2ステージ制・チャンピオンシップ制 2015年小括(後編)
前回の続き。
[Ⅳ]2ステージ・チャンピオンシップ制導入の影響(代表編)
まず最初のポイントとして代表とのサイクルについて見ていきたいと思います。
しかし、代表とのサイクルは数値的に表すことが非常に困難な指標です。
2015年において、Jリーグと代表のサイクルに関する代表例は元FC東京の武藤嘉紀でしょう。
2014年シーズンからJリーグで結果を出し、日本代表に定着。
2015年5月にブンデスリーガのマインツに完全移籍することになりました*1。
そんな武藤の所属していたFC東京の集客数推移は次のとおり。
武藤の移籍発表後に開催されたホームゲームは1stステージ第17節・清水エスパルス戦のみ。
この時点で浦和がステージ優勝を決めているため2ステージ制の影響は無視して良さそうです。
この日、FC東京は41,363人を集客したのですが、これは2015年シーズン中3番目の数字*2。
近年の清水エスパルスとの対戦では平均2万5千人の集客だったことからも武藤嘉紀の移籍が大きな影響を及ぼしているのはまず間違いないでしょう。
一方、武藤移籍前の1stステージの平均集客数は約3万1千人。
移籍後の2ndステージは約2万7千人と大幅に減少しています。
武藤が代表に定着したことで移籍前の試合は大入りでしたが、移籍後はガクッと減る。
これがJリーグと代表のパラドックス化の一例だと言えるでしょう。
また、オフシーズンの話題ですが、代表に定着している山口蛍がブンデスリーガに移籍*3。
逆に、元代表の柿谷曜一朗が結果を出せずスイス・バーゼルからC大阪に帰還しました*4。
これらを見ると2015年シーズンはパラドックスが顕著に表れたようにも思えます。
しかし、前述したようにJリーグと代表のパラドックスは分析するのが非常に難しい項目です。
代表の試合で活躍した選手がJリーグにどれだけ還元しているのか。
代表の試合で興味を持った人がどれだけJリーグの試合を見に来てくれたか。
スポット的な分析か印象論で語るしかできない面があります。
したがって、代表とのサイクルについてはJリーグの分析を待ちたいところです。
<2015年シーズンの代表とJリーグの関係性について>
[Ⅴ]2ステージ制・チャンピオンシップ制導入の影響(収入編)
最後に収入についてですが、この項目だけは当初目標が公になっていました。
来季2ステージ制で10億円増目標
《日刊スポーツ 2014年11月8日付》
2ステージ戦略には、スポンサー獲得の狙いがある。現行システムでのスポンサー収入は、およそ年間120億円。これに2ステージに伴う新規スポンサー獲得により、さらに10億円の収入増を目指している。
2シーズンになれば1stステージ、2ndステージで優勝チームが決まり、さらにシーズン終盤には、スーパーステージや、年間王者を決めるチャンピオンシップで大きな話題を集めることができる。スポンサーにとって、Jリーグ優勝がシーズン中に何度も出てくることは、露出面でのメリットが期待でき、新規スポンサーを狙うJリーグにとってはチャンスになる。
10億円の収入増はそうした戦略に基づいて計画されたものだ。多少の日程面での窮屈な部分があっても、2ステージを選択した背景には、サポーター心理や話題性を生みだそうとするもくろみが見えてくる。
10億円の収入増なら2ステージ制・チャンピオンシップ制を導入した甲斐があったというもの。
しかし、報道では成果があったとするものとなかったとするものに見事に分かれました。
J1 今季導入の新方式に成果と課題
《NHK 2015年12月6日付》
Jリーグ関係者によりますと、スポンサー収入も見込みどおり確保できたということで、今シーズン導入した新たな方式は一定の成果を挙げたと言えます。
浦和か広島か、G大阪も 複雑化したJ1王座争い
《日本経済新聞 2015年10月30日付》
■2ステージ制、あまり収入増にならず
そもそも、Jリーグが「誰も望まない2ステージ制」実施に踏み切ったのは、スポンサー収入の減少をチャンピオンシップによる放映権料で補うことを目的としていた。実際にはいろいろな経緯で予定していたほどの放映権料は入らず、収入面での落ち込みを避けることができたのは、幸運にも今季からタイトルスポンサー(明治安田生命)がついたからだった。
協賛金が増収でも放映権料が見込み通りでなかったとしたらトータルではどうなったのか。
例年3月頃発表される決算報告まで保留するしかないでしょう。
<2ステージ制・チャンピオンシップ制導入による収入について>
- 当初目標は10億円の増加なので、これが果たせれば目標達成
- 協賛金見込み通り増収+放映権料想定より減収=??
- Jリーグの決算報告待ち
[Ⅵ]チャンピオンシップ制導入による問題点
ここまで2ステージ制・チャンピオンシップ制の評価をしてきました。
次に、チャンピオンシップ制の問題点についても触れておきたいと思います。
今回特に指摘されたのは日程面の問題でした。
先日作成したサンフレッチェ広島2015年12月のスケジュールです*5。
このように、中2日の試合が最大5試合発生し、最大9試合をこなすハードスケジュール。
特にCWCの期間は広島に帰ることも叶わず、アウェイの地でほとんどを過ごしていました。
広島、過密日程の今季が終了…佐藤寿人「悔しさは来季につなげる」
《サッカーキング 2015年12月30日付》
G大阪とのチャンピオンシップで幕を開けた12月は、クラブ・ワールドカップや天皇杯もあり、この日が8試合目。「仕方がない」と前置きしながらも、「すごくきつかった。常にホテルの食事で、やっと帰れたと思ったら天皇杯で長崎へ行ったり、また大阪へ来たりして。家で落ち着いて食事を摂ったり、家族と一緒に過ごす時間もほとんどなかった。ただ、こういうスケジュールの中で試合ができることは喜びでもありました。残念ながら今日でシーズンがおわってしまったので、早く家でゆっくりご飯を食べたいなと。やっぱり広島でゆっくり生活したいという気持ちはありますね」と過密日程に言及した。
せっかく地上波ゴールデンタイムにJリーグの試合を流せても、過密日程のためクオリティの下がった内容ではむしろマイナスイメージにつながりかねません。
過密日程となった最大の理由はCWCですが、CS開催もその原因の一つとなっています。
幸い、2015年のCSは3試合すべてがスペクタクルな内容でした。
2016年以降もそうなるよう、まずは日程の再検討が必要でしょう。
また、CSの日程間隔にも問題提起したい点があります。
CS準決勝は11月28日(土)、決勝第1戦は12月2日(水)、第2戦が12月5日(土)*6。
これによって日程は中3日と中2日となっていました。
後述しますが、年間勝ち点1位のクラブを優遇するのであれば、これはおかしな話です。
第1戦を火曜日にして中2日と中3日を逆にするか、第2戦を日曜日にして中3日にするべきだったのではないでしょうか。
視点は違いますが、佐藤寿人もCSの日程についてコメントしています。
寿人CS日程に疑問「なぜ日程が逆転」
《デイリースポーツ 2015年12月4日付》
2年ぶりとなる年間優勝に王手をかけたJ1広島のFW佐藤寿人(33)が4日、チャンピオンシップ(CS)の日程について疑問を投げかけた。
5日に決勝第2戦が行われるが、翌日の6日にはJ1昇格プレーオフ決勝や、J2・J3入れ替え戦第2戦が開催される。「(CSが)Jリーグの締めじゃないのはおかしい。なぜ、日程が逆転したのか?」と首をかしげていた。
火曜・日曜に日程を動かせなかったのはもしかしたらメディア側の都合かもしれません。
であれば、J1昇格POやJ2・J3入れ替え戦を1週早めることも検討されるべきでしょう。
最後にレギュレーションの一貫性のなさも指摘しておきます。
2ステージ制・チャンピオンシップ制導入で年間勝ち点1位は優遇されることになりました*7。
これは選手会からの要望と、2000年の柏レイソル*8を繰り返さないためだと考えられます。
にもかかわらず、なぜ累積警告が決勝でリセットされるのでしょうか*9。
たしかに、結果的に2015年のCSでは累積警告の影響は出ませんでした。
しかし、その一方でCSではリーグ戦よりも警告が多く出たのも事実。
一発勝負の決勝戦や過密日程ではどうしても無駄なファウルは増えてしまうものです。
天皇杯などでリセットされるのは試合のレベルを高く保つという意図があるのでしょう。
一方、年間勝ち点で優劣を付けるCSで求められるのは公平性ではありません。
年間勝ち点上位を優遇するという意味で同様のJ1昇格POでは累積警告はリセットされません。
CSも同様に警告が累積するレギュレーションとすべきではないでしょうか。
<2015年チャンピオンシップの問題点>
[Ⅶ]2016年の新大会方式について
さて、先日、2016年以降の日程とレギュレーションが発表されました。
これによると、2016年のCSは準々決勝が11月6日(日)、準決勝が11月23日(水・祝)、決勝第1戦が11月29日(火)、決勝第2戦が12月3日(土)、となりました。
中2日が激減しておりポストシーズンの日程については非常に良い改善だと思います。
また、年間勝ち点上位がステージ覇者に優位することが明確になり、全ての試合で最終的に年間勝ち点上位のチームを優先することになっています。
もともと延長戦・PK戦があるレギュレーションには疑問を抱いていました。
延長まで行くと本来の放送時間をオーバーしてしまうこと、交代カードの選択が消極的になる可能性があること、選手のパフォーマンスがガクッと落ちることなどがその理由です。
延長戦・PK戦をなくした新レギュレーションはその点で評価できます。
一方、これは1stステージ勝者、2ndステージ勝者の価値を落とすことを意味します。
そもそも2ステージ制である必要があるのかという根本的な問題が出てくるでしょう。
累積警告については記載されていません。
今後この点がどう変わるのかにも注目していきたいと思います。
[Ⅷ]終わりに ~まだ改革は始まったばかり~
ここまで新レギュレーションと問題点、2016年シーズンの新方式について見てきました。
評価の多くの部分において外から見える範囲が狭いため、Jリーグの分析が待たれます。
2015年シーズン総括レポートの公開は非常に良い取り組みだと思います。
完全版を読んでみたいですし、継続して欲しいと切に願います。
2ステージ制もチャンピオンシップ制もまだまだ問題が山積みです。
簡単に解決できる問題ではありません。
特に、FIFAカレンダーの影響で起こる11月問題は大きな影響がありました。
私は、メリットを具体的に提示できない限り秋春制の導入には反対でした。
しかし、11月問題がある以上、秋春制…正確には夏夏制の導入も検討すべきだと思います*10。
また、他競技のレギュレーションも参考にできる点があると思います。
プロ野球は同様のCSを開催していますがリーグ優勝はリーグ優勝で讃えられています。
CS制覇に安堵の寿人「年間1位が報われない恐怖心があった」
《ゲキサカ 2015年12月5日》
喜びよりも安堵の気持ちが大きかった。レギュラーシーズンで史上最多となる勝ち点74を獲得しながら、あらためて優勝を懸けて11年ぶりに復活したチャンピオンシップを戦ったサンフレッチェ広島。FW佐藤寿人は「年間1位になって、チャンピオンシップはプレッシャーでしかなかった」と、率直な思いを吐露した。
「年間1位になっても、チャンピオンシップを取らないと、すべてが報われない恐怖心があった」。その重圧はアウェーでの決勝第1戦に先勝して、さらに強まった。ホームでの第2戦は先制を許す苦しい展開。それでも1-1の引き分けに持ち込み、2戦合計4-3で2年ぶり3度目の優勝を決めた。
年間勝ち点1位は1位で讃えられ、それとは別にCSを開催するという形にすべきだと思います。
見る側は楽しめるかもしれませんが恐怖心を持って戦うのが正しい在り方だとは思えません。
また、1stステージ勝者を讃えるという意味では箱根駅伝を参考にしたいところ。
往路勝者をもっと評価する流れができなければ2ステージ制の成功とは言えません。
テニスのツアーファイナルを参考にするのも面白い意見です。
2ステージ制・チャンピオンシップ制は、Jリーグを取り巻く環境が危機的状況になる未来が見えていることから導入されたレギュレーションでした。
裏を返せばJリーグを取り巻く環境が改善されればいいはず。
その手法は1つではないでしょう。
Jリーグ再建計画 日経プレミアシリーズ / 大東和美 【新書】 |
やり方はいくらでもあるはずです。
考えられる限り最もJリーグにとって理想的な手法を探し続けなくてはなりません。
2016年以降のJリーグも素敵なものであることを願って。
<参考サイト>
2ステージ制・チャンピオンシップ制に関する記事をざっとあげておきました。
私もこれ書き終わった後に読むつもりです。興味のある方はどうぞ。
- CS導入、広げた商機 日程・仕組み、課題残す J1・2015 2ステージ制回顧(上)《日本経済新聞 2015年12月8日37面》
- 試合過密、生じるひずみ 早いオフ、ファン離れ懸念 J1・2015 2ステージ制回顧(下)《日本経済新聞 2015年12月9日37面》
- インサイド 検証、2ステージ制 Jリーグ、再生への模索/上 CS集客で誤算《毎日新聞 2015年12月7日付》
- インサイド 検証、2ステージ制 Jリーグ、再生への模索/下 目立った分かりにくさ《毎日新聞 2015年12月9日付》
- 記者の目 Jリーグ 2ステージ制を終えて=鈴木英世(東京運動部)《毎日新聞 2015年12月25日付》
- Jリーグ11年ぶりのCS、まずまずの滑り出し《WEBRONZA(朝日新聞) 2015年12月9日付》
- 今季導入の新方式に成果と課題《NHK 2015年12月6日付》
- 最終戦CS決勝であるべき《デイリースポーツ 2015年12月10日付》
- やっぱり1ステージ制で良かったような…《スポーツニッポン 2015年11月6日付》
- 両者にあったCSのメリット、デメリット 来季以降も魅力的なJを《スポーツニッポン 2015年12月9日付》
- シーズンオフの少ない選手 スケジュール再考を《スポーツニッポン 2015年12月12日付》
- 村井チェアマンが2ステージ制とCS導入を含む2015シーズンを総括…「兆しは感じられた」《サッカーキング 2015年12月22日付》
- JのCSが残した3つの課題 来季から開催方式変更へ《THE PAGE 2015年12月9日付》
- 福田正博が提言。Jリーグチャンピオンシップと2ステージ制の功罪《スポルティーバ 2015年12月29日付》
- 2ステージ制+CSは成功と言えるか? データで徹底追及する、新レギュレーションの是非《フットボールチャンネル 2015年12月22日付》
- 「Jリーグの動員増は、2ステージ制反対派の敗北を意味する」村上アシシ( @4JPN)のお前にアシシスト!【前編】《スポーツマーケティング・ナレッジ 2015年12月7日付》
- 「チャンピオンシップ導入、ぶっちゃけ既存顧客は眼中にない」 村上アシシ( @4JPN)のお前にアシシスト!【後編】《スポーツマーケティング・ナレッジ 2015年12月8日付》
- 2ステージ制+CSを1サポーターが総括してみた《INUUNITED 2015年12月22日付》
- 来期チャンピオンシップ大会方式と試合方式が変更:ステージ優勝のみ=敗者復活 の図式が決定的となる.《konakalab 2015年12月23日付》
*1:武藤嘉紀選手 マインツへ完全移籍合意のお知らせ《FC東京HP 2015年5月30日付》
*2:ちなみに、1位はGWの多摩川クラシコの42,604人、2位もGWの鹿島戦42,070人。年間平均集客数は28,784人だった。
*3:山口蛍選手 ハノーファー96へ移籍合意のお知らせ セレッソ大阪HP 2015年12月21日付
*4:フースバル・クラブ・バーゼル1893 柿谷曜一朗選手 完全移籍加入のお知らせ セレッソ大阪HP 2016年1月4日付
*5:天皇杯は準決勝で敗退したため決勝進出はしていないが、最大試合数と日程を把握するために記載した。
*6:準々決勝があった場合は11月25日(水)に開催される予定だった。なお、2ndステージ最終節は11月22日(日)。
*7:決勝シード権と、決勝第2戦のホーム開催権。決勝第2戦は土曜日なので集客面で有利。一方過去のチャンピオンシップは千勝したチームが全て優勝しているというデータがあるためどっちもどっちとも言える。
*8:2000年の柏レイソルは年間勝ち点58で勝ち点1位だったが、1stステージ優勝のマリノス(年間勝ち点54)、2ndステージ優勝の鹿島(年間勝ち点55)がチャンピオンシップに出場したため年間勝ち点1位でありながら年間3位になるという事態が起こった。
*9:明治安田生命2015Jリーグチャンピオンシップ 大会概要では次のように定められている。明治安田生命Jリーグチャンピオンシップにおいて警告累積が2回に達した場合、同大会の直近の試合が出場停止となる。明治安田生命Jリーグチャンピオンシップ準決勝終了後に累積警告が1回の場合、その警告は決勝に持ち越さない。
*10:夏夏制とは現在のカレンダーの開始時期を変更するやり方。夏休みは興行的に外せず、冬は雪があることからシーズン開催期間そのものの変更は無理だと考えているため。