2ステージ制・チャンピオンシップ制 2015年小括(前編)
2015年シーズンもようやく終わり、ほっと一息ついているところです。
我らがサンフレッチェ広島は年間勝ち点1位を獲得し、CSでも勝利。
無事に3度目となる年間優勝の誉れを得ることが叶いました。
さて、2012年、2013年と連覇したときはなかった2ステージ制という大会方式。
この新制度について良い効果もあれば悪い影響もありました。
それを忘れないためにも簡単に小括しておこうという趣旨で書きあげました。
少し長くなったので前編と後編に分割しました。
話の流れとしては、前編で新レギュレーションの評価方法と評価。
後編で残りの評価項目とチャンピオンシップ制の問題点、そして2016年の大会方式について。
当たり障りのないタイトルとなっていますが、お付き合いいただければ幸いです。
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[Ⅰ]2ステージ制再導入の経緯
2ステージ制が導入された経緯は拙ブログにて以前書きました。
興味のある方は、導入決定直後の記事なので粗く、チャンピオンシップ制の輪郭はまだ見えてない時期の記事だと言うことを差し引いて読んでいただければと思います。
この文中でも触れていますが、2ステージ制再導入のキッカケとなった問題がありました*1。
謎に包まれていた2ステージ制復活の意図 成長シナリオを描くために必要な決断
《スポーツナビ 2013年9月18日付》
Jリーグ戦略会議が認識した3つの問題点
――当初、アンタッチャブルだったはずのレギュレーションに、なぜ手を付けざるを得なくなったのか。われわれが知りたいのは、まさにそこの部分なのですが
その前提として、戦略会議が認識している現状の問題点について、お話したいと思います。大きく3つありました。1つ目は、日本代表とJリーグのサイクルがアンバランスになり、パラドックス化しているということ。2つ目は、一般の人々の視線がなかなかJリーグに向かっていかないこと。3つ目は、未来への投資原資が枯渇しつつあるということ。
このように、代表との関係、関心度低下、収入減が導入に踏み切った原因とされています。
そこで、上記のポイントを中心に2ステージ制・チャンピオンシップ制を見ていきましょう。
[Ⅱ]2ステージ・チャンピオンシップ制導入の影響(集客編)
今回、関心度を測る指標として集客数と視聴率に注目しました。
まずはマクロ的に2015年の集客に変化があったかを確認していきましょう。
先日、Jリーグは2015年シーズンの入場者数が900万人を突破したと発表しました。
ここ10年間の観客数の推移は次のような感じです。
2014年と比較すると、J1・J2。J3全てのリーグで増加傾向にあるようです。
節別に4年間比較すると次のようになりました*2。
このように、1stステージ最終節の第17節が過去4年間で最も大きい数字*3。
2ステージ制の影響があったことを示すのでしょうか。
そこで、J1の増加要因は一体どこにあったのかクラブ別に見てみました*4
このように圧倒的な存在感を示しているのが川崎フロンターレ。
その増加要因がホーム・等々力陸上競技場の改修にあることに異論はないでしょう*5。
また、FC東京と浦和もホームの集客数が大きく伸びています。
それらと比較すると伸び幅は小さいですが、広島とG大阪も増加しています。
一方、最終節まで2ndステージ優勝の可能性のあった鹿島は監督交代の影響かマイナスでした。
好成績のクラブの観客数が伸びるのは当たり前のこと。
これだけでは2ステージ制のおかげで集客が伸びたということはできません。
<2015年シーズンのJリーグの観客数について>
- J1・J2・J3の全てのリーグにおいて観客数は前年比で増えた
- 1stステージ開幕戦、1stステージ最終節、2ndステージ最終節は過去6年で最高
- J1観客数の最大の増加要因は川崎フロンターレのスタジアム改修
- チャンピオンシップ進出3チームの観客数は増えている
- 年間4位のFC東京は大幅増だが、2ndステージ2位の鹿島はマイナス
マクロ的な分析はこのくらいにしておきます。興味のある方は他の方々の分析をご覧下さい。
【J1&J2&J3全52クラブ/1試合平均観客動員・増減ランキング】J1リーグは「1ステージ制の14年」に比べ、「2ステージ制の15年」が上回る | サッカーダイジェストWeb
ではミクロ的に2ステージ制再導入の影響はあったのでしょうか。
1stステージで最後まで優勝の可能性があったのは浦和とG大阪でした*6。
浦和がステージ優勝を決めたのが1stステージ第16節。
浦和はアウェイ神戸に乗り込んで、G大阪はホーム仙台戦を戦いました。
浦和の試合で神戸は18,143人を集客。これは前年と比較して5割の増加です*7。
また、2年連続して対浦和戦の観客数が減少していたことを考えると2ステージ制導入の影響があったという指摘も可能です*8。
一方、G大阪は14,616人。年間平均、過去の対戦成績のどちらと比較しても減少でした。
G大阪はACLなど過密日程を戦っており、1試合あたり平均が下がったと考えるのが自然です。
連戦に次ぐ連戦で大一番という感覚を作り出すことができなかったのでしょう。
続いて2ndステージを見ていきます。
2ndステージ優勝は広島でしたが、最後まで可能性があったのは鹿島。
年間勝ち点1位を目指していた広島は2ステージ制を測る指標として相応しくないので除外。
したがって鹿島アントラーズのデータを見ていきたいと思います。
鹿島はホーム最終戦を名古屋と戦い、25,151人を集客。
一見、年間平均や名古屋との対戦成績を見ると多いようにも思えます*9。
しかし、ホーム最終戦の勝率が圧倒的な鹿島は2013年、2014年と最終戦は2万5千人を集客*10。
2015年最終節が特別な数字だったというわけではないようです。
<2ステージ制が集客に与えた影響について>
- 2ステージ制の影響は顕著には現れなかった
- 1stステージ第16節の神戸・浦和戦は影響があった可能性がある
最後にチャンピオンシップ制導入の影響を見てみます。
今年開催されたのは全3試合の集客と各チームのリーグ平均を比較してみました。
このように、CSの集客は3クラブ全てでリーグ戦平均を上回りました。
ただし、広島は観客数が大きく伸びている一方で、G大阪と浦和は微増。
また、リーグ最終戦の集客数はG大阪18,219人、浦和52,133人となっています*11。
G大阪と浦和は大一番という割に観客が集まらなかったとみるべきでしょう。
<チャンピオンシップ制が集客に与えた影響について>
- 3チーム全て年間平均よりも多く集客した
- 一方、G大阪と浦和はリーグ戦最終節と比較するとマイナス
[Ⅲ]2ステージ・チャンピオンシップ制導入の影響(視聴率編)
ポストシーズンにCSとCWC(と天皇杯)が開催された2015年。
久しぶりにゴールデンタイム地上波放送があったため視聴率に注目が集まりました。
まずは平均視聴率を見てみますと次のとおり。
とにかく広島地区の視聴率の高さが光ります。
CS準決勝だけ特筆して低いのは他の試合と時間帯が違うことが最大の理由でしょう*12。
広島地区のみ瞬間最高視聴率のソースがあったため、それもまとめてみました。
CS決勝第2戦、及びリーベルプレートとのCWC準決勝は圧倒的な数字。
広島地区に限定すれば「興味を持ってもらう」という目的は達成されたようです。
<チャンピオンシップとCWCの視聴率について>
- 全国区の平均視聴率はまずまず
- 最高でも平均でも広島地区だけ異常な数字をたたき出している
次に、全国のサッカーに対する関心度を知るため参考までに以下のグラフを作成しました。
これはビデオリサーチ社が毎週公開している「週間高世帯視聴率番組10」の中のスポーツ部門を競技別・番組種別に集計したものです。
2010年~2015年の間でもっとも番組数が多いのはスポーツ情報番組*13。
次に多いのが野球番組*14。そしてサッカー番組と続いています。
サッカー番組はスポーツという枠の中でかなり大きな地位を占めていると言えるでしょう。
ではそのサッカー番組の内訳はどうなっているのでしょうか。
このように、男子代表と4年に一度のW杯が大きな割合を占めていることが分かります。
女子代表も2011年のW杯優勝から露出が増えてきたようです。
Jリーグ関連番組は非常に少なく、サッカー番組の数に比して露出の少なさが目立ちます。
2015年は過去2年と比較して番組数が増えているようにも見えますが、これはCWCが日本で開催されたことが最大の要因でした。
ちなみに2010年は日本開催ではなく、2011年・2012年は日本開催。
ここ数年のJリーグ関連番組はCWCによって成りたっていると言っていいでしょう。
残念ながら2ステージ制やチャンピオンシップ制は目に見える変化を起こせていません。
また、気がかりなのがJリーグも取り扱うやべっちFCが急激に数を減らしていること。
他の項目と同じく、決して1年で結論を出せるものではありません。
しかし、メディア戦略を推し進めなくてはマズい状況にあることは言えそうです。
<サッカー番組の番組数について>
以上、ここまで関心度について分析してきました。
広島の集客数及び視聴率は異常な数字で、参考になるのかちょっと微妙。
ただ、「Jリーグは地方のキラーコンテンツ」という事実はよく伝わるのではないでしょうか。
広島を除くと2ステージ制・チャンピオンシップ制の影響は微妙。
決して悪化してはいないと思いますが好転してると断言できるほどの数字はありません。
(スポートピア)2ステージ制、検証重ねる
《日本経済新聞 2015年6月30日付》
自分たちがよかれと思うことを押し通すのは良くないが、右往左往するのも良くない。一度、決めたことは成功させるために信念を持って進めなければならない。
ただし、CSの方式などにわかりにくいと思われる部分があるのでマイナーチェンジはするかもしれない。検証を重ねながら複数年、続けていって、大会方式のあるべき姿を定めることになると思う。
1年で結論を出すのではなく今後も注視していきたいと思います。
次回は残っている代表との関係と収入評価。そして明るみになった問題点について。
最後に2016年シーズンのレギュレーションに簡単に触れて総括に入ります。
お付き合い頂ければ幸いです。
*1:当時、中西大介競技・事業統括本部長がインタビューに答えた記事としてJリーグはなぜいま改革を進めるのか ~中西大介 Jリーグ競技・事務統括本部長に話を聞く《BLOGOLA 2013年9月11日付》、[緊急インタビュー]Jリーグ、2ステージ制導入の真意を問う 中西大介(Jリーグ競技・事業本部長インタビュー)《サッカーキング 2013年9月16日付》、Jの2ステージ制問題をキーマンに聞く! Jリーグ中西大介競技・事業統括本部長インタビュー《THE PAGE 2013年10月15日付》、【キーマン・中西大介氏インタビュー】混迷のJリーグ改革案。2ステージ制から1ステージ制へ戻す可能性はあるのか?《フットボールチャンネル 2013年11月11日付》など。日経新聞による2015年開幕前の分析記事として、J1、閉塞感打破へ2ステージ制復活(真相深層)《日本経済新聞 2015年3月7日付》。
*2:4年間である理由は5年以上にするとグラフが読みづらくなるという理由から。
*3:論点から外れるが、開幕戦と最終節も過去6年で最高だったという事実はもっと評価されていい。
*4:ちなみにJ2は昇格を決めた福岡の集客増とセレッソ大阪が降格したことで昇降格組のアウェイ観客数が増加したことが最大の要因。J3は純粋に試合数が36試合増えた。
*5:スタジアム改修の概要については、スタジアム改築トップ《川崎フロンターレHP》、改・等々力競技場 収容人員増・利用料金値上げ《神奈川新聞HP 2014年11月15日付》など。等々力陸上の改修と観客数増加の関係について触れた記事として、今季の等々力の総観客動員数が増加した意味を、中村憲剛選手に聞いてみた話。《いしかわごう公式ブログ「DETERMINATION!」 2015年11月25日付》。
*6:ACL出場の関係でG大阪の試合が振替で少なくなっていたため。1stステージの最終順位はF東京が2位、広島が3位、G大阪が4位。
*7:なお、神戸の年間平均集客数は16,265人なので、これよりも多い
*8:ただし、神戸がJ1に昇格した2007年以降の8試合のうち4試合で2万人近く入っていることからどこまで精度が高いかは分からない。
*9:年間平均は16,422人。名古屋との試合の平均集客数は過去6年で約1万9千人。
*10:2012年の柏戦は19,141人。それより前は2007年の優勝まで遡る。
*11:広島は33,210人を集客した。
*12:他の2試合は19時30分KO。準決勝のみ14時KO。