第11回サポカン ~年間シーズンパスシーズン年間シートを是非ご購入ください~
本稿は、前回同様サポーターズ・カンファレンスについて。
20日に開催されるシンポジウムになんとか間に合わせることができました。
《サンフレッチェ広島より》
2013年シーズン中に開催された第11回サポカンは例年になく話題豊富。
ポストシーズンや経営面、スタジアム問題など注目点が多かったことが主な理由でしょう。
また、今回のサポカンでサポーター側が特に驚いたのは議事録作成の早さ。
7月20日に開催されたものが26日には公開されていました。
このあたりからも小谷野社長の色を見ることが出来ますね。
さて、細かい内容については他ブログに譲り、今回も1点に絞って色々と調べてみました。
今回のテーマは「年間パスと入場料収入」について。
inhale-sanfrecce.cocolog-nifty.com
blog.domesoccer.jp
[Ⅰ]喫緊の課題は年間パスの販売数
早速ですが、今回のテーマについて小谷野社長のコメントを見てみましょう。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
【観客動員について】
また、「クラブ経営上の一番の課題は何か」というサポーターの方々からの質問に答えるならば、喫緊の課題としては、個人観客向けのシーズンパスの売り上げが伸び悩んでいることが、経営の安定性という観点からは依然として大きな課題です。
第11回サポカンで小谷野社長が喫緊の課題としてあげたのが年間パスの販売数。
年間パスとは、特定の座席で1年間試合観戦することができる年間パスポートのこと*1。
サンフレッチェではハーフシーズンパスというものも販売しています。
ところで、なぜ年間パスの販売がクラブ経営上重要なのでしょうか。
1点目は使用の有無にかかわらず入場料収入を確保できる点にあります。
見に行けない試合のチケットを買う人はいませんが、年間パスではそこまで考えない。
他のイベント等によって観客が減少する試合があっても収入は減りません。
2点目はまとまった金額を早期に取得できること。
年間パスは、入場料収入を前払いで受け取っているのと同じこと。
その金額も大きいため早期に手元資金が確保できるという利点があります。
現在、年間パスの販売価格は通常の入場料の半額程度であり、収入金額では劣ります。
それでも、上記のような理由から積極的に販売数を増やしたいと考えているのでしょう。
また、小谷野社長は年間パスの販売数が物足りないと考えているようです*2。
1)クラブについて(小谷野薫社長)
《第11回サポーターズカンファレンス議事録》
【観客動員について】
クラブ史上初めて4,500枚の大台に乗りましたが、大抵のJリーグ優勝クラブで、翌年のシーズンパスは6,000枚程度を販売しています。また、他のJクラブですとシーズンパスとレプリカ・ユニフォームの販売数は大体同じくらいです。今年はJリーグとACLとで2着ご購入いただいたサポーターの方もいらっしゃいますが、それを考慮しても約7,000人がレプリカ・ユニフォームを購入している。うちのシーズンパスの販売数は、スタジアムの立地条件など色々考えてもやはり物足りないなと私は考えています。また、シーズン後半に向けてのハーフ・シーズンパスも売れていない訳ではありませんが、われわれの見込みほどではないという事実もあります。
では他クラブの販売数はどうなっているのか。
資料は多くありませんでしたが、1つだけ明確に数字が分かるものがありました。
それは昨年J'sGOALで企画されたJ2天下取り物語です。
(J'sGOALより)
リーグ戦の勝敗だけでなく観客数や年間パスの販売数でも争うという希有な企画。
甲府と大分がこのイベントの主役ですが、甲府が8093枚、大分が6928枚売り上げました。
(J'sGOALより)
過年度を見ても両チームは7000枚を超える年が圧倒的に多い状況。
昨年の入場者数を見ると、甲府は総入場者数が218,539人で1試合平均10,407人*3。
大分は総入場者数が204,134人で1試合平均9,721人となっています*4。
これに対してサンフレッチェ広島の総入場者数は301,249人で1試合平均17,721人。
観客数は圧倒的に上回っているのに年間パスの販売数では大きく下回っているのです*5。
これは深刻な事態だと言えるのではないでしょうか。
[Ⅱ]サンフレッチェ広島の経営成績
続いてサンフレッチェの経営成績に目を向けてみたいと思います。
次の表はJリーグが2005年度から毎年公開しているJクラブ個別経営情報開示資料を元に作成したサンフレッチェ広島の経営成績及び財政状態です*6。
《Jクラブ個別経営情報開示資料を元に作成》
この表の当期純利益の欄を左右に見てもらえれば分かるように8期中5期で赤字。
純資産の部・利益剰余金は昨季を除いて累積損失で真っ赤になっています。
この要因としては2006年の降格回避、2007年の降格などが挙げられるでしょう。
1992年度以後21期で赤字となったのは実に11期と半分以上。
継続企業の前提に疑義をもたれても仕方ない現状だと言えます。
これらを解消するために、本谷前社長のもとでの減資+増資が必要でした。
さて、Jクラブの収益構造は一般的に3つの柱から成り立っていると言われます。
すなわち、広告料収入、入場料収入、そしてJリーグ配分金。
このうち、Jリーグ配分金に関してはクラブ経営だけではどうしようもないファクターが絡むため、クラブは広告料収入と入場料収入の確保に大部分の力を注ぐことになります。
先ほどの資料から広告料収入だけを引っ張ってきたグラフがこちら。
《Jクラブ個別経営情報開示資料を元に作成》
J全体は緩やかに減少傾向である中、サンフレッチェは広告料収入で健闘。
特に2011年度、2012年度は平均値を上回っています。
一方、入場料収入に着目して作成したグラフがこちら。
《Jクラブ個別経営情報開示資料を元に作成》
サンフレッチェの入場料収入は間違いなく増加傾向。
しかしながら入場料収入ではJ1平均には遠く及ばないというのが現実。
この状況からも入場料収入のテコ入れが必要だと考えられます。
[Ⅲ]サンフレッチェの入場料収入は実態を反映しているのか?
Jクラブ個別経営情報開示資料は各クラブの財務諸表を元に作成されているはずです。
しかしながら中国新聞に掲載される記事と数字が一致しないことが度々ありました。
それが最も顕著だったのは2011年の記事。
サンフレ、赤字に転落 10年度決算 スポンサー収入減
《中国新聞 2011年4月28日30面》
売上高は1億2300万円減の26億500万円。スポンサー収入が1億3200万円、移籍金収入が6500万円減ったことが響いた。一方で選手スタッフ人件費は5千万円増えた。入場料収入は前期並みの4億4200万円だった。
2010年度の個別経営情報開示資料では入場料収入は5億6000万円を記録しています。
売上高、スポンサー収入は一致しているにも関わらず入場料収入だけ異なる。
また、2009年度、2011年度、2012年度も入場料収入だけ違う数字でした*7。
この原因はサンフレッチェ独自の経理方法によるものだと考えられないでしょうか。
サンフレ黒字 経費削減で7期ぶり
《中国新聞 2001年5月16日30面》
利益を示す経常損益は前期四千三百万円の損失から、千九百万円の黒字に転じた。今決算から招待券入場者を収入、販売促進経費の双方計上に変更し、売上高も十七億三千六百万円と前期比九・四%増えた。
この経理方法による影響だと考えると、差額は無料招待券による入場料収入。
すなわち、入場料収入の実態はもっと下方修正されるべきだと言うことになります。
この仮説に従えば2009年度は約1億1800万円が無料招待券によるもの。
入場料収入全体の20~30%程度を占める計算になりました。
入場料収入の問題は根が深いような気がしてきます。
[Ⅳ]おわりに=何故年間パスが売れないのか
ここまで年間パスの販売と入場料収入の問題についてまとめました。
簡単に要約すると次の通り。
入場料収入問題を解決する1つの方法は年間パスの販売数を増やすことでしょう。
ここで気になってくるのはそもそも何故年間パスが売れないのか。
考えられるのは年間パスがお得ではない、割高だと感じられている可能性。
2011年に各クラブの年間パスについて調べていたブログがありました。
deepestblueandblack1997.at.webry.info
この資料を見る限りでは特別割高という印象は受けません。
チケット価格でもサンフレッチェが他クラブとして高いという印象もないでしょう。
では何故年間パスが売れないのか。
もちろん、クラブの努力が足りないという指摘もあるかと思います。
当時J2の甲府や大分と比べて販売数が劣るというのは言い訳ができません。
それと同時に販売するソフトの中身に付いての言及も必要です。
すなわち、年間パスを購入して得られる権利が価格に見合わないのではないか。
前半でも述べたように年間パスのメリットは使用の有無にかかわらず収益が上がること。
これは逆に考えれば使用しない可能性が高ければ割高になることを意味します。
キックオフ時間に間に合わない立地
雨が降るとずぶ濡れになる環境
その日のうちに帰宅できるか分からないアクセス
そういったネガティブな要素が年間パスの販売数を阻害しているのではないか。
そう想像するのは難くありません。
そうはいっても1年2年でスタジアムが出来るかというと、微妙。
私たちサポーターがするべきことは監督を見習って地道にファンを増やすことです。
新スタジアムが出来るまで。そして、できてからもやることは変わらないのです。
*1:近年、ルヴァンカップの決勝トーナメントなど適用対象外の試合も増えている。
*2:紫熊倶楽部でも同様の指摘をしている。中野和也「小谷野薫代表取締役ロングインタビュー 厳しい経営環境打破のためにも、平和都市・広島の街づくりのためにも旧市民球場跡地にスタジアムが必要です」紫熊倶楽部187巻(2013)。
*3:観客数はリーグ戦に限る。以下、大分と広島も同じ。
*4:ただし、大分はこの年J2に所属していた。
*5:なお、2011年シーズンの入場者数でも広島の方が両チームより上となっている。
*6:なお、2011年度前と以後では表示科目に若干の違いがある。
*7:2009年度~2011年度は全て公表された数値よりも新聞報道の数字の方が少ない。サンフレッチェ広島 2009年2月~2010年1月決算 2期ぶり黒字 J1復帰 広告収入増《中国新聞 2010年4月27日28面》、株主総会 サンフレッチェ広島赤字大幅縮小 広告収入2億2700万円増《中国新聞 2012年4月27日29面》。しかし、2012年度は逆に新聞報道の方が多いため、以下の仮説は確実ではない。公開資料の表示科目の中身が変わった可能性も考えられる。サンフレッチェ広島12年度決算 V効果 2億2200万円黒字 グッズ・観客動員とも増加《2013年4月13日28面》。