スタジアム候補地としてみなと公園が「優位」とされたワケ その1(総論)
サッカースタジアム整備の検討について
《広島県 知事記者会見(平成28年2月16日)》
(TSS)
すみません,TSS若木です。サッカースタジアムの建設候補地の問題で,今日常任委員会の方でみなと公園の周辺の交通量調査の結果が公表されたんですけれども,一定の渋滞緩和は可能という分析結果が出ていますけれども,改めてこの結果を受けて,知事としてまだ協議は続くとは思うんですけれども,もともとみなと公園優位という結果を3者〔広島県,広島市,商工会議所〕でも出されている中,さらに一歩優位というふうになるというふうに受け止められているか,そこら辺の考えを伺えますか。
(答)
もともとこの2か所〔旧市民球場跡地とみなと公園〕の検討を進めてきたところで,ご指摘があったように商工会議所,経済界とそれから〔広島〕市と県でみなと公園優位という結論を出していまして,何故そこで決めきれなかったかというと,交通の問題があって,それについては確かにしっかりと調査をする必要があろうということで調査を進めてきたところであります。そういう意味で交通の問題について一定の目途が立ってきたということはありますので,この方向性としてはみなと公園優位というところは強まっていると認識しております。結論は3月いっぱいに出します。
(TSS)
じゃあ,ある程度県としては〔みなと公園〕優位の方向性で知事としてもお考えなのでしょうか。
(答)
そのように認識をしています。
先日、湯崎県知事の「みなと公園の優位が強まった」というコメントが物議を醸しました。
インターネット上では何故だという意見が散見されたこの結論。
しかし、スタジアム問題を注視してきた人間からすればある意味予想通りの結論でした。
ただし、それはみなと公園の方が球場跡地よりも優位だからではありません。
これまでの議論を見ていればそういう結論を出すであろうと容易に予想できたからです。
では、一体どうしてみなと公園が「優位」などという結論が出ることになったのか。
本当にみなと公園の方が球場跡地より優位なのか。
今回はこの点に焦点を当てて見ていくことにしましょう。
第一回目は総論について言及していきます。
[Ⅰ]広島におけるサッカースタジアム議論の現在地
冒頭で紹介した知事の発言は2015年7月のトップ会談で議論した内容と、現在作業部会が取りまとめている内容をもとにしたものです。
しかし、そもそもトップ会談とは、作業部会とはなんなのでしょうか。
どういった目的・経緯で設置されているのかも確認しておく必要があるはずです。
というわけで、まずはこれまでのサッカースタジアム議論の流れを確認しておきましょう。
ただ、文字で説明すると長くなってしまうので年表を画像にしてみました*1。
サッカースタジアム検討協議会(以下、「協議会」という。)に関わる事象は特に重要なポイントなので背景を緑色にしてあります。
現在のサッカースタジアム建設議論の興りは2012年。
サッカー三団体が協調してスタジアム運動を始めたこととサンフレッチェ初優勝にあります。
その翌年、協議会が発足し、2年弱の議論を経て最終とりまとめを報告。
それを受けて市、県、商工会議所による作業部会が現在検討を続けています。
冒頭の知事発言の大元は作業部会の報告を受けて開催した2015年7月のトップ会談。
そして、その後実施したプロポーザル調査の途中経過報告を受けてのものだと考えられます。
したがって、みなと公園が「優位」であるという根拠を知るためには作業部会(プロポーザル調査)の成果物とトップ会談の議論内容を確認する必要があるのです。
[Ⅱ]2015年7月のトップ会談で議論されたこと
それでは、2015年7月のトップ会談で何が議論されたのかを確認することとしましょう。
当日配布された資料では、作業部会が検討した以下の5項目について報告が上がったようです。
このように、交通アクセスを除いた4項目でみなと公園が「優位」と考えられているようです。
すでに色々と突っ込みたいことはあると思いますが、それは次回以降の各論で。
さて、この資料をもとにトップ会談でどのような議論を経て「優位」とされたのでしょうか。
実は、トップ会談の発言概要等は公的文書として残っていません。
そのため市長、県知事、商工会議所会頭が何を重視したかは不明な点が多いのです。
ただ、当時の報道をもとにすると次のポイントが議題に上がったことが分かります。
概ね配付資料と差異はありませんから配付資料に従って議論されたと考えて良さそうです。
したがって、みなと公園が「優位」とされる根拠は上記5項目。
すなわち、①スタジアム規模、②多機能化・複合開発、③交通アクセス、④まちづくり及び都市圏への波及効果、⑤サッカースタジアムの特殊工事費等の5つを確認する必要があります。
[Ⅲ]なぜ5つの評価項目がピックアップされたのか
次に問題となるのは「なぜこの5項目なのか」ということです。
上記配付資料では「協議会の提言の中で示された課題の検証」と記述されています。
前述したように作業部会設置の経緯を考えても協議会の議論が前提となっているはずです。
実際、協議会の最終とりまとめで示された評価項目にこの5項目は存在します。
最終とりまとめを持ってくると長い文章になるのでとりまとめ前の画像を拝借。
43) #サカスタ協議会19
— ちょっつ☆☆☆ (@chottu_LB) December 11, 2014
<編注>
この結果から、「中央公園」のコスト性の評価が○から◎に変更され、その影響でAHPを加味した総合評価も数値が変わっていたということでした。最終的な候補地別評価表はこれ。 pic.twitter.com/GtHlMTzXvp
協議会ではこのように11項目を候補地の比較要素として用意しました。
この11項目に絞られた経緯にも微妙なものがあるのですが、今回は脇に置きます。
この中で5つの評価項目をピックアップした理由…はっきり言って全く分かりません。
「協議会の提言の中で示された課題」にこの5項目も確かに入っているのでしょう。
しかし、最終とりまとめにおける課題がこの5点であるという記述は見当たりません*2。
もっと言うと課題点だけを比較するというのも変な話です。
もちろんこの5項目がスタジアム建設において重要なポイントなのは間違いありません。
一方、周辺機能との連携や迅速性などが軽視される理由もまたないはずです。
もしかしたら、これらの項目についても検証されているのかもしれません。
しかし、困ったことに作業部会で何が検討されたかは不明なのです。
都合のいい評価を出すために評価項目を絞ったのではないか。
そういう批判をされても仕方がないような検討過程と言われても仕方ありません。
これは検討する上で大きな瑕疵なのではないでしょうか。
[Ⅳ]幕間=総論の結びに代えて
ここまで「なぜみなと公園が優位とされたのか」という話の大枠を見てきました。
要点をまとめると、作業部会で示された5つの評価項目に沿って優位性の判断が行われた。
そして5つの評価項目が抽出された根拠は判然としないということが分かりました。
こうした不透明な議論の進め方が今の混迷をもたらしているのではないでしょうか。
総論は今回で終わりにして次回からは各論に入っていきます。
5つの評価項目が仮に問題ないとして、それらの評価は妥当であるのかどうか。
中編ぐらいの少し長いシリーズになりますがお付き合いいただければ幸いです。
*1:広島みなと公園振興会の陳情及び、港湾業者に対して実施した意見交換会が抜けていたので修正して差し替えた。(差し替え日:2016年3月24日)
*2:最終とりまとめの評価項目の中で主たるものとして記述されている4項目(5-1アクセス性(交通アクセス)、5-2付加する機能(多機能化・複合開発)、5-3コスト性(収支計画)、5-4経済やまちづくりへの波及効果)を中心に取り上げた可能性も検討したが、規模に係る評価項目である用地条件はその他扱いされていること。また、前述した4項目についても一部のみが抽出されている(例えば収支計画や経済波及効果については2015年7月のトップ会談配付資料で言及されていない)ことから納得できる理由ではない。