クラブライセンスの交付とアカウンタビリティ ~2013年度審査結果を受けて~
今回は久しぶりにスタジアムの話から離れてクラブライセンス制度について。
先日、申請していた全41クラブにJリーグクラブライセンスが交付されました*1。
審査結果を簡単にまとめると次表のようになります。
《Jリーグの発表を元に作成》
交付にあたって、Jリーグからプレスリリースが出ています。
それに触れながら今回の交付について少しばかり雑感を。
本当はJ1ライセンスとJ2ライセンスの話もしたかったのですがスペースの都合上カットで。
[Ⅰ]サンフレッチェクラスタとしての雑感
前述の通り、サンフレッチェ広島にも無事J1ライセンスが交付されました。
前節の結果によりJ1残留圏が確定したため来期もJ1で戦うことができます。
しかし、実はサンフレッチェにはライセンス交付にあたり2点ほど心配な点がありました。
1つ目は施設基準。
先日の第9回サポーターズカンファレンスで次のような説明がありました。
1.クラブについて(本谷祐一社長)
《第9回サポーターズカンファレンス議事録》【クラブライセンス制度について】
クラブライセンスについての必要書類は6月末にすべてJリーグに提出しました。現在、問題とされる部分はありません。懸念のひとつだったスタジアムの照明の照度について「来年の開幕までには1500ルクス以上にします」という回答をいただいています。
この照明設備については後日新聞にも出ていましたが、補修されるそうです。
《中国新聞 2012年9月6日26面》
また、広域公園陸上競技場はご存じの通り屋根の要件を満たしていないことが明白。
第34条〔施設基準〕
《Jリーグ クラブライセンス交付規則 2012年2月1日施行分》
I.13 スタジアム:屋根
(1) スタジアムの屋根は、観客席の 3 分の 1 以上が覆われていることが推奨される。
(2) 前項にかかわらず、スタジアムの屋根は、すべての観客席を覆うことが望ましい。
また、B等級の基準なのでライセンス交付はされますが制裁の可能性がありました。
詳細については次項で触れますが、文書提出で済んでほっと一安心というところです。
さすがに初年度から厳しい制裁が出るはずもないのですが。
2点目は財務状況。つまり、債務超過と単年度赤字に関する問題です。
クラブライセンス制度において債務超過である場合は一発アウトとなります*2
2-5〔財務基準の運用細則〕
《Jリーグ クラブライセンス交付規則運用細則 2012年2月21日施行分》
F.01 年次財務諸表(監査済み)(pdf注意)
3.判定
(2) 提出された財務諸表に基づいて審査を行い、以下のいずれかに該当する場合は基準 F.01 を満たさないものとする。
① 3 期連続で当期純損失を計上した場合。ただし、判定は2012 年度決算より開始し、それ以前の年度は判定対象としない
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。ただし判定は 2014 年度決算より開始し、それ以前の年度は判定対象としない
③ Jリーグからの指摘に基づき、過年度の決算の修正が必要となった場合において、過年度の決算を修正した結果、前 2号に示す事態となった場合
債務超過に関しては先日減資+増資を行ったことで回避できました。
単年度赤字は問題ではありませんが3期連続の赤字でアウトなので避けたいところ。
ただ、これに関しては2012年度決算が不明なため現状何とも言えません。
今回の交付により、暫くは財政状態さえ安定すれば大丈夫なのではないでしょうか。
もちろん、基準が大きく変更されない限り…という前提がつきますけれど。
[Ⅱ]B等級基準未充足に伴う制裁について
前項でも少し触れましたが、B等級未充足に伴う制裁が今回発表されました。
B等級の基準とは、制裁の可能性はあるがライセンス交付はされる基準のこと。
今回、制裁の内容は「文書提出」となっており、今後の方針の一端を示したと言えます。
クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ 2012年9月28日付》
■判定に付帯する事項
(2) B等級基準未充足
ライセンス基準のうち「B等級」に指定されている基準(3つ)については、それを充足していなくてもライセンスは交付される。ただし、クラブライセンス交付規則第7条および第15条に基づき、B等級の基準をひとつでも充足していないクラブには、ライセンス交付と同時に制裁を科すこととなっている。
B等級未充足
B等級基準(特にスタジアムの屋根の大きさ・トイレの数)を充足していないクラブに対し、ライセンス交付と同時に制裁が科される。(※対象:36クラブ)
【注】クラブライセンス交付規則の用語上、「制裁」という厳しい言葉になっているが、本件における制裁の内容は「文書提出」である。具体的には、「2013シーズンにおいて使用することを予定するスタジアムの衛生施設および屋根の不足を理由とする観客に対するホスピタリティの欠如に対し、クラブが実施しているまたは実施を予定しているホスピタリティ向上策について、2012年10月31日までに書面で回答すること(ライセンス事務局が受付、FIBへ送付)」となっている。
上記のように今回特にB等級で満たしていなかったものはスタジアムの屋根とトイレ。
これはスタジアムの問題なのでクラブがすぐ改善できるようなものではありません。
Jリーグがどのような対応をするのかに注目していました。
個人的には、この辺で収めておいて正解だったと思います。
「ホスピタリティの欠如」なんて言い回しは反感買いそうな予感もなくはないですが。
「十分なホスピタリティを提供できなかったこと」などにすればいいような気も。
また、「文書提出」が第8条の制裁項目のどれにあたるのかは不明です。
[Ⅲ]クラブ経営上の指導について
ライセンス決定会議においてFIBの決定は4種類あります。
交付、指導付交付、制裁付交付、交付なし。それが定められているのが交付規則運用細則。
フロー11
《Jリーグ クラブライセンス交付規則運用細則 2012年2月21日施行分》
(1) ライセンス決定会議の結果、FIBはライセンス申請者に対し、以下のいずれかの決定を出し、交付規則第26条第1項に基づき、9月30日までに当該ライセンス申請者に文書(「FIB決定書」)にて通知する。
① Jライセンスを交付する、または交付に付帯して是正指導を行う (フロー11-A)
② Jライセンスを交付し、あわせて「B」等級未充足に対する制裁を科す (フロー11-B)
③ Jライセンスの交付を拒絶する (フロー11-C)
Jリーグから公表されたもののうち、「クラブ経営上の指導」が是正指導にあたります。
今回は「是正通達」と「個別通知」の2パターン。是正通達の方が重く、重複もあるそうです。
クラブライセンス交付第一審査機関(FIB)による 2013シーズン Jリーグクラブライセンスの交付について
《Jリーグ 2012年9月28日付》
■判定に付帯する事項
(3) クラブ経営上の指導
ライセンス判定には直接関係ないが、判定に際し、クラブに経営改善を促す目的で、FIBが独自に指導を行うことができる。指導には「是正通達」または「個別通知」があり、是正通達のほうが重い指導となる。また、クラブの経営状況に合わせ、是正通達と個別通知の両方を出すこともある。
内容是正通達(※対象:9クラブ)
ライセンス交付判定に付帯して、クラブ経営上是正すべきと思われる点について、FIBが対象クラブに通達を出す。通達の内容は公表する。
個別通知(※対象:13クラブ)
是正通達とまではいかないが、FIBからのクラブ経営上改善を要請する旨の指摘があった場合、それを受けたライセンスマネージャーが対象クラブに個別に指摘事項を通知する。
この中身ってどんなものなんだろうなと思ったら岐阜新聞の記事に載っていました。
全部が全部こうではなく、おそらくクラブごとに内容が異なるんじゃないでしょうか。
FC岐阜に来季のJ2ライセンス交付 設備改善計画提出へ
《岐阜新聞 Web 2012年9月29日付》
さらにライセンス交付に際しては、第一審機関(FIB)から「債務超過の解消のほか、単年度黒字化計画を立案の上実行するよう、当面の間はJリーグがクラブ経営を指導する」という是正通達2 件を受けた。通達を受けたのは、J2では岐阜を含めて3チーム。
[Ⅳ]おわりに=Jクラブのアカウンタビリティ
ということで駆け足で今回のクラブライセンス審査結果を見てきました。
冒頭でも書きましたが、J1・J2ライセンスの違いとスタジアムキャパの話は都合上カット。
もっと言えば、大分と長崎の条件付交付の話も出来ればやりたかったのですが。
初めての決定ということで今後のライセンス運用上重要な部分に注目してみました。
さて、今回の発表でB等級基準未充足クラブが36あるそうです。
「是正通達」を受けたのは9クラブ、「個別通知」があったのは13クラブ。
皆さんが応援しているクラブの結果はご存じですか?
私が調べた範囲で分かったのは次の通りです*3。
いかがだったでしょうか?
ローカルニュースなどではもう少し明らかになっているのかもしれませんね。
今回の決定結果を知るために最も役立ったのは新聞です。
10月2日付で全クラブの公式HPを見て回りましたが余りにも情報が出ていません。
全40クラブ中、公式サイトでプレスリリースを出したのは半分にも満たない18クラブ*5。
うち、「B等級基準未充足」を公表したのは、栃木・松本・鳥取・岡山・熊本の5クラブ。
「クラブ経営上の指導」を公表したのは栃木と熊本のみでした。
今回の決定について、公式サイトで報告していないクラブがこんなにあることに驚きました。
確かにクラブライセンス制度で突然ライセンス交付されない事態は考えにくいとは思います。
基本的に6月の申請から時間をかけて審査していますし、不備があればヒアリングもあります。
一番厳しいとされる財務基準も事前にある程度分かっているはずです。
ですが、クラブライセンス制度はクラブ存続にかかわる重要事。
サポーター、ファンだけでなく株主やスポンサーだって気にするところでしょう。
多くのクラブには「アカウンタビリティ」の意識が欠如していると言わざるを得ません。
「アカウンタビリティ」とは日本語でいう説明責任。
会計的な責任を利害関係者に説明しなくてはならない…というような意味が原義です。
現在では利害関係者に対する活動報告の説明責任まで広く取られることがあります。
今回の決定に際して、水戸、北九州、町田、鳥取、鳥栖は極めて誠実な発表でした。
各クラブのリリースを見れば、フロントが誰を見ているかが伝わってくるはずです。
J1でリリースを出したのは大宮と神戸、鳥栖のみ。
別に経営危機だから、交付が危ういからリリースを出すべきだという話ではありません。
普段からこのような重大なことは発表する意識を持つことが大事なのではないか。
アカウンタビリティをきちんと果たすことは「理想」ではあると思います。
しかし、クラブは何故存在しているのか…それを問い続ければ自ずと必要になるでしょう。
ライセンス制度をただ乗り越える壁と捉えず、良い機会にできれば良いのですが。
*1:なお、カマタマーレ讃岐は事前に申請を取り消している。カマタマ申請取り下げ、今季J昇格の可能性消滅《四国新聞社 2012年9月27日付》。
*2:ただし、債務超過は2014年度決算より判定される。Jリーグ クラブライセンス交付規則運用細則 2-5〔財務基準の運用細則〕 F.01年次財務諸表(監査済み)。
*3:岐阜新聞と日本経済新聞で食い違いがあった分は日本経済新聞を優先している。
*4:全クラブにライセンス交付 北九州など来季J1参戦不可能に《MSN産経ニュース 2012年9月28日付》、FC岐阜に来季のJ2ライセンス交付 設備改善計画提出へ《岐阜新聞 Web 2012年9月29日付》、全クラブにライセンス Jリーグ、財務など審査《日本経済新聞 2012年9月29日37面》。
*5:18クラブの内訳は、水戸、栃木、草津、大宮、東京V、町田、松本、岐阜、京都、神戸、鳥取、岡山、徳島、愛媛、福岡、北九州、鳥栖、熊本。リリースを出したが分かりにくいものや、10月3日以降に発表したものに関してはチェックできていない。