本当にサンフレッチェはACLでメンバーを落としたのか(2013ACL小括)
サンフレッチェ広島の冒険、ACL2013は4月30日に終了。
昨年度リーグ王者として臨んだ大会でしたが、前回出場より結果は悪いもの。
3分3敗、ホームでの得点なしというスコアが残りました。
この結果に対して厳しい声もあれば擁護する声も見かけます。
「恥ずかしい」「辞退しろ」「勝つ気があるのか」「手を抜いた」
「仕方ない」「悔しいがよく頑張った」「監督・クラブを信じよう」
様々な立場からいろいろな主張があることでしょう。
ただ、1点だけはっきりとさせておかないといけないと感じたことがあります。
タイトル通り「本当にサンフレッチェはACLでメンバーを落としたのか」ということです。
結論から言えば、私はメンバーを落としたと考えています。
しかし、克喜がなかったというような批判には反論したい。
メンバーを落としたのにはメンバーを落とさざるを得ない事情があったからなのです。
現在広がっている批判や評価には前提となる情報の欠けたものが多く見受けられます。
批判・評価するならまず前提がしっかりとしていないと始まりません。
本稿は、その議論の下地となるべき情報を備忘録としてまとめたものです。
[Ⅰ]選手の出場状況の調査
今回調査した対象はACL2013 グループリーグ第1節~第4節の試合結果です。
第5節以降を調査の対象から外しているのは 第4節の結果をもって敗退が決定したため。
そして、出場状況を調べる上で参考にしたのは以下のサイトです。
①ACL2013 GL第1節 ブニョドコル戦(HOME)
◆試合の概要
日時:2月27日(水) 19時キックオフ
会場:広島広域公園陸上競技場
2月23日(土) に国立競技場で優勝したゼロックススーパーカップ・柏戦から中3日。
更に3日後の3月2日(土) には浦和とのリーグ開幕戦(エディオンスタジアム)が控えています。
この試合に影響したと考えられる故障者情報は次の2件。
実際に、ミキッチもファンソッコもこの試合ではベンチ外になっていました。
ミキッチ選手の負傷について
《サンフレッチェ広島 2013年2月14日付》
診断名 左肩鎖関節捻挫
全治 3週間
備考 ミキッチ選手は、2月13日(水)に行われたトレーニングマッチvs.ベガルタ仙台にて負傷。宮崎市内の病院で検査を受けた結果、左肩鎖関節捻挫と診断されました。
ファン・ソッコ選手の負傷について
《サンフレッチェ広島 2013年2月14日付》
診断名 右ハムストリング肉離れ
全治 4週間
備考 ファン・ソッコ選手は、韓国代表の英国遠征中、右ハムストリングに痛みを訴えて別メニュー調整をし、チームに合流しました。一度、トレーニングに復帰しましたが、脚を伸ばした際に痛みを感じたため、宮崎市内の病院にて検査を行った結果、右ハムストリング肉離れと診断されました。
◆出場メンバー
《footballtactics.netで作成》
【途中交代】
68分 高萩洋次郎→森崎浩司
76分 山岸智→清水航平
80分 岡本知剛→中島浩司
(注記)
紫色マーカーの選手:ゼロックススーパーカップに先発出場した
緑色マーカーの選手:ゼロックススーパーカップに途中出場した
黄色マーカーの選手:ゼロックススーパーカップに出場していない
名前が水色で表示されているベンチ入り選手:ゼロックススーパーカップに先発出場していた
◆補足・検証
直近のゼロックススーパーカップから3人を入れ替えて臨んだ試合。
ベンチに置いた森崎和幸は出場させず、途中交代にも中島浩司を起用しました。
また、森崎浩司の途中出場も高萩洋次郎が内転筋を痛めたことが理由*1。
高萩の故障がなければ交代は別の形だったかもしれません。
一方、代わってスタメン出場した選手について。
3人とも「若手」というよりは「経験のある選手」という表現が正しい選手でしょう。
昨シーズン、石原直樹は32試合、岡本知剛は26試合、中島は2試合に出場。
試合時間でいえば、石原は1784分、岡本は2163分、中島は88分。
中島は試合出場こそ少ないものの、22試合でベンチ入りしています。
【AFCチャンピオンズリーグ2013 広島 vs ブニョドコル】森保一監督(広島)記者会見コメント
《J's GOALアーカイブ 2013年2月27日付》
●森保一監督(広島):
Q:選手をゼロックスの時とは何人か入れ替えましたが、それはコンディションをにらんでのこと?
「そうですね。コンディションのことを考えて、よりフレッシュな選手を投入しました。替わって入った選手たちは、キャンプからいい動きをしていたし、トレーニングでも力を発揮していた。試合でも活躍してくれる、やってくれると信じて起用しました。もちろん、彼らは頑張ってくれていましたが、だからこそチームとして結果が出なかったことが残念です」
また、ゼロックススーパーカップで左膝を負傷し*2、途中交代した佐藤寿人も先発フル出場。
ACL緒戦に関していえばコンディションを重視したと考えるのが妥当ではないでしょうか。
②ACL2013 GL第2節 北京国安戦(AWAY)
◆試合の概要
日時:3月13日(水) 19時30分キックオフ
会場:北京工人体育場
4日前の3月9日(土)にアウェイ新潟に乗り込んでリーグ戦初勝利をあげました。
翌週のリーグ戦はACLの影響で日曜日に変更され、中3日で鹿島とホームで対戦します。
佐藤寿人が新潟戦で再び負傷したため遠征には帯同せず*3。
前節同様ミキッチ、ファンソッコに加えて高萩洋次郎も長期離脱したまま試合に臨みました。
◆出場メンバー
《footballtactics.netで作成》
【途中交代】
68分 清水航平→イデホン
84分 石川大徳→山岸智
(注記)
紫色マーカーの選手:新潟戦に先発出場した
白色マーカーの選手:新潟戦に先発出場したがポジションが異なる
緑色マーカーの選手:新潟戦に途中出場した
黄色マーカーの選手:新潟戦に先発出場していない
名前が水色で表示されている選手:新潟戦に先発出場していた
◆補足・検証
前述したように、直近のリーグ戦で佐藤寿人が負傷退場。
佐藤寿人と高萩洋次郎という前線の二枚看板が同時に欠けてしまう事態となりました。
そこで、苦肉の策として左サイドの清水航平をシャドーの位置で起用。
しかしこれが裏目に出て、この試合で負傷した清水は全治8週間の長期離脱。
青山敏弘も軽傷ながら足を痛めるなど北京での戦いは楽ではありませんでした*4。
清水航平選手の負傷について
《サンフレッチェ広島 2013年3月14日付》
診断名 右膝内側側副靭帯損傷
全治 8週間
備考 清水航平選手は、3月13日(水)に行われたACLグループG第2戦vs.北京国安にて負傷。本日、広島市内の病院で検査を受けた結果、右膝内側側副靭帯損傷と診断されました。
また、コンディションを考慮して森崎和幸と森崎浩司も帯同していません*5。
空いた席には、井波靖奈、鮫島晃太、二種登録の川辺駿がベンチ入り。
3人とも今シーズン初のベンチ入りとなりました。
離脱者が多かったとはいえ、少しメンバーを落とした布陣だったと言えます。
ただし、森崎兄弟に関しては抱えている持病のことを考慮する必要はあります。
また、アウェイで引き分けることを目標としていた可能性はあるでしょう。
③ACL2013 GL第3節 浦項スティーラーズ戦(HOME)
◆試合の概要
日時:4月2日(火) 19時キックオフ
会場:広島広域公園陸上競技場
3月30日(土) にアウェイで清水と戦って中2日。
週末の4月6日(土)には、中3日で当時首位の横浜F・マリノスとの一戦が控えています。
清水戦ではミキッチと高萩洋次郎が復帰し、即先発起用されました。
また、同じく欠場していた佐藤寿人もその1試合前の鹿島戦で復帰しています。
更にはファンソッコもこの試合でベンチ入りするなどメンバーが戻ってきました。
一方、森崎浩司が練習で負傷して清水戦からメンバー外になっています。
◆出場メンバー
《footballtactics.netで作成》
【途中交代】
13分 青山敏弘→高萩洋次郎
59分 石川大徳→ミキッチ
79分 パクヒョンジン→山岸智
(注記)
紫色マーカーの選手:清水戦に先発出場した
緑色マーカーの選手:清水戦に途中出場した
黄色マーカーの選手:清水戦に先発出場していない
名前が水色で表示されている選手:清水戦に先発出場していた
◆補足・検証
主力の離脱者は清水航平と森崎浩司だけで望んだこの試合。
前半13分にいきなりアクシデントで青山が高萩と交代することになりました。
これまでの2試合と違い、中2日だったためメンバー構成の評価はしにくいところです。
清水戦に先発出場した森崎和幸と途中出場した中島浩司はベンチにも入っていません。
また、負傷から復帰したばかりの高萩、ミキッチ、ファンソッコもベンチスタートでした。
④ACL2013 GL第4節 浦項スティーラーズ戦(AWAY)
◆試合開始前の概要
日時:4月10日(水) 19時30分キックオフ
会場:スティールヤード
4月6日(土)のホーム・マリノス戦から中3日。
更に中3日でホーム・鳥栖戦が控えています。
勝利以外では敗退の可能性がある広島は森崎浩司と清水航平が離脱中。
前節負傷退場した青山はマリノス戦に続いて大事をとってベンチ外でした*6。
◆出場メンバー
《footballtactics.netで作成》
【途中交代】
46分 佐藤寿人→高萩洋次郎
78分 石川大徳→ミキッチ
87分 パクヒョンジン→山岸智
(注記)
紫色マーカーの選手:マリノス戦に先発出場した
白色マーカーの選手:マリノス戦に先発出場したがポジションが異なる
緑色マーカーの選手:マリノス戦に途中出場した
黄色マーカーの選手:マリノス戦に先発出場していない
名前が水色で表示されている選手:マリノス戦に先発出場していた
◆補足・検証
森崎和幸を温存している状況で青山まで離脱したためボランチは岡本と中島。
ミキッチと山岸、高萩も温存したため中盤は石原・岡本以外総取っ替えという状況でした。
また、浦項スティーラーズを相手取るために昨年CWCで用いたリベロ塩谷に変更*7。
塩谷の代わりにファンソッコを右ストッパーに起用する形になっています。
ディフェンスに関しては昨年からのオプションであり、メンバーを落としたとは言えません。
むしろ塩谷の攻撃参加が増えることを見越した攻撃的布陣と言えるでしょう。
[Ⅱ]おわりに ベストメンバーとは
以上が簡単ではありましたがACLの4節までのメンバー構成の簡単なまとめです。
厳密に言うと、今回の記事はメンバーを落としたかどうかの検証ではありません。
なぜなら「何をもってベストメンバーとするか」という定義付けを避けているからです。
たとえばJリーグ規約第42条・同補足基準をもとに考える方法もあるでしょう。
数試合前と数試合後を参考にする方法や昨シーズンの出場実績をもとにする考えもあります。
コンディションや怪我、相性なども加味するべきという声もあるかもしれません。
そのどれが正解とも言いにくい。
なぜなら、現場にいなければ見えないことがあまりにも多いからです。
それでも評価をするのならまずはメンバーを知ることから始めないといけない。
それをせずに批判するというのは、あまりにもアンフェアではないでしょうか。
最後に、少なくとも一サポーターとして「勝つ気がなかった」とは思っていません。
チームとして出せるリソースの中で最大限頑張ったと信じたい
ACLで経験を積んだ選手が台頭することで批判を黙らせることが出来ると信じています。
以上をACL2013の小括にかえて。
*1:【AFCチャンピオンズリーグ2013 広島 vs ブニョドコル】森保一監督(広島)記者会見コメント《J's GOALアーカイブ 2013年2月27日付》
*2:負傷交代も軽傷を強調、寿人「ACLもあるから」《ゲキサカ[講談社] 2013年2月23日付》
*3:【AFCチャンピオンズリーグ2013 北京 vs 広島】プレビュー:厳しいチーム構成を乗り切るには若者の力。白いモヤがけむる北京で、広島は未来を切り開く。《J's GOALアーカイブ 2013年3月13日付》
*4:【AFCチャンピオンズリーグ2013 北京 vs 広島】試合終了後の各選手コメント《J's GOALアーカイブ 2013年3月14日付》
*5:【AFCチャンピオンズリーグ2013 北京 vs 広島】プレビュー:厳しいチーム構成を乗り切るには若者の力。白いモヤがけむる北京で、広島は未来を切り開く。《J's GOALアーカイブ 2013年3月13日付》
*6:【AFCチャンピオンズリーグ2013 浦項 vs 広島】プレビュー:虎のような浦項のプレスを跳ね返し、ACLサバイバルへの権利をつかめ《J's GOALアーカイブ 2013年4月10日付》
*7:[クラブW杯]蔚山現代vs広島 スタメン発表《ゲキサカ[講談社] 2012年12月12日付》