144室に改修されると発表していたのです。
それでは何故このような措置が必要になったのか引き続き解説していきましょう。

[Ⅲ]I.12 スタジアム:衛生施設 (トイレ要件)

そもそもトイレに関する要件はどういったものかというと次の通り。

交付規則 I.12 スタジアム:衛生施設(B等級


(1) スタンドには、どの席からもアクセス可能な場所に、男女別のトイレ設備を十分に備え、かつ、車椅子席の近くには、多目的トイレを備えなければならない。


(2) トイレは、明るく、清潔で、衛生的でなければならず、試合中もその状態を保たなければならない。


(3) スタジアムは、1,000名の観客に対し、少なくとも洋式トイレ5台、男性用小便器8台を備えなければならない。

交付規則 I.12 スタジアム:衛生施設(C等級


(4) 前項にかかわらず、Jリーグでは、1,000名の男性観客に対し、少なくとも洋式トイレ3室、男性用小便器15台および洗面台6台、また、1,000名の女性観客に対し、少なくとも洋式トイレ28室、洗面台14台を備え、5,000人の観客に対して多目的トイレ1室を備えることが望ましい。


したがってB等級基準を満たすためには5台/1000人の洋式トイレが必要です*1
現在、エディオンスタジアム広島の入場可能数は36,894人とされています*2

ということは185台の洋式トイレが必要になる…かというとそうではありません。

運用細則 I.12 スタジアム:衛生施設(B等級/C等級


3.判定


(2)前項に関わらず、基準I.12(3)においては、以下のとおり例外を設ける。


①審査対象であるスタジアムの客席数の60%(小数点以下を切り上げる)を母数とし、この母数が男女比同数から構成されているものとして、洋式トイレおよび男性用小便器の数を計算する(母数が奇数の場合は、余った1名を男女いずれかに任意に寄せるものとする)
②前号による計算の結果、基準I.12(3)または(4)の基準を充足することとなる場合には、当該基準の未充足に対する制裁は科さないものとする


この通称「60%ルール」が存在しますので必要な洋式トイレの数は111台*3
実際、サンフレッチェ広島が制裁を回避したのは60%ルールがあったからだそうです。

Jクラブスタジアム9か所でトイレの洋式化が進む
《ゲキサカ 2018年9月27日付》


デンカビッグスワンスタジアム京都市西京極総合運動公園陸上競技場兼球技場はこれでトイレの数の基準を100%充足することになった。またエディオンスタジアム広島は「満員」から「60%入場」を母数として判定した場合に基準を充足していれば制裁免除となる、通称『60%ルール』が適用されることになった。


余談ですが、エディオンスタジアム広島の収容人員は50,000人とされています*4
実際に2012年頃までJリーグのホームページでもそう示されていました*5

しかし、サッカースタジアム検討協議会での質問からクラブは入場可能数を厳密に調査。
その結果、入場可能数は約3万6千人であることが示されました。

第2回サッカースタジアム検討協議会議事録
広島市 2013年7月11日開催分 17頁》


小谷野委員
それでですね,前回の会合で,だいたい正味どれだけエディオンスタジアムに入るのかというので,42700人くらいで,安全上の観点から,去年の優勝決定試合で34500人で止めたと私発言しましたが,もう一度数を数えましたら,結構,見えない見切り席がありまして,そこの部分は実際は5900席もあったということで,現在のスタジアムの収容人数というのは36770人ということでございます。なので,ギリギリ詰こんで42700人と私申し上げましたが,その後,運営などと,もう一度確認したところ,実際そんなに入らなかったということでございます。


その後、Jリーグのホームページでもこの入場可能数が使用されるようになりました*6

わざわざ変更した背景にはクラブライセンスのトイレ要件が絡んでいたのかもしれませんね。
5万人だと60%基準を適用したとしても洋式トイレが150台必要ですから。

[Ⅳ]エディオンスタジアム広島のトイレ改修

さて、昨年まではB等級未充足とされていたエディオンスタジアム広島
実際に洋式トイレはいくつあったのかというと、2013年のプレスリリースが参考になります。

2014シーズン クラブライセンス交付のお知らせ
サンフレッチェ広島 2013年9月30日付》


第2.決定理由
1.貴クラブは、クラブライセンス交付規則(以下「本交付規則」という。)第8章から第12章に定める各ライセンス基準のうちJ1に関するものであってA等級のものを全て充足していることから、当機関は、本交付規則第22条2項に基づき、貴クラブに対して、2014シーズンに関するJ1クラブライセンスを付与するものとします。


2.貴クラブは、本交付規則第34条2項に定める施設基準のうち、①I.12(3)については、貴クラブから提出された「ホームスタジアム検査表」(以下「検査表」という。)によれば、1,000名の観客に対し、洋式トイレは約0.8台であることから、5台以上備えていないと認められ、また、②I.13(1)については、検査表によれば、スタジアムの観客席は36,782席であるところ、屋根で覆われている座席は1,774席であることから、屋根が観客席の3分の1以上を覆っていないと認められ、いずれの基準も充足しておりません。


したがって、当機関は、本交付規則第15条および第8条1項に基づき、貴クラブに対して、上記第1の2記載の制裁を科することを相当と認めます。


このように、1000人あたり0.8台ほど洋式トイレが設置されていたことが分かります。
すなわち、36,782席で換算すると洋式トイレの数は29台だったのではないでしょうか。

必要な洋式トイレの数は111台ですから、最低でも82台増やすことが求められていました。
そこで広島市は平成29年度当初予算でトイレ改修を含んだ広域公園整備予算を計上。

平成29年度広島市当初予算の概要
広島市 2017年2月公表 117頁》


事業名
公園緑地等整備


説明
広島広域公園整備 7,210万円


 陸上競技場走路及び水濠の改修 1,660万円


 陸上競技場トイレ改修 200万円
  和式トイレを洋式トイレに改修する。
  (スケジュール)
   29年度 実施設計
   30年度 改修工事


 陸上競技場メインスタンド改修 250万円
  メインスタンドのベンチ席の一部を個席に改修する。
  (スケジュール)
   29年度 実施設計
   30・31年度  改修工事


 テニスコート改修 5,100万円
  基層打替工事 3面


さらに平成30年度当初予算でもトイレ改修を含んだ広域公園整備予算を計上しました。

平成30年度広島市当初予算の概要
広島市 2018年2月公表 119頁》


事業名
公園緑地等整備


説明
広島広域公園整備 3億2,990万円


 テニスコート改修 2,880万円
  基層打替工事 4面


 テニスコートトイレ洋式化 720万円


 陸上競技場メインスタンド改修 7,960万円
  メインスタンド個席の老朽更新及びベンチ席の個席化


 陸上競技場トイレ洋式化 4,910万円


 第二球技場人工芝張替え 1億6,520万円


この予算化を受けてエディオンスタジアム3階に洋式トイレが36台追加されました。



これでエディオンスタジアムの洋式トイレは65台。
目標の111台には遠く及びませんが、B等級基準未充足による制裁は科されていません。


運用細則 I.12 スタジアム:衛生施設(B等級/C等級


3.判定


(3) 前項に関わらず、審査対象であるスタジアムの改修着工または新しいスタジアムの建設着工が確定し、工事の完了によって基準 I.12(3)を充足する目途が立っている場合には、当該基準の未充足に対する制裁は科さないものとする。


その根拠は上記の通り*7
要するにエディオンスタジアムはまだB等級基準を充足していないが制裁もないということ。

エディオンスタジアム、トイレ洋式化改修
《フガドコ 2018年5月24日付》


今回の工事の入札予定価は1371万円、今回の改修台数は36台ですので1台あたりですと約38万円です。今年度トイレ改修に計上された予算は4910万円、今回の入札と同様に計算すると約130台が洋式されることになります。


ここでは約130室と予想していますが、第16回サポカンによると144室整備される模様*8
もしかしたら第2期工事は数が多いので多少なりともコストダウンできるのかもしれません。

とにかく工事全体が完了して初めてエディオンスタジアムがB等級基準を充足するのです。
もちろん屋根の基準は未だ充足できる目途はありませんが。



[Ⅳ]おわりに

ここまで2019シーズンライセンスの交付について解説を加えてきました。
トイレ要件の話だけでこれだけ長くなるのですからクラブライセンス制度は奥が深い。

本当なら町田ゼルビア水戸ホーリーホックのライセンスの話もしたかったのですが断念。
前者は大企業の力を借り、後者は粘り強い交渉でハードルを越えようとしています*9
形式的な基準により努力が報われないのはとても哀しいので頑張って頂きたい。


一方、クラブライセンス制度の施設基準で示されているスタジアム要件は快適なサッカー観戦と持続可能なクラブを作っていくためには必要な要件だと思っています。

もちろんもっと柔軟な運用をした方がいいと思う点は多々あります。
しかし、原理原則としてはその水準を上回ることが望ましいのもまた事実です。


例えば、キャパシティも指針を示さなければ小さな箱しか整備されないことでしょう。
代替施設があればいいですが、そもそもスタジアムの数が足りていない日本社会。
必要なときになってから議論を始めていたら10年はかかります(広島がいい例です)。
もちろん1万5千人や1万人という数字が適切かどうかは別の話ですが。


今回取り上げた洋式トイレ然り屋根然り。
スタジアムを利用する人のことを考えれば整備されて然るべきものでしょう。
サッカーに限らず陸上競技・コンサート等のイベントであっても重要なポイントのはず。

その当たり前のことを当たり前だとしっかり主張していくべきだと思います。



*1:後述するが男性用小便器の数はクリアしている模様。2014シーズン クラブライセンス交付のお知らせサンフレッチェ広島 2013年9月30日付》。

*2:これも後述するが、2014シーズンライセンス判定時点では36,782席とされていた。2014シーズン クラブライセンス交付のお知らせサンフレッチェ広島 2013年9月30日付》、サンフレッチェ広島の試合日程・結果《Jリーグ.jp 2018年10月1日閲覧》。

*3:なお、36,782席で計算しても111台必要。2014シーズン クラブライセンス交付のお知らせサンフレッチェ広島 2013年9月30日付》、制裁免除のスタジアムが続出…Jクラブを救う「トイレ60%ルール」とは?サッカーキング 2015年10月1日付》。

*4:各施設詳細 | 広島広域公園(エディオンスタジアム広島)広島市スポーツ協会 2018年10月1日閲覧》。

*5:スタジアムガイド:広島ビッグアーチ《Jリーグ公式サイト(Internet Archive) 2012年9月19日魚拓》。

*6:サンフレッチェ広島の試合日程・結果《Jリーグ.jp 2018年10月1日閲覧》。

*7:ただし、運用細則I.12-3-(2)の規定と運用細則I.12-3-(3)の規定を同時適用できるかは微妙。だがゲキサカの報じた内容が正しいとすれば、どう考えても両方を同時適用している。いずれにしても細かい話なので揉めることはないだろうが。Jクラブスタジアム9か所でトイレの洋式化が進む《ゲキサカ 2018年9月27日付》。

*8:テーマ3 試合運営について(運営部長 山西博文)《第16回サポーターズ・カンファレンス議事録》。

*9:J1ライセンス取得に向けたクラブの体制強化についてFC町田ゼルビア オフィシャルサイト 2018年10月1日付》、2019シーズンに関するJ1クラブライセンス交付について水戸ホーリーホック公式ウェブサイト》。