la vie en violette

サンフレッチェとサッカーに染まった日々

スタジアム候補地としてみなと公園が「優位」とされたワケ その2(スタジアム規模と建設費)

それでは今回から各論に入っていきます。


awayisum.hateblo.jp


第2回はスタジアム規模について。最後におまけのような形で建設費についても触れます。
一番大きな問題であることからボリュームもそれなりです。



[Ⅰ]スタジアム規模についての作業部会の評価

まずは作業部会がなぜスタジアム規模について「優位」としたのか理由を確認しましょう*1

建築に関する指摘は門外漢ですので横に置いておくとして。
3万人のスタジアムを建てられるかどうかが優位性比較の基準となっていることが分かります。

なぜ3万人という数字が基準となっているのか。
それは協議会の提言において「3万人が適正」と判断されたからに他なりません*2


協議会において3万人が適正とされた根拠を読み解く際に3つのキーワードが存在します。
すなわち、①スタジアム標準②需要予測③分析上の便宜、の3つです。

この3つのキーワードをもとにスタジアム規模の検証過程を紐解いていきましょう。

[Ⅱ]なぜ3万人が適正とされたのか ①スタジアム標準

スタジアム協議会が収容規模を議論する際にまず参考にしたのがスタジアム標準です。
2010年にJFAが作成したこの標準はJリーグ及び日本代表のスタジアム要件を記したもの。

スタジアム標準には規模(クラス)ごとに開催可能な大会が示されています。

4万人以上のクラスSであればCWCやACLの決勝、A代表の試合も開催可能。
2万~4万人のクラス1であれば年代別代表の試合や皇后杯の決勝を行うことができます*3


クラス2以下は手狭ということで前提から外されたのでしょう*4
その上で、クラスSとクラス1のどちらを選択するかは開催大会によって判断されたようです。



https://twitter.com/chottu_LB/status/382880694927495171

https://twitter.com/chottu_LB/status/483971056302960640


ただし、クラスSを選択しなかった理由について議論された形跡はありません。
代表戦誘致が難事であることを考えれば結果的に正しい選択だったと思いますが。


www.ktjdragon.com


このように協議会では議論を尽くしたとは言えないながらも、国際大会誘致という観点から2万~4万人のクラス1が前提となったわけです。

ここでいう国際大会とはA代表の試合ではなく年代別代表や女子代表の試合ですね。

[Ⅲ]なぜ3万人が適正とされたのか ②需要予測

次に適正規模の議論の鍵となったのは第5回協議会から登場した日本政策投資銀行でした。

政策投資銀行は三浦会長の依頼でスマート・ベニュー等のプレゼンを行っています。
その中でも第6回の説明にあった基本的な考え方が印象的でした。


https://twitter.com/chottu_LB/status/402774704542339072

https://twitter.com/chottu_LB/status/402776714666717184


あくまでも適正規模の決定は需要予測に基づいて行うべきである。
それもピーク時の需要ではなく平均需要を基準に適正規模を決めるべきという説明。

持続可能性のあるスタジアム運営を考えれば納得できる指摘ではないでしょうか。


ピーク時需要をもとにするということは多くの試合が満員にならないことを意味します。

満員のスタジアムがどうして重要になるのか*5
一つはスタジアムの雰囲気に与える影響があります。

多くの人が集まって歌う光景は圧巻です。
例えば仙台のCOUNTRY ROAD、FC東京のYou'll Never Walk Alone、浦和のWe Are REDS。
まさしくサッカー文化がここにあると言えるような臨場感を生み出します

当然それを撮影するテレビ映像や新聞紙面上の印象も良くなります。


wannabeaman.net


もう一つは純粋に経営的な視点。
チケットが完売するということは消費者に飢餓感を生み出すことに繋がります。

チケットが買えないかもしれないとなれば積極的に日程を確認するでしょう。
必然的に注目度も広告効果も上昇することになります。


さらにいえば、需要と供給の均衡点が上がりますから、当然顧客単価も上げられます。
簡単に図示すると、理論的には次のような形になります。

現在の広島広域公園が抱えている問題そのものではないでしょうか。
また、以前東京ヴェルディが移転を検討したこともこの話とリンクする話です。


www.footballchannel.jp


ピーク時の需要、つまり毎試合3万人が入るのであれば間違いなく3万人規模で作るべきです。
しかし、現実はそうではない。開幕戦と最終節あるいは優勝の懸かった試合くらい。

特にプロスポーツは結果が集客に大きな影響を与えると考えられています。
今のピーク時需要が5年後のピーク時需要と変わらないという保証はありません。

以上の理由から私は政策投資銀行の主張する平均需要をもとにする分析を支持します。
協議会でも特に異論がなかったことからこれが前提にされているものだと思っていました。

[Ⅲ]なぜ3万人が適正とされたのか ③分析上の便宜

ここまでスタジアム標準と需要予測から見たスタジアム規模の議論を確認しました。
しかし、「3万人」という数字は具体的にどこから出てきたのでしょうか。

そこで登場するのが「分析上の便宜」というキーワードなのです。
まずは協議会における議論の推移を確認してみましょう。



https://twitter.com/chottu_LB/status/461159130862862336


このように、3万人というのは当初コンサルタント業者に依頼するための便宜上の数字でした。

便宜上の数字で分析し、問題があれば条件を再設定して再検証する。
そういった前提の元で進められていたのですから、再検証するべきだったと思います。
仮に再検証する時間等がないのであればそういう記述の仕方をするのが筋でしょう。


実際反対意見もあったため*6、三浦会長が見直しを示唆したこともありました。


https://twitter.com/chottu_LB/status/535420334808113152


しかし、最終とりまとめではこの見直しは反映されていません。
分析上の便宜でしかなかった3万人という数字が一人歩きしていくことになりました。

[Ⅳ]今現在「3万人」という数字が重要視されている理由

ここまで協議会において「3万人」という数字が登場した経緯を振り返ってきました。
続いて、今現在「3万人」という数字を基準としている根拠を見てみましょう。


協議会の最終とりまとめでは、適正規模について次のように述べられています。

広島に相応しいサッカースタジアムについて(提言)
《広島に相応しいサッカースタジアムについて(提言) 13ページ》


 広島に相応しいサッカースタジアムの規模については、コンセプトにおいて示したとおり、クラス1の国際大会の誘致が可能となることが求められる。また、広島に生まれ育ったサッカーチームのホームスタジアムとして世界に誇れるようなスタジアムとなることも求められる。


 国内他地域のスタジアムよりも国際大会誘致の面で優位性を有するには、3万人規模を超える専用スタジアムが国内に4か所と少ないこと、西日本において3万人規模を超えるスタジアムは、30,132人収容のノエビアスタジアム神戸御崎公園球技場)だけであること、さらに2015年秋に完成予定であるガンバ大阪の新スタジアム(吹田市)は40,000人収容であることを踏まえて、3万人規模が適正と判断する。


 また、本スタジアムをホームスタジアムとして使用する地元プロサッカークラブの集客需要予測数値の最大値が、各候補地において約3万人であること、エディオンスタジアム広島広域公園陸上競技場)においても観客数が3万人を超える場合もあること、そして今後サッカー観戦に適した魅力あるスタジアムの整備とこれを核としたまちづくりが進むことによりマツダスタジアム広島市民球場)のように新たなサポーター層の拡大(需要喚起)が大いに期待できることも、その適正規模は 3 万人規模とすることが妥当であることを裏付けている。


 そこで、将来的な拡張も視野に入れつつ、協議会では適正規模を3万人収容とする。


このように、3万人規模を適正とする根拠は4つあるようです。
すなわち、①国際大会誘致における優位性サンフレッチェ広島のピーク時需要③現競技場における実績(最大値)マツダスタジアムの事例の4つ。


しかし、国際大会誘致における優位性は協議会においてはっきりと否定されています。
これらの意見を一蹴するのであれば、それなりの根拠を示すべきではないでしょうか。


https://twitter.com/chottu_LB/status/535418293327106050

https://twitter.com/chottu_LB/status/535419073861910530


ピーク時需要・現競技場の実績と類似事例を持ち出すことは分からなくはありません。
ただし、それはきちんとした議論・検証を経た場合の話でしょう。

協議会においてピーク時需要をもとにする意見の方が重視されたという事実はなく。
マツダスタジアムの事例をヒアリングした際に規模についての確認はありませんでした*7


何か無理をして「3万人」という数字を押しつけようとしているのではないか。
そういう印象を受けるのも無理からぬことです。


では、作業部会及びトップ会談でそれを是とした理由はあるのでしょうか。
間接的ではありますが、市長会見にそのヒントがあったようです。

2016年01月15日記者会見「サッカースタジアムの建設について外2件」
広島市HP 2016年1月15日付》


そうすると、サッカーの場合、今年優勝して年間30万人です。カープの場合、年間200万人。30万人入って、ようやく30億円稼いで、剰余が1億円。あとは、30億円のうち、この全部は必要経費ですから、1億分くらいしか返済に充てるお金がないとなると、造るスタジアムの規模によって、どれくらい皆さんから現金が頂けて、借金をどれくらいして、その借金を返すというときに、返す借金の返済能力がカープの場合、大体6、7億円です。もし、今のままですと、1億円くらいしかない、1億円いくかどうかなんです。そこの悪循環です。小さな施設になると今度は入る人が少ないから、返せる額が少ない。逆に大きくしたら、大きくした分だけ、サッカーの試合が今マキシマム(最大)20日で(1試合)1万5,000人で(年間)30万人しか入らないわけですから、他の方が使えるような複合的な施設にするか、その施設を使ってもっともっと返済する、そういうことはどこまでできるかということを検討して、先ほど申し上げた要件に全部収れんされるんです。


だから、今のところは3万人入れる規模で頑張りましょう、そうすると、サッカーをやる方、マキシマムで20日で1万5,000人じゃ足りないから、そこのところを2万人とか、ファンを増やして、1回あたりやる。その他、使わない日でもそこのスタジアムを使って入場料を取れるような複合的な施設にしないと返済ができないんじゃないかということなんです。そして、それをうまく運用していくときに、どれくらいの規模の人間がいて、誰がどういうふうに管理していくか。今の球場の方は、市が設定しますから、主に使うカープの方に任せるという指定管理制度でやっています。それとまた同じようなことをやるのかとか、そんなことをきっちり決めた上で、それだけの施設がどこに入れられるだろうかと。今の球場の場合はその土地を買うということやりました。そうすると、港の方は県有地だから、県との関係でそれを買うのか、貸してもらうのかとか、ということになります。(みなと公園が)優位と申し上げたのは、県とかがあるからで、今の(旧)市民球場(跡地)は国有地ですからね。狭いですから、そうするといろんな複合機能ということで、どうだろうかということで、優位はみなと公園だということで検討していると。そうすると、それが今度は運営したときにちゃんと造ったお金が返ってくるんだろうか、そのための人集めするためにそこへの投資、プラス、人が集まるように公共交通システムをもっと変えてうんと集まるようにしないと、採算が取れないんじゃないかと、そんな視点で検討しているということを申し上げて、先ほど申し上げたスタジアムの本体と多機能化とか商業施設等との複合開発を行う場合の概算事業費とか、管理運営費の算出とか、事業手法や採算性などの検討を行っていると申し上げたんです。


このように、スタジアム建設費を償還するためにはより大きな箱が必要である。
そういう理由で「3万人」という規模が必要なのだと市長は考えているようです。

トップ会談に参加している3者及び作業部会も同じ考えなのかもしれません。




[Ⅴ]まとめ=バブル期のハコモノ思想はもういりません

前述しましたように、スタジアム規模を大きくすれば当然顧客単価は下がります。
それで満員になるのであればクラブとしても収入は増加するのは間違いありません。

しかし、収容規模を大きくすれば償還費用はもちろん運営・維持費も増大します。
だからこそ政策投資銀行の指摘する需要予測、特に平均需要が重視されるべきだと考えます。


現在、需要予測を丁寧に行ったという話は聞いておりません。
その結果次第ではみなと公園の方が優位だという結論が出ることもあり得るでしょう。

しかし、現在示されている根拠をもとにみなと公園を優位だとすることはスタジアム建設後の運営だけでなく広島にとっても非常に不幸なことではないでしょうか。


適正規模と言っても固定的なものではなく、ある程度幅があったっていいでしょう。
協議会で鵜野委員が指摘したように、候補地それぞれに適正規模があってもいいでしょう。


https://twitter.com/chottu_LB/status/526976157606891521

https://twitter.com/chottu_LB/status/526976418169630720

https://twitter.com/chottu_LB/status/535416307865227265


大は小を兼ねるという安直な発想だけはやめていただきたい。
そういうハコモノ思想で作った悪い例が安佐南区大塚西にあるじゃありませんか。

第二の広島広域公園を作ることだけは止めて欲しいと切に願います。



最後に簡単に建設費について見て今回は終わりにしたいと思います。
作業部会の評価内容をザックリまとめると次のとおり。

建設費についてはここまで説明してきた「3万人」が前提となっています。
旧広島市民球場跡地にもみなと公園にも特殊な工事費は必要とされています。

しかし、その特殊工事は本当に必要なものなのでしょうか
すでに決まったことだからと頑なになるのではなく柔軟に検証して欲しいと思います。


次回は多機能化・複合開発について見ていく予定です。
引き続きお付き合いいただければ幸いです。



*1:サッカースタジアムの検討に係るトップ会談の開催結果について《広島県総務委員会提出資料 2015年7月27日》

*2:広島に相応しいサッカースタジアムについて(提言) 13ページ

*3:なお、スタジアム標準の4ページではクラス1の規模を2万人~4万人としているが、同44ページにおいて個席数を新設が2.5万人、既設が1.5万人としている。

*4:サンフレッチェ広島のリーグ戦平均観客数は過去7年間1.3万~1.8万で推移している。7年間の平均は1万5542人。

*5:スタジアムの満員状態の重要性を認識し、スタジアムの満員状態創出に積極的に取り組んだ人物としてセレッソ大阪日本ハムファイターズの社長を歴任した藤井純一氏がいる。満員状態について参考となる文献として、「プロスポーツにおける集客ビジネス」《日本スポーツマネジメント学会 発足記念セミナースポーツビジネスを科学する 2007年12月1日》、地域密着が成功の鍵!日本一のチームをつくるダイヤモンド社 2011年11月》。

*6:主な反対意見として、第17回の永田委員の発言第17回の加藤義明委員の発言第18回の鵜野委員の発言第19回の小谷野委員の発言。逆に、3万人を肯定する主な意見として第17回の山根副会長の発言第18回の川平委員の発言がある。

*7:第17回協議会において市の担当者を招いてヒアリングを行っている。平成26年10月8日第17回サッカースタジアム検討協議会@広島 レポート《Togetter 2014年10月28日付》