la vie en violette

サンフレッチェとサッカーに染まった日々

スタジアム候補地としてみなと公園が「優位」とされたワケ その3(複合開発・多機能化)

第3回目は複合開発と多機能化について。
スタジアム規模と並んで長めの説明となっています。


awayisum.hateblo.jp



[Ⅰ]複合開発・多機能化についての作業部会の評価

前回と同じようにまずは作業部会における評価を確認します*1

この評価をぱっと見ただけで違和感を感じる人は少ないでしょう。
私自身、この評価結果そのものに文句を付けるつもりはありません。

みなと公園の方が敷地面積に余裕があるというのは間違いなく強み。
一方、敷地面積の狭い旧広島市民球場跡地がそこで弱みを持つのは自然なことです。


問題は、評価結果ではなく複合開発・多機能化の評価における評価軸
評価軸がどのようなもので、どういった議論・根拠を経て設定されたのか。

順番に見ていくことにしましょう。

[Ⅱ]スタジアムの多機能化と複合開発との違い

まず最初に行いたいのは用語の定義です。
そもそも「多機能化」と「複合開発」とはどういったもので、どう違うのでしょうか。

第6回協議会でその点について政策投資銀行から説明があったようです。


https://twitter.com/chottu_LB/status/438701621027950595

https://twitter.com/chottu_LB/status/438701872761679872


多機能化とは、スタジアムの内部を多機能にするもの。
鹿島スタジアムのフィットネスクラブノエビアスタジアムのレストランなどが該当します。

一方、複合開発とはスタジアムを中心に据えた都市開発をいいます。
ショッピングセンターを併設したアムステルダム・アレナなどが有名ですね。
これは以前弊ブログで解説しましたスタ街の考え方に非常に近いものでしょう。


awayisum.hateblo.jp


Jリーグやサンフレッチェ広島のスタジアム動画にも参考になりそうなものがありました。


《Jリーグ及びサンフレッチェ広島のスタジアム動画より》


このように、「多機能化」と「複合開発」は別物なのです。

[Ⅲ]なぜ付加機能(多機能化・複合開発)が必要となのか

次に、なぜ付加機能がスタジアム建設における重要なファクターとされているのでしょうか。

協議会において初めて付加機能の話題が登場したのは第4回協議会。
Jリーグの海外スタジアム視察報告書をもとに作られた複合機能事例について確認しました。


《第4回サッカースタジアム検討協議会 配付資料3》


この資料を基に活発に議論がされたという記録はありません。
ただ、付加機能に収益性という評価軸が生まれたの一つのきっかけでしょう*2


一方、協議会において付加機能に求める役割は各委員で異なっていました。
スタジアムの稼働率を高めるためだという意見もあれば*3、スタジアムの収益性確保を訴える意見もあり*4、新たな利用方法の創出を期待する意見もありました*5


そんな中、協議会は付加機能の議論については次のような方針で進めることにしたようです。


https://twitter.com/chottu_LB/status/390103263552757760

https://twitter.com/chottu_LB/status/390103766441009154


中間とりまとめも、議論の流れを踏まえて次のような記述になっています。

3 議論の内容
《広島に相応しいサッカースタジアムについて(中間取りまとめ) 6ページ》


(3) サッカースタジアムの規模・設備、複合機能化等
 さらに、これらについて議論し、サッカースタジアムを整備する場合に、他の機能を付加して、複合機能を持たせることは、まちの活性化スタジアム経営の観点から重要な要素であるとの認識を、各委員が共有した。


付加機能を必要とする根拠の一つはスタジアム経営を健全化させるため。
そしてもう一つがまちの活性化、まちづくりに寄与することであることが分かります。


その後も色々な意見が出ましたが、大きな転機となったのは第15回。
ここで突然付加機能の評価基準が収益性に限定されました。

これはコンサルタント業者に委託する際の調査業務仕様書にも記載されていません*6


https://twitter.com/chottu_LB/status/516214504510599168


たしかに収益性も付加機能の評価基準となり得る観点です。
しかし前述したように他にも評価基準となる意見があり、収益性に限定する理由はないはず。

そもそも評価基準設定の基礎となる議論をやった形跡すらないのはどうなのでしょう。

当然これに対する反対意見がもありましたが*7、結論から言うと採用されませんでした。
あくまでも「協議会」において付加機能はスタジアムの収益性確保のための機能なのです。

[Ⅳ]「収益性」という言葉のマジック

そして、協議会は収益性のある付加機能を整備できるか否かが議論の中心になりました。
そこでボトルネックとなってくるのが敷地面積と都市公園法です。


多機能化は前述したようにスタジアム内部の問題。
一方、複合開発とはスタジアム外も含めた開発を意味します。
そうなると複合開発を行うのであれば敷地面積は広ければ広い方がいいでしょう。


また、収益性を確保できる施設というものは基本的に都市公園法と相反します。
細かい話は長くなるので割愛しますが、例えばショッピングモールなどは作れません。

旧広島市民球場跡地利用の提案募集資料が非常に分かりやすいですね。


web.archive.org



以上を踏まえると球場跡地の評価が下がり、みなと公園の評価が上がるのは当然の話です。


ただし、大事なことを忘れてはいけません。
収益は、無から有を作り出すように複合開発すれば勝手に湧くようなものではないのです。

その地域のニーズや競合情報、投資回収等の議論なしに進められるものではありません。


https://twitter.com/chottu_LB/status/535409234196692993

https://twitter.com/chottu_LB/status/543004302722080768


だからこそ上記のような反論が出るのも当然のことだと私は思います。


協議会は「収益性」という言葉で表現していますが、もう少し突っ込むべきです。
すなわち、ここでいう収益性とは収益実現性ではなく、収益可能性であると。

もちろん可能性があるということも比較する上で一つの加点要素でしょう。
しかし、付加機能を収益性の確保のための機能と位置付けたのであれば、収益実現性がある程度担保されるくらい議論を深めなければ評価基準にできないのではないでしょうか。


収益性の議論をするのであれば建設費・維持管理費の議論を避けるべきではありません。
仮に民間企業が整備するとするならば最低限スキームを作成するべきですし、本当に民間企業がお金を出せるのかの分析(例えば5フォース分析*8)をしなければ机上の空論でしょう。


スタジアムを造ったが収益性の面で問題がある。
だから付加機能を付けたが、そちらも赤字になっていて困っている。

そんなの本末転倒でしょう?

[Ⅴ]まとめ=致命的に欠けていた評価軸の議論

今回は特に複合開発にスポットを当ててみなと公園が優位とされた理由を探ってみました。

簡潔にまとめるとポイントは次の3つ。

  • 協議会において、多機能化・複合開発はスタジアムの収益性を補うために行う
  • したがって収益性のある付加機能の設置が可能であることが評価ポイント
  • なお、収益性とは収益実現性ではなく収益可能性を意味する


複合開発をするのであれば敷地面積が広いみなと公園が「優位」なのは間違いない事実です。
しかし、どのように比較をするかという評価軸はもっと重要視されるべきでした。


スタジアムに付加機能を持たせる必要性とはいったい何か。
その議論をなおざりにするから付加機能が必須という手段の目的化が起きてしまった

私にはそのように思えてなりません。


協議会に致命的に欠けていたのは前提条件や評価基準を決める議論でした。
他の議論にも共通して言えることですが、あまりにも議論が浅い。

だからこそ、仮に広島みなと公園が「優位」だとしても納得しにくいのだと思います。


また、各候補地それぞれの特性を考えれば球場跡地でも別の視点が生まれたはずです。
サンフレッチェ広島の提唱する「中心街区ゆえのハブ機能」はまさにそれ。


「Hiroshima Peace Memorial Stadium」(仮)建設案より》


画一的なスタジアム案よりも各候補地の特性を生かすことが最重要。
利害関係者や市民・県民の心を動かすためにも以上の空論ではダメなのです。

私はこの発想をみなと公園案にも同じように求めます。


次回は交通アクセスについて。
お付き合いいただければ幸いです。



*1:サッカースタジアムの検討に係るトップ会談の開催結果について《広島県総務委員会提出資料 2015年7月27日》

*2:他に、第5回協議会で中国新聞の海外スタジアム事例の特集が取り上げられた。そちらも影響の一端。

*3:第17回の川平委員の発言

*4:第13回の加藤厚海委員の発言

*5:第4回の鵜野委員の発言

*6:サッカースタジアム検討に係る調査業務仕様書の5ページに多機能化・複合開発についての委託業務内容が記述されている。

*7:例えば、第15回の小谷野委員の発言第16回の加藤義明委員の発言

*8:マーケティング上の分析の1つで、市場をライバル企業、新規参入、代替品、消費者の交渉力、供給者の交渉力の5つにモデル化してその市場の魅力や可能性などを分析する手法。5フォース分析とは?|E.M.ポーターの競争戦略論《FOOLINE 2014年04月26日付》