la vie en violette

サンフレッチェとサッカーに染まった日々

第15回サポカン ~女性と子ども(若者)を狙い撃て~

毎年サポーターズカンファレンスから着想を得て書き殴る本企画。
前回はスタジアムアクセスについてまとめたところです。


awayisum.hateblo.jp


今回も何か書くつもりだったのですが、テーマが絞りきれず二転三転。
このまま諦めようかとも思いましたが、ここまで続けていることですし頑張ります。

第15回サポーターズカンファレンスについては下記のブログなどもご参考に。


http://www.plus-blog.sportsnavi.com/tacker/article/199www.plus-blog.sportsnavi.com


それでは早速始めていきましょう。今回のテーマは顧客ターゲットです。





[Ⅰ]第15回サポーターズカンファレンス

第15回サポーターズカンファレンスでは様々な話が取り上げられました。
それもそのはず2016年シーズンはいい意味でも悪い意味でも話題が豊富だったからです。


awayisum.hateblo.jp


例年取り上げられるクラブ経営や集客、アクセス、スタジアム問題。
佐藤寿人選手の移籍や森﨑浩司選手の引退、若手選手の引き留めという強化に関する話題。
千葉選手のドーピング問題(本人に落ち度なし*1、スタッフの起こした事件。
さらには25周年の特別企画やDAZNマネーなどなど。

今回はそれらを敢えてスルーして、次の説明から話を広げていきたいと思います。

クラブについて(織田秀和 代表取締役社長)
《第15回サポーターズカンファレンス議事録》


【観客動員について】
昨年は、ネットでカスタマーリサーチを実施し、7,000件あまりの意見が集まりました。こちらにいらっしゃる皆さんも、ご回答いただいたかもしれません。そういったアンケートをもとに、Jリーグの専門家に分析レクチャーしてもらいました。サンフレッチェの強み弱みを洗い出してもらい、我々が目指す方向性を今年の施策に活かしていこうとしています。例を挙げると、他クラブと比べて、女性や子どもの動員が少ないということがありましたので、このあたりをターゲットにしていく必要があります


ここで説明されている「カスタマーリサーチ」は2016年8月実施のwebアンケートのこと*2

こうしたwebアンケート調査は珍しいものではありません。
2012年にも実施されていますし*3、今年もひっそりとアンケートが実施されていました*4

テーマ4 観客動員について他(灘井康夫 地域事業部長)
《第14回サポーターズ・カンファレンス議事録》


【観客動員について】
それと同時に、CRM、お客さまに関する情報の収集も2014年から本格的に進めています。2014年で約10,000人の情報を集めており、 2015年も継続して伸ばしていくために、春先からのイベント参加時に合わせて、様々なアンケートなどを実施いたしました。その結果、1stステージが終 わった時点で15,000人までデータが増えています。この15,000人のデータをうまく活用して、試合前のメルマガを配信するなど、告知方法の1つと して運用しております。


このように、webアンケートをもとに顧客の特性を掴んで集客対策というのが最近の傾向。

ただ、2016年に実施したアンケートの結果について我々が見ることはできません。
そこで、Jリーグが毎年実施している観戦者調査 サマリーレポートをもとに分析してみました。

[Ⅱ]サンフレッチェ広島の顧客層

まずは男女比率について検証してみましょう。
前述したように、Jリーグの観戦者調査の中から広島のデータだけを抽出しています。


https://lh3.googleusercontent.com/ykZKuKtxP3t1GUIrTL22WZLTDr3iAYfEu71Ip7z7FitC6M9FUDHNlohVtgbp0wVJa5DNab52PGHfLxsln0sgmvnn1c_sMDMpcbCbvcVY886LuEyZ2bgJTqed4bcjb-o4jQa2F4obcA=w960-h720-no


男性は全体の6割強・女性は全体の4割弱というのが平均的な比率になっていました。
2014年以降は女性比率がじわじわと増加しており、良い傾向のようにも思えます。

ただ、これはあくまでも比率であって、観客数の増減などを加味していません。
そこで、1年間の総観客数にこの女性比率を乗じたものが次のグラフ。


https://lh3.googleusercontent.com/0ucmHOBb_JydxyVAVnrcBYJq73CwPO9VBHNyocMGCRlWJgD7ROxtc9aXlbXk_r2RjzPODaPStKVsUKtIYlVen_WGYp-lGXvNwybnlhpgS_bwXn-bZDoY97Bx4OcnX7K-hvaUE0bsew=w960-h720-no


ここ5年は成績が好調だったこともあって総観客数は安定して25万人を超えています。
一方、女性客数は2009年の11万4千人(推定)が過去最高で頭打ちになっているようです。
ここをもう少し増やしていきたいというクラブの考えはもっともな話。

一応、Jリーグ全体とカープを比較対象にした図も作ってみました。


https://lh3.googleusercontent.com/XnQeCJB5f0G_b3DkjIHvIoOiQ7krR1Az7YZfQx4SSZSB1ucwZvbISqF5i53rEEDvzXjac19wgyNql0_ITT93YfOvU4FgmyoVUrl9l0_gdL1TK0zPQxkYl801AC5FA56BaYpowat7LQ=w734-h551-no


Jリーグ全体の女性比率は緩やかに減少傾向で、あまりいい傾向とは思えません。
カープに関しては好成績で女性比率がぐっと上がっている印象を受けます。

いずれにしてもサンフレッチェが飛び抜けて良い/悪い訳ではなさそう。
ただ、この割合を見る限りでは女性比率が高いとは言えないでしょう。


次に、子どもの観客に関する分析をしてみました。

ただし、第15回サポーターズカンファレンスで言及された「子ども」の定義は不明。
そこで、本稿では子供=若者と解釈した上で話を進めていきたいと思います*5

それではサンフレッチェ広島の観客の年齢構成から見てみましょう。


https://lh3.googleusercontent.com/Bn9r2uoFqXAOmOkppSnmXMLQCG8TtiJTEvPdSptS_NYYunpx-bjWAh6yM-bjESYOTwezaXxleyUY2X9qbCBl0R8WspNAYwB3zj5c_jlgWxY80BjtdMJULX6m90NOCmiY0VUfHJZryQ=w960-h720-no


結果として、サンフレッチェの観客の高齢化が進んでいることが明白となりました。

50歳以上の割合は、2004年~2006年頃は10%程度だったものが現在は35%前後にまで上昇。
18歳以下の観客はここ3年間5%を切っており、22歳以下で見ても10%に届きません。

ただ観客の高齢化はサンフレッチェに限った話ではなくJリーグ全体でも同様の傾向


https://lh3.googleusercontent.com/SL_fCEWBwoE6mITBJ1KVsipEY2-HKr1J71uJtKvVrNsFn6mKwvKvuY8jbsVpWdsuDWojBkewvc022ZS5VTVfSWXur5bsbLKS9jaR5dtBsJGpn0uVWsxFn56hg3t6MyNPyeiqgcxAJg=w960-h720-no


そもそも日本社会全体が少子高齢化の傾向なのですから自然なこととも言えます。

また、Jリーグの調査では同伴した子供の年齢が反映されていません*6
平均年齢はこの調査結果よりも6歳程度低いというのは念頭に置いておくべきです。


続いて、年齢構成をもとに世代別の推定観客数をまとめたものがこちら。


https://lh3.googleusercontent.com/WmOJBzOEn-CYuWxEyUOWSVeWosCWm74yPDIGMwxLTtBJ_5tjkvCNx8Gm0kctMR7B86kTFauhf9JTa1yKD13WSLBDS8kw7ud98IGz5ykxnkvjTv7jbGROtWh5noWdTE6l2AWmAmp5Ug=w960-h720-no


好成績だった2012年、2013年、2015年の次の年は若年層が増加傾向。
やはり成績が良い年の翌年は話題になりやすく若い人が来やすいのかも知れません。

一方でCS優勝&CWC3位だった2015年に若年層の観客数が落ち込んでいるのは気になります。
好成績をその年の集客に繋げる努力がもっと必要とされるのではないでしょうか。



[Ⅲ]女性へのアプローチ事例

さて、ここまででサンフレッチェ広島(など)の観客層を分析しました。
そして、サンフレッチェ広島の女性比率は決して高いとは言えないことが分かりました。

ただ、Jリーグの女性比率は減少傾向であるものの、海外のサッカーリーグと比較すると決して低くはないことから悲観するべきでないという指摘もあるようです*7

女性の集客数は世界最高レベル。Jクラブが仕掛ける“ファンづくり”の実態
サッカーキング 2017年9月12日付》


女性をターゲットとしたマーケティングはどのクラブも一定の成果を上げています。Jリーグにおけるスタジアム入場者数の約40%は女性であり、この割合は実は世界最高レベルの数値です。女性を対象としたサッカービジネスの面で言うと、Jクラブは世界の一歩先を行っていると言ってもいいかもしれません。


とはいえ、女性客をもっと開拓できるだけのポテンシャルを抱えているはず。

実際、広島東洋カープの観客の女性比率は50%前後と近年非常に高い割合を示しています*8
広島においてスポーツ観戦をする女性は決して少なくないはずなのです。

また、女性ファンの来場が多いクラブほど集客に成功しているという指摘もあります。

2016ファジアーノ岡山「Challenge1」について記者会見を行いました 【2】
ファジアーノ岡山 2016年3月3日付》


●男女比について


岡山は、女性の来場が少ないと言う結果が出ています。仙台や松本、スタジアム収容率が80%を超える川崎などと比べると5%近く少ない。新潟や甲府、割と男性ファンが多いと思われそうな浦和と比べても3~5%の開きがあります。Jリーグ全体を見ても、女性ファンの来場が多いクラブ程、集客に成功しているというデータが出ています


以上のことから女性に対するアプローチに注力するのは重要だと考えていいでしょう。


それでは、その認識を踏まえてどのような取り組みをすればいいのでしょうか。
そこで参考にしたいのが女性客獲得という面で近年評価されている鹿島アントラーズ

観客の集客方法について24
《J OKAYAMA ~岡山サッカーの桃源郷へ 2015年7月18日付》


【女性ファンの割合が最も多いのはJ1鹿島】


クラブ別女性比では1位はJ1鹿島で46.1%で1位。その大きな要因となっているのがカシマスタジアムのトイレの数。2001年改修工事の際に女性客を意識して、女性トイレを、53個から285個と6倍増設。そのために、ハーフタイム中、試合終了後のトイレ行列が余り無い。入口と出口を分けて動線もスムーズ。トイレ環境に気を使っている事がよくわかる。試合前にスイーツを食べながら選手や女性サポーターと交流できる、女性お一人様専用チケット「姫チケ」(期間限定)を販売し、女性サポーターに好評。ホスピタリティの向上を意識する事で、女性サポーターが増加。女性はホスピタリティが重要


こちらは2年前のFOOT×BRAINの特集をまとめたもの。
ここにもあるようにホスピタリティの向上が女性客獲得のために重要だとされています。

中でも女性客獲得のためにトイレの増設・環境整備は不可欠と言っても過言ではありません。
女性は男性よりもトイレの使用時間が長いと指摘されていることも一因*9


東京五輪のために整備される新国立競技場をはじめとして、近年建設された(または計画が進む)スタジアムではトイレ環境の整備に力を入れているようです*10


https://lh3.googleusercontent.com/KBubVwYxj8gTaMpmtjPoX4SDXHPjE_JuyTqMwMc2Hf9hi6k7gUvAv-pPdF_UXrc7D5h2_ScmO02UydlDnwCLZb8LUQ8fO-deY1v0mg1rueTB1dDNb8geTsnEiC7tUD461ISRYNCE2w=w1120-h759-no
新国立競技場整備事業~もっと知っていただくために~より》

トイレ行列、短くなる? 五輪会場で街で、オアシス拡大中
毎日新聞 2017年5月29日付》


DeNAが球団オーナーとなった12年シーズン以降、「女性にも試合を見に来てもらいたい」(球団広報)とトイレを全て洋式化し、男女の個室を増設した。さらに20年に向け、収容人数(現在約2万9000人)を約3万5000人に拡張する改修計画があり、トイレの数も見直される可能性がある。


(中略)


Jリーグの試合の観戦時、観客がトイレに駆け込むのは15分ほどのハーフタイム。特に女子トイレの前は長蛇の列だ。川崎フロンターレのホームスタジアム、川崎市等々力陸上競技場は15年にメインスタジアムを改修、トイレの混雑緩和に取り組んだ。入り口と出口を別にして人の流れを一方通行とし、個室の内側の壁は女性が赤、男性は青に塗られている。白い扉が開けば色の違いで空室とすぐに分かり、稼働率が上がるという工夫だ。


もちろんトイレ環境の整備は女性客獲得のために重要な要素です。

ただ、これはどちらかというと「行きなくない理由を減らす」ための施策。
すなわち、「リピーター獲得」のための取組という側面が強いように感じます。

今まで一度も来たことのない女性客を獲得するためには他の施策も必要となるはず。
鹿島の取り組みでいうと、ファッション誌に所属選手(イケメン)を投入したり、クラブの月刊誌やポスターもビジュアルを重視することなどが挙げられていました*11

また、この時代においてSNSの活用は重要なポイントとなってくるはず。

スポーツ観戦女子をどう増やす?女性ファンつかむカギはビジネスの現場に
《スポーツイノベイターズオンライン 2017年1月10日付》


情報発信の際にも女性の目を意識しているという。「バスケは日本ではまだマイナースポーツ。メディアに取り上げてもらうことも少ないので、自分たちから積極的に情報を発信していく」(経沢氏)という考えから、BリーグSNSに力を入れている。特に若い女性の利用率が高いインスタグラムでは、女性客のファッションや会場の雰囲気などを積極的に発信し、「会場にいる自分を想像させる」「Bリーグを身近に感じてもらう」ことを狙っているという。

人気モデルとアイドルが“イケてない”Jリーグに物申す!! イマドキ女子の声を聞け
フットボールチャンネル 2016年10月1日付》


松本「だから、もうSNSでトレンドを作れればもう一発なんですよ。だから、SNS映えするような、写真映えする可愛いフードメニューだったりとか、可愛いキャラクターとかグッズだったりとか。あとはそういう場所に行って“私たちリア充してまーす”みたいなのをアピールできるフォトスポットの確立! これです!」


サッカーファンは野球や相撲ファンと比較してSNS利用率が高い傾向にあります*12
女性に訴求しやすい内容をSNSで発信することによって拡散を狙うことは効果的でしょう。



[Ⅳ]子ども(若者)へのアプローチ事例

女性客の集客の話はこれくらいにしておいて子ども(若者)の集客の話に移りましょう。

前々項でJリーグ全体で観客の高齢化という問題も明らかとなりました。
この高齢化問題についても次の理由から悲観するものではないという指摘があります*13

「新しい仲間」を増やすためにできること Jリーグスタジアム観戦者調査2013
スポーツナビ 2014年2月6日付》


続いて、平均年齢について。13年は39.5歳で、前年の39.0歳から0.5歳上がった。平均年齢は04年の34.7歳以降、4.8歳(平均すると毎年0.54歳ずつ)も上がっているため「ファンの高齢化」がかねてより懸念されているが、仲澤氏は「一概にネガティブにとらえることはない」としている。その理由として氏が挙げたのが、イングランド・プレミアリーグの平均年齢が41.0歳(11年)であり、英国国民全体の平均年齢とほぼ変わらないこと(日本国民の平均年齢は45.8歳)。また、特に地方都市においては、リピーターとなる観客の年齢はどうしても高くなりがちであり、「丁寧に(集客活動を)やっているクラブほど、平均年齢が上がっていくのはやむを得ない」(仲澤氏)としている。


そうは言っても若い人が増えなければ先細っていくばかり。
少なくとも若い人たちが観戦に来やすくする努力が重要なのは論を俟たないはずです。


では、若い人たちが来やすくするためにはどのような取組をすればいいのでしょうか。
アビスパ福岡を題材した福岡大学の学生の研究に集客のヒントがあるように思います。


https://lh3.googleusercontent.com/t4FARYVoMyp4KVRx3TuhOOWC1g5nfHgW91eMZxZP-WVqqTfX2gYsRAOhymESSsjLD0kI5ymdr9YwVdhb8TirnIGDE8VUJZDykh9YE_L6COOXzsx6reygP5YKkmr6ve6WRGGGcRFUzg=w734-h551-no
アビスパ福岡×福岡大学 アビノミクスより》


このように、若い人が観戦しない理由は「キッカケ」と「チケット価格」にあると指摘。
これを裏付けるデータを確認していませんが、感覚としては納得できるものです*14。。


では、Jリーグ・Jクラブはこの2つの要因にどのような対策を講じているのでしょうか。

まず第一の要因=キッカケへの対策として、先程ご紹介した福岡大学アビスパ福岡のように学生に試合イベントの企画を任せてしまうという方法がよく採られています*15

若者たちとクラブとの絆〜 「共につくる」ことの価値 〜
Jリーグニュースプラス 2011年3月8日》


「19歳から22歳の若年層の観戦者が少ないことはJリーグ全体の課題ともなっているが、新潟では特にその傾向が顕著なデータとして出ていた」と語るのは、アルビレックス新潟の事業本部営業部マーケティンググループの國井拓也氏だ。アルビレックスの観戦者平均年齢は43.5歳(「Jリーグスタジアム観戦者調査2010」より)。これは全37クラブで2番目に高く、リーグ平均(38.2歳)より5歳以上も高い。 これからのアルビレックスを長きにわたり支え続けるサポーターとなるべき存在として、若年層ファンの獲得は避けては通れない課題である。その課題解決のために、アルビレックスは地元の大学生と一緒になって、彼らと同年代の大学生をスタジアムに呼ぶという取り組みを始めた。それが、2009年に立ち上げた「ALB lab.(アルビラボ)」である。新潟の大学生たち自身が主導し、自分たちと同じ若者の集客率アップを目指すというプロジェクトだ。


要するに、若者をスタジアムに呼び込みたいのであれば若者に聞けばいいという発想。
どこがボトルネックとなっているかを分析して貰い、その対策として企画を考えて貰う。

クラブ側には大学生に企画を任せることで話題性と新鮮さをもたらすというメリットがあり、学校側には生徒たちに実践的な社会勉強の場を設けられるメリットがあるというわけ。

サッカーとは関係がありませんが、鯖江市のようにうまく回れば面白いですね。


news.livedoor.com


また、この手法以外でいうと鹿島アントラーズの事例が比較的新鮮な話題でした。

鹿島アントラーズが考える「ファンマーケティング」とその先――周辺人口が東京の20分の1でも生き残る道とは?
《HRナビ by リクルート 2017年08月10日付》


たとえば、メルカリとのパートナーシップの締結。これは両社が獲得している顧客層が異なるからこそ成立したものです。メルカリのユーザーは20代~30代の女性が中心ですが、アントラーズは30代~40代の男性やファミリー層がメイン。アントラーズからしてみれば、今までアプローチが難しかった若年層の女性に対してアプローチが可能になる。マーケット・新規顧客の開拓という点で大きなメリットがあると思いました。


メルカリとの取り組みとして、まずは、ホームゲームとクラブ関連イベントの開催時に、JR鹿島サッカースタジアム駅から茨城県立カシマサッカースタジアムまでの太陽光発電下の道を「メルカリロード」と名付け、4月8日に開催されたセレッソ大阪戦では、オリジナルステッカーの配布やフォトプリントサービスを展開しました。さらに、ライブ配信で商品の販売・購入ができる機能「メルカリチャンネル」を活用し、ホームゲーム開催時限定で、試合後に選手のサイン入りグッズなどを出品しています。


このように、若い人たちが利用する媒体と協力関係を築くことも一つの対策なのです。
ある意味、アニメなどとのコラボ企画の類型と言ってもいいかもしれません。


第二の要因=チケット価格について各クラブがそれぞれ努力しています。
ただ、それを一つ一つ取り上げるのはあまりにも大変なので今回は割愛。

その代わりに、2013年にスタートした「Jマジ!」という企画を見ていきましょう*16

19・20歳はJリーグ観戦が無料! 『Jマジ! ~J.LEAGUE MAGIC~』5期目スタート
リクルートライフスタイル 2017年2月24日付》


『Jマジ!』実施背景
Jリーグは、誕生時から支援し続けるファンが多く定着している一方で、新規ファンの獲得が課題とされています。JRCが実施した調査(※4)によると、18~25歳の若年層男女は他の年齢層に比べJリーグ観戦意向が高いという結果がでました。また、観戦経験者の入れ込み度も高く、定着率も高い(この3年以内で観戦デビューをした人の中で、直近1年間に観戦実施している割合が高い)ことから将来の有望なターゲットであることがわかりました。そこでJRC日本プロサッカーリーグと協力し、19・20歳限定でJ1・J2の参画クラブの対象試合を無料で観戦できる『Jマジ!』を実施することにしました。


Jクラブが個別に取り組むのではなくJリーグ全体(希望クラブのみ)で実施しているのが特徴。
「雪マジ!19」というフリーミアム企画が成功したことでJリーグでも導入されました*17

システムは非常に簡単で、会員登録すれば一定期間無料になれるというシンプルなもの。
無料招待券ではなく、アプリを採用している点は若者向けと言ったところでしょうか。


ところで、フリーミアムとは「一定の無料期間を設けて、その間にファンを獲得、将来の課金に繋げる手法」を意味し、一般にネットサービスでよく利用されている手法です*18

こうした手法を採用するときに必ず問題となるのが「慣れ」。
入場料無料に慣れてしまうとチケット代を払わなくなってしまうというものです*19

この点について、「Jマジ!」の責任者は次のように説明しています。

青木理恵×たまじゅん部 “観るだけじゃないサッカーを”
《TAMAJUN Journal 2017年6月1日付》


青木
一昨年のデータですけれど、会員登録数では、約3万2千人の登録という数字があるんですね。この会員さんのうち、4割くらいの人が実際にスタジアムに行く頻度が増えたり、しばらく行かなかったのに行くことが復活したりという効果が出ています。一方で、先ほどのご指摘のような、「無料で来る人は、無料でしか来ない」というような問題に対して、「来シーズンは無料ではないけど来たいと思うか」という観戦意向のアンケートをとっていますが、84.3%の人が、「無料でなくても行きたい。」と回答してくださっています。他にも「2年前に会員になった方が、翌年に有料でスタジアムに行ったかどうか」というデータがあるのですが、77%の方が実際にスタジアムに足を運んでくださっているという結果となっていますので、「無料で来る人は、無料でしか来ない」神話というのは、必ずしも正しくはないんじゃないかなと、私は思っています。


正直なところ、このような結果が出ていることは少し意外でした。
本当は見に行きたいけれどチケット代がネックとなっている人が一定数いるのでしょう。

こうしてデータを取りながらアプローチするのが今後主流となってくるのかもしれません。



[Ⅵ]まとめ ~サンフレッチェ広島の取組~

今回取り上げたのは女性客・子供客に対するアプローチが重要であるというお話。

まずサンフレッチェ広島(など)の顧客層について分析を行い、その事実を確認。
その上で女性・若者客を増やす取組として、いくつか事例を紹介しました。


正直なところ、1回で片付けられるようなテーマではなかったなと反省しております。
事例紹介としても浅いですし、その取組が成果に結びついているかまでは調べていません。
その意味で本稿はそういった研究の導入編とでもいうべき様な内容でした。

また、前述したように子ども=若者という前提で本稿は進めてきました。
子ども=義務教育年代というニュアンスであればまた別のアプローチもあろうかと思います。
そういった点にまで言及できなかったのは今回の積み残しです。


さて、本稿では他事例ばかり紹介してきましたのでサンフレッチェについても簡単に。


サンフレッチェはこの女性客獲得のため2015年からレディースデーを開催しています*20

このレディースデーは単純に女性向けのイベントというだけではありません。
サンフレ女子会という女性サポーターグループが企画に参画している点も特徴的*21
女性目線でのイベントが多く、かなり力が入っています。

3年目となる今年は「サンフレガールズフェスタ2017」と題した大々的な企画でした。


http://www.sanfrecce.co.jp/0624_girls/www.sanfrecce.co.jp


また、高校生大学生を対象にSS指定席を格安で販売する青春ペアシートなども実施*22
手を変え品を変え、女性・若者を引き寄せる企画は頑張っているようです。

なお、これらの取組に対する評価は通信簿企画で改めて取り上げたいと思います。


www.instagram.com


また、こういうストレートなのも大事ですね。余談ですが。


ただ、ソフト面ではサンフレッチェも取り組んでいるのですがハード的な取組は難しい。
来年度以降、ついにエディオンスタジアムのトイレが改修されるという話があります。

豪ホッケー誘致へ球技場改修検討
中国新聞 2017年10月18日33面》


テニスコートは順次、更新中。サッカーJ1サンフレッチェ広島がホームにするエディオンスタジアム広島は個席数と洋式トイレの数が基準を満たしておらずサッカーのアジアチャンピオンズリーグを開催できない。このため来年度以降、トイレとスタンドの改修に乗り出す構えだ。


ここでの改修はあくまで洋式トイレの数増設がメインとなるでしょう。

エディオンスタジアムのトイレは入り口と出口が同一で混雑してしまいがち。
そういった面での環境整備は新スタジアム建設まで待たなくてはならないのかもしれません。


まとめとしては簡単ではありますが以上です。
ここまでお付き合い頂ありがとうございました。
それでは良いお年をお迎え下さい。



*1:しつこいようだが、千葉選手のドーピング問題について誤解のないよう次のリンク先を読んでおいていただきたい。千葉和彦選手(サンフレッチェ広島F.C)に落ち度はない《望月浩一郎ブログ 2017年1月2日付》、千葉和彦選手のドーピング事案について《Japan Sport Law Support and Research Center 2017年3月5日付》。

*2:《ご協力をお願いいたします》サンフレッチェ広島 WEBアンケート実施のお知らせ および ご協力のお願いサンフレッチェ広島 2016年8月43日付》。

*3:【お知らせ】スポーツファンとホームタウンの関係に関する意識調査(WEB調査)にご協力をお願いいたします。サンフレッチェ広島 2012年12月14日付》。

*4:ガンバ大阪でも同様のアンケート(調査主体が㈱Jリーグデジタルとクラブと筑波大学)が実施されているため、クラブ主体というよりはリーグ主体の可能性はある。ガンバ大阪Webアンケートご協力のお願いガンバ大阪 2017年5月17日付》。

*5:ここで言う若者とは、22歳以下の観客を想定している。これは観戦者調査 サマリーレポートの集計上その年代に着目されているからである。なお、子ども=義務教育年代と解釈する場合と、子ども=若者と解釈する場合とでは方向性が全く異なることに留意して頂きたい。

*6:この点について、「2013シーズンから試行的に、調査対象に同伴した子どもがいる場合には、その年齢についての回答を求める調査項目を設定した。これは、サマリーレポートの調査は、その対象を11歳以上としているため、来場者全体の年齢構成を反映していない点を補完する目的で設定された項目である。それによれば、全体では従来の算出方式では、40.4 歳(J1:39.9 歳、J2:40.8 歳)であった平均年齢が、34.1歳(J1:34.2 歳、J2:34.0 歳)になり、6.3 歳(J1:5.7 歳、J2:6.8 歳)平均年齢が低下するという結果が得られた」と述べている。Jリーグ スタジアム観戦者調査 2014 サマリーレポート16頁。

*7:同様の指摘として、フットボールの熱源 女性を引きつける戦略日本経済新聞 2017年12月19日付》。

*8:広島市民球場運営協議会の概要広島市 2017年12月24日閲覧》。

*9:トイレ行列、短くなる? 五輪会場で街で、オアシス拡大中毎日新聞 2017年5月29日付》。

*10:市立吹田サッカースタジアムLIXIL 2017年12月22日閲覧》、北九州市の新しいシンボル・ミクニワールドスタジアム北九州(ミクスタ)を徹底紹介《キタキュースタイル 2017年10月5日付》、ミクニワールドスタジアム北九州《COM-ET [コメット] 建築専門家向けサイト 2017年12月22日閲覧》。

*11:女の子とJリーグ 《Insight kick  2011年8月18日付》、フットボールの熱源 女性を引きつける戦略日本経済新聞 2017年12月19日付》。

*12:「女性のスポーツ観戦」に関する意識・実態調査《womedia Labo 2015年8月7日付》。

*13:同様の指摘として、「今の大学生はJリーグ開幕当時を知らない」 コアなファンで固定化された日本のサッカー《ログミー 2016年2月16日付》。

*14:少し次元が違う話かもしれないが、プレミアリーグでもチケット価格高騰で若者離れが進んでいると指摘されている。若者の足が遠のくプレミアリーグ。原因は?《Golaco 2017年11月18日付》。

*15:後述するアルビレックス新潟以外の例として、徳島ヴォルティスモンテディオ山形東京ヴェルディアビスパ福岡などがある。若者たちとクラブとの絆〜 「共につくる」ことの価値 〜Jリーグニュースプラス 2011年3月8日》、モンテディオ山形×東北芸術工科大学 共同授業実施についてモンテディオ山形 2016年4月26日付》、「若者のサッカー離れ」は正しくないを実証したい!?《BLOGOS 2016年10月9日付》、(緑の旗のもとに)学生とタッグ つかめ若者のハート朝日新聞 2017年7月6日付》、アビスパ福岡応援プロデュース福岡大学 2017年12月28日閲覧》、アビスパ福岡×福岡大学 アビノミクス福岡大学 2017年12月28日閲覧》。

*16:2017年で5期目となっている。20歳をJリーグ観戦に無料招待!「Jマジ!20 〜J.LEAGUE MAGIC〜」2ndシーズンが2月25日より始動 〜 会員の約4割が、「Jマジ!20」がきっかけでスタジアム観戦へ 〜リクルートライフスタイル 2014年2月25日付》、19・20歳限定、Jリーグ観戦に無料招待! 『Jマジ! 〜J.LEAGUE MAGIC〜』3期目スタート 〜 会員登録は3月2日、対象試合の申し込み受付は4月2日より開始 〜リクルートライフスタイル 2015年2月26日付》、19・20歳はJリーグ観戦が無料! 『Jマジ! ~J.LEAGUE MAGIC~』4期目スタートリクルートライフスタイル 2016年2月26日付》、19・20歳はJリーグ観戦が無料! 『Jマジ! ~J.LEAGUE MAGIC~』5期目スタートリクルートライフスタイル 2017年2月24日付》。

*17:衰退市場を救う起爆剤としてのフリーミアムモデル 加藤史子氏リクルートマネジメントソリューションズ 2015年8月26日付》。

*18:「タダの魔法」で若者とニッポンを元気に! 魔法のアプリ『マジ☆部』にかけるリクルートの想いとは《U-NOTE 2016年2月22日付》。

*19:この問題が顕著に表れた事例としてアルビレックス新潟がある。新潟、“無料招待券”廃止で勝負 集客減も「今は我慢」Jリーグまとめブログ 2015年3月28日付》、「タダ券は絶対に配らない」J2ファジアーノ岡山の流儀。《Number Web 2015年5月12日付》。

*20:5月10日(日)ガンバ大阪戦は「レディースデー」!!【第1弾】女性限定特典つきチケット『サンフレ女子チケ☆』販売のお知らせサンフレッチェ広島 2015年5月7日付》、5月8日(日)サガン鳥栖戦は「レディースデー」!!女性限定特典つきチケット『サンフレ女子チケ2016』販売のお知らせサンフレッチェ広島 2016年4月14日付》。

*21:4月26日は、スカパー!Jリーグ中継 ピッチリポーター、サンフレ女子会リーダー 掛本智子さんをお迎えしました!!サンフレッチェ ラジオ・サポーターズクラブGOA〜L 2016年4月26日付》。

*22:25周年特別学生割引企画!!4月22日(土)ベガルタ仙台戦限定!!『青春ペアシート』販売についてサンフレッチェ広島 2017年3月7日付》。