スタジアム候補地としてみなと公園が「優位」とされたワケ その4(交通アクセス)
第4回は交通アクセスについて。
交通アクセスの評価について第1回で説明しましたが2015年7月時点では保留でした。
そのため2015年7月以前の情報だけでなく、最新の情報を用いて考察を行っております。
一方、確認した段階では作業部会及びプロポーザル調査の成果物はできていません。
そういう事情もあって不確定な情報をもとにしていることを予めご理解下さい。
具体的にいうと、本当は検討していたが委員会等に提出された資料には記載がなかった。
あるいは、もっと詳細な条件設定がされていたが要約段階でカットされていた。
などというようなことがあるのかもしれません。
更新時点ではそれらの可能性について確認できておりません。
そういった点を念頭に置いた上でお読みいただければと思います。
それから、すごく長くなってしまって大変申し訳ありません。
長くなるので簡単な目次を用意しました。
- 交通アクセスについて作業部会はどう評価していたか(2015年7月の話)
- 交通アクセスに係るプロポーザル調査はどのような内容だったか(2016年2月の話)
- プロポーザル調査における公共交通利用の前提条件について(輸送可能量について)
- プロポーザル調査における自動車利用の前提条件について(公共交通転換について)
- 問題点のまとめ
- おまけ(協議会の話)
それではよろしくお願いします。
[Ⅰ]交通アクセスについての作業部会の評価
まずは2015年7月のトップ会談開催時における作業部会の評価を確認しましょう*1。
このように、作業部会は交通アクセスを4区分に分けて検証していたことが分かります。
旧広島市民球場跡地と広島みなと公園、そしてそれぞれで公共交通利用と自動車利用ですね。
そして、旧広島市民球場跡地も広島みなと公園も似たような評価に読めます。
どちらも公共交通利用は大丈夫だが自動車はよく分からない、と。
しかし、旧広島市民球場跡地の交通アクセスについては特に検証された形跡はありません。
本当に公共交通機関のアクセスに問題がないのか。本当に駐車場を設置できないのか等。
旧広島市民球場跡地の交通アクセスのみ検証しないのは疑問が残ります*2。
私個人の予想では多少なりとも問題は出てくると思いますが、建設後に出てくるよりかは予め検証・指摘して解決策を検討しておく方が健全ではないでしょうか。
そういうわけで旧広島市民球場跡地の交通アクセス評価については本稿では取り上げません。
検討されていないので、できないという方が正しいかもしれませんが。
次項からプロポーザル調査を中心に広島みなと公園の交通アクセス評価を見ていきます。
[Ⅱ]宇品地区交通対策検討業務
では、広島みなと公園の交通アクセス評価はどのように行われたのでしょうか。
2015年7月の段階で、公共交通利用については業者にヒアリングをしています*3。
自動車利用については広島みなと公園に接する南道路の交差点3カ所で交通量調査を実施。
その結果、自動車利用は「宇品地区全体の交通について課題がある」*4ため継続検討。
この継続検討というのが交通アクセスに関するプロポーザル調査へと繋がるわけです。
それでは、広島県が行った交通アクセスのプロポーザル調査の中身を見ていきましょう。
正式名称は宇品地区交通対策検討業務と言い、2015年9月17日に公告されました。
選定の結果、最優秀提案者はパシフィックコンサルタンツ㈱ 中国支社が選ばれています*5。
業務内容については下記のサイトが詳しく説明してくれています。ご参考までに。
さて、このプロポーザル調査の目的と内容を見てみましょう。
宇品地区交通対策検討業務仕様書
《広島県 2015年9月17日付》
1 業務の目的
サッカースタジアムの検討については,7月22日に広島県知事,広島市長,広島商工会議所会頭が会談し,候補地や事業主体等について協議した結果,候補地については,旧広島市民球場跡地より広島みなと公園が優位であるが,広島みなと公園は,宇品地区の交通課題の解決策が必要であることについて合意したところである。
本業務は,宇品地区の混雑時(10月25日(日)に開催予定の帆船フェスタ)における交通状況を把握し,広島みなと公園にサッカースタジアム及び複合施設が建設された場合の交通解析を行い交通課題の抽出を行うとともに,交通課題に対する対策案の検討と対策効果の検証を行うものである。
このように、2015年10月25日(日)に開催された帆船フェスタをもとに交通解析を行いました。
その際に交通課題を抽出し、さらに対策案も検討し、その効果の検証をしたようです。
この結果、一部の交差点を除いて円滑な退場が見込めるという解析結果が出ました*6。
これをもって知事は「広島みなと公園優位というところは強まっている」*7と発言したのです。
しかし本当に優位であると言い切れるのでしょうか。
プロポーザル調査の中で、私が特に気になっているのが交通解析の前提条件です。
この調査は次のような前提条件の下で検証されています。
上手く説明できる気がしないので資料に下線つけただけのやっつけ画像をどうぞ。
《広島県総務委員会机上配布資料 2016年2月16日》
上記のような条件の下でサッカーの試合があった場合の2パターンで交通解析をしています。
この前提条件について公共交通利用と自動車利用に分けて問題点を見ていきましょう。
[Ⅲ]公共交通利用の前提条件=本当にそれだけ輸送できるのか
まずは公共交通利用から確認することにしましょう。
この調査で公共交通機関として想定されているのはシャトルバス、路面電車、船舶の3つ。
グーグルマップでいうとA地点が広島みなと公園で、B地点がシャトルバスの発着場。
南東にある赤色星印とB地点の影に隠れている西側の赤色星印が船舶の発着地です。
路面電車はグーグルマップでは説明しづらいので広島電鉄の地図をご紹介。
《広電電車路線案内図 (日本語版/Japanese)|広島電鉄より》
上記マップと組み合わせてもらえれば分かりやすいと思います。
ちなみに広島みなと公園の最寄り電停は広島港、広電宇品線の終着駅です。
次に、公共交通機関ごとに中身を詳しく見ていきましょう。
ポイントは、「本当にその輸送量を確保することができるのか」です。
1つ目はシャトルバス。1時間当たり10,250人を輸送するとされています。
一般的な路線バスで10,250人を輸送しようと思うと130台は必要となる計算で*8、現実的には乗車率がそこまで上がるとは思えませんからさらに多くの便数が必要となります。
そして発着地は広島駅、アルパーク、イオンモール広島府中、観音マリーナの4ヶ所。
ピストン輸送をするにしても片道10分以上かかりますから3往復は難しいでしょう*9。
かつてサンフレッチェ広島はアルパーク発着のシャトルバスを運行していました*10。
最近では広島広域公園・広島駅間のシャトルバスも検討しているといいます*11。
しかし、前者はニーズ・運営赤字の問題で、後者は所要時間からなかなか難しいという話。
同じように、現実的にどうやって運行するかという詳細な検証も必要ではないでしょうか。
また、前述したように作業部会は2015年7月時点で業者にヒアリングを行っています。
その際には1試合当たり約1万人の輸送が可能とされており、1時間当たりではありません。
これらの点から本当に毎時10,250人の輸送が可能なのかしっかりとした説明が欲しいのです。
次に路面電車ですが、これは1時間当たり6,240人を輸送することになっています。
2015年7月のトップ会談配付資料では1時間当たり約5千人だったので約25%増し。
これは車両留置施設の新設と電車優先信号導入で増便できるという計算なのでしょう。
広島県のサッカースタジアム宇品交通対策について、広島県議会議員からも疑問の声が相次ぐ。路面電車を1時間に24本運行することが必要との説明にそのようなことをしたら電車が数珠つなぎになって大変なことが起きるのではないかとの厳しい指摘。 pic.twitter.com/FSM6BiK87h
— オム (@omu_sub) February 16, 2016
広島県議会の議事録の更新が遅いためTwitterから画像を拝借。
この発言で1時間当たり24本の電車を走らせる想定であるとされています。
実際、平日午前7時台の広島港駅では25便の電車が運行しており非現実的ではありません*12。
ただし、24便で6,240人を輸送するということは1便当たり260人が乗車する計算です。
広島電鉄の最大キャパシティを誇る3000形でも定員は180名。混雑率は1.44倍。
1時間あたりの輸送量が見込み通り確保するのは難しいのではないかと感じてしまいます。
仮に連結車両で解決するのであれば、軌道運転規則で「連結した車両の全長を三十メートル以内としなければならない」とされていることに対しての回答が必要ではないでしょうか*13。
最後に船舶に関してですが、どれだけ運航できるかという話は置いておきましょう。
どういった人がどれだけ利用するのかという検証結果がないと話が始まりません。
もっともこれは他の公共交通でも言える話ですので自動車利用の項で詳しくやります。
また、サッカーは野球とは違って雨の日でも試合があります。
波が高い日はどうなるのかという運行面からの検証も行う必要があるはずです。
[Ⅳ]自動車利用の前提条件=本当にそれだけ利用者がいるのか
続いて、公共交通利用に続いて自動車利用の前提条件を確認します。
自動車は駐車場を広島みなと公園に1000台、観音マリーナに930台分用意。
さらに3万人来場時は鷹野橋宇品線沿線に500台、中広宇品線沿線に1800台分を用意する計算。
なお、プロポーザル調査は宇品地区が対象なので、広島みなと公園の1000台と中広宇品線沿線の1800台の合計2800台分が来場するという前提で交通解析等を行っているようです*14。
さて、少し話は飛びますが、昨年交通アクセスに関するアンケートを行っていたようです。
サッカー場 広島みなと公園に建設なら 「車で観戦に」5割超す 県などが千人調査
《中国新聞 2016年1月19日32面》
アンケートは昨年11月~12月、県が委託した業者がインターネットで実施。エディオンスタジアム広島で試合を観戦したことがあるか、みなと公園にスタジアムができた場合に観戦する意向がある中国5県在住者を対象に、千人から回答を得た。
来場の交通手段を尋ねたところ、自動車が54.4%で最も多い。19.9%で2位の路面電車を大きく上回り、現状では公共交通機関の利用を考えていない人が目立った。続いて、自転車・バイク11.0%▽路線バス・シャトルバス10.1%▽徒歩1.6%▽フェリー(呉港-広島港)1.1%-だった。
広島市中心部への建設が検討されている信スタジアムは3万人規模を想定。3万人来場のケースで試算すると、自動車の利用は1万6320人、台数換算では5917台となる。県などは「一度に車が集中すれば駐車場が不足し、交通混雑を引き起こす恐れがある」とし、公共交通機関の利用拡大策や交差点改良などの検討が必要とみている。
サンフレッチェ広島によると、エディオンスタジアム広島で昨年あった公式戦の来場者のうち、車で訪れた人は1試合平均35%程度。ただ「把握できていない駐車もあるとみられ、多く見積もると5割弱」という。周辺では渋滞や駐車場不足が問題となっている。
プロポーザル調査では、このアンケート結果をもとに交通手段別の来場者数を試算。
それをさらに「公共交通への利用転換を図る」*15ことで再計算しています。
問題はこの再計算の根拠、そしてその方法も示されていないことです。
アンケート調査結果では54.4%の人が自動車での来場を選択しています。
それを公共交通の利用促進で半分以下にするというのはいささか乱暴ではないでしょうか*16。
サンフレッチェ広島の観客層のうち半数前後が自動車利用者だとされています*17。
クラブも公共交通利用を推進していますがなかなか効果が出ていない様子。
そうそう簡単に公共交通利用に転換できるとは思えません。
むしろ、近隣の駐車場を絞ることで観客数が減少するリスクの方が大きい気がします。
自動車利用率を引き下げる方策をしっかり示す必要があるはずです。
[Ⅴ]まとめ=結論ありきで条件設定しないでください
今回は交通アクセスについて説明してきました。
交通アクセスの評価は不確定な部分がありますが問題点をまとめると次の通り。
- 旧広島市民球場跡地の交通アクセスの交通解析・課題抽出を行っていない
- 公共交通利用によって本当に毎時1万7千人の輸送力を確保できるか不明である
- 自動車利用率を下げる前提となっているがその方法が不明である
プロポーザル調査で出てきた結論自体は間違っていないのかもしれません。
しかし、その前提条件をどのように詰めたのかは明らかにする必要があります。
交通アクセスに支障がないという結論を得られるような条件設定をしている。
そのように取られても仕方のない検証の進め方に見えるからです。
自動車利用率を低減できるという点以外にも、公共交通利用に対するニーズ。
そして、自動車だけではなくシャトルバスや路面電車が道路事情に与える影響。
それらをしっかりと詰めた上で検証をする必要があります。
冒頭でも述べましたが、もしかしたらそれらはきちんと考慮しているのかもしれません。
しかし、作業部会が提出した情報だけではそれを読み取ることは困難なのです。
非常に難易度が高い条件設定をしているのですからそれなりの根拠があって然るべき。
結論ありきでは困るのです。説得できるような資料を作成してほしいと切に願います。
今回はここまで。
この後ちょっとだけおまけがありますが削除するには惜しいので残しただけ。
あんまり読む必要はないので無視してもらっても結構です。
次回はついに最終回。波及効果に触れながらまとめに入ります。
[Ⅵ]おまけ=協議会における交通アクセスの評価
今回、交通アクセスの評価を確認するに当たって協議会の話は一度も出てきません。
これにはきちんと理由があるので、それをオマケとして解説しておきます。
前回・前々回は協議会における議論を通して作業部会の評価理由を探ってきました。
それは、作業部会の評価が協議会の提言をベースにして進められていたから。
今回取り扱った交通アクセスはその意味で前回・前々回とは異なります。
協議会では、各候補地について様々なアクセス手段を個別評価する方法がとられました。
最終的な評価結果と評価基準等を簡単にまとめると次のとおり。
さてこの評価ですが、はっきり言って穴だらけの評価です。
その理由を文章にすると長くなるので画像1個でまとめてみました。
これらの問題点(一部)の根底にあるのは2つの失敗です。
1つ目は評価目的を見失ったこと。
協議会には、なんのために交通アクセス評価するのかという議論が致命的に欠けていました。
例えばアクセス利便性ではなくアクセス機能数で評価しているも問題の一つでしょう。
それはそれで重要な場合もあるでしょうが、それはここでやる話ではありません。
交通アクセスが重視されるのは観客がいる定期興業を前提としているから。
そして、現在地で観客がアクセスを理由に観戦を避けたり円滑な退場ができていないから。
それを踏まえて検討していればこのような評価は出てこなかったはずです。
手段と目的が入れ替わった典型的なケースでした。
2つ目の問題点は、評価軸をしっかりと議論していなかったことです。
これは他の評価にも言えるのですが、何故こういう評価をしたのかという根拠が薄い。
そういった議論を怠った結果、後から見ても何をどう比較したのか分からない。
そんな資料ができあがっているのだと思います。
このように、協議会における交通アクセスの検討は散々なものでした。
協議会には交通の専門家がいたにもかかわらずこの結果は非常に残念です。
作業部会が協議会の交通アクセス検討について検証したという記録は見当たりません。
検証内容が個別的な評価方法ではなく総合的な評価方法であること。
そして、詳細な検証内容*18を確認しても協議会の検討内容とは似ても似つかないものです。
つまり、現在の交通アクセス評価は作業部会(とプロポーザル調査)の出したものを見るべきであり、協議会における交通アクセス評価は完全に無視していいということでしょう。
これが今回協議会の話を一切しなかった理由でした。
終わり。
*1:サッカースタジアムの検討に係るトップ会談の開催結果について《広島県総務委員会提出資料 2015年7月27日》
*2:自動車利用について「現段階では考慮しない」(前掲注1)とあるが、2016年3月現在で考慮された形跡はない。
*4:前掲注1参照。
*5:宇品地区交通対策検討業務に係る公募型プロポーザルの選定結果について《広島県 2015年10月9日付》
*6:サッカースタジアムの検討に係る検証作業の実施状況について《広島県総務委員会机上配布資料 2016年2月16日》によると、3万人来場時の場合も1.8万人来場時の場合も広島市道霞庚午線周辺では混雑状態が発生する。しかし、交差点改良などのハード対策は困難であるため、広島高速の利用促進や退路誘導により混雑解消を図る必要があるとしている。
*7:サッカースタジアム整備の検討について《広島県 知事記者会見(平成28年2月16日)》
*8:広島電鉄で広く採用されているいすゞ自動車㈱の大型ノンステップバスを基準として考えると定員は70~80人と考えられる。参考にしたサイトとして、ERGA/ERGAmio 大型・中型 路線 CNG(天然ガス)車 ノンステップ《いすゞ自動車㈱HP》、東西交通軸の事業性検討について《大阪府堺市HP 第5回堺市都心交通検討会議資料②》など。
*9:前掲したグーグルマップによるルート計算による。なお片道の所要時間は、観音マリーナが約12分、アルパークが約10分、広島駅が約18分、イオンモール広島府中が約14分だった。他の経路を選択する場合は検討しておらず、渋滞などの道路状況や乗降車にかかる時間などは考慮していない。
*10:アルパーク発着のシャトルバスについては2008年途中から廃止されている(2008年開催の第3回サポーターズカンファレンス議事録より)。確認できる範囲で2008年3月23日(日)のJ2第4節水戸戦まで運行していた。
*11:広島駅発着のシャトルバスについては2008年開催の第4回サポーターズカンファレンス及び2016年開催の第14回サポーターズカンファレンスで取り上げられている。
*12:内訳は1号線(広島駅行き)が8便、3号線(西広島駅行き)が7便、5号線(広島駅行き)10便。参考にしたサイトとして、広島港|電車情報:電停ガイド《広島電鉄》
*13:軌道運転規則第46条。なお、第2条1項但し書きにおいて「ただし、特別の事由がある場合には、国土交通大臣の許可を受けて、この規則の定めるところによらないことができる。」とされていることから不可能ではないと考えられる。しかし、許諾を得られ、円滑な運用が可能である根拠を示す必要がある。
*14:正確には2999台。これ以外の組み合わせだった場合、どういう計算をしたのか分からない。
*15:前掲注6参照。
*16:正確には3万人来場の場合は27.6%の人が自動車を利用し、1.8万人来場の場合は15.3%の人が自動車で来場する前提で試算している。前掲注6参照。
*17:マイカー利用率は近年公表されていないが、2007年シーズンは約50%、2008年シーズンは約60%、2010年シーズンは約44%、2011年シーズンは約48%だった。すべてサポーターズカンファレンスの議事録(第3回、第4回、第7回、第8回)より。
*18:前掲注1参照。