サンフレッチェ広島 2016年通信簿(その四・終)
第四回で最終回。
スタジアムの話とクラブ運営について述べてからまとめます。
[Ⅷ]スタジアム…【なんともひょうかしがたい】
スタジアムはどう評価していいものか分からないので保留扱いで。
2016年はスタジアム関係で大きな動きがありました。
それを非常に簡潔に三行でまとめると次のような流れになります。
①3月末を目処に作業部会*1が結論を取りまとめようとしたのに対して、サンフレッチェ広島が「Hiroshima Peace Memorial Stadium(仮)建設案」を発表したことで膠着状態に
②広島商工会議所会頭が仲立ちする形で、広島県知事、広島市長、広島商工会議所会頭とサンフレッチェ広島の久保会長の四者による意見交換会が実現
③中央公園広場を第三の候補地*2とした上で、サッカースタジアムの検討を進めることで合意
もう少し詳しく見るならば広島市のホームページが時系列で並んでいて分かりやすいですね。
ただ、あまりにも出来事が多かったため、全てを確認していくのは正直厳しいです。
そこで、今回はサンフレッチェ広島の「Hiroshima Peace Memorial Stadium(仮)建設案」と、現在の状況について簡単にコメントする形にしたいと思います。
なお、作業部会のとりまとめに問題があるということについては昨年まとめました。
そちらをご覧頂ければ、参考になるのではないかと思います。
まず、「Hiroshima Peace Memorial Stadium(仮)建設案」について。
2016年3月に公表された本案は、旧広島市民球場跡地を建設地と想定したスタジアム案です。
この提案の特徴としては、次の4点が挙げられます。
- スタジアムから原爆ドームが一望できることを活かした正と負の対比
- 複合施設を新設するのではなく周辺施設のハブ機能・ランドマーク機能を重視
- 民間資本による建設(税金の投入は最小限)
- 高さ制限を守りつつ掘り下げ工事をしないことで建設費削減
《Hiroshima Peace Memorial Stadium(仮)建設案、スタジアムの詳細についてより》
この建設案には検証が甘いと感じられる点があり(例えば、多目的利用の内容であったり、資金調達スキームであったり)、実現可能性がある提案とまでは言えないと思います。
ただ、このプランのあら探しをすることには、あまり意味がありません*4。
正確には、この案を批判することでより良い提案が生まれ、それが新スタジアムのグランドコンセプトに繋がっていく…というようなことは起こらないのだろうと考えています。
というのも、サンフレッチェ広島と作業部会とのやりとりを見る限りでは、四者で意見交換をするための資料でしかないからです。
したがって、サポーターとしては、クラブが旧広島市民球場跡地を最適地とし、3万人規模にこだわらない姿勢を示したと受け止めればそれで十分ではないかと思います。
そのように理解した上で、現在の状況について確認をしておきたいと思います。
(中国新聞、日経新聞、毎日新聞が総括記事を出していますのでそちらも参考にして下さい)
現在、中央公園広場ありきで報道されているため、スタジアムの建設候補地は中央公園広場で決まりのように受け止められているようですが、厳密には違います。
四者会談において、旧広島市民球場跡地と広島みなと公園も依然として候補地のままです。
サッカースタジアム検討に係る知事・市長・商工会議所会頭及びサンフレッチェ広島会長による4者の意見交換(2回目)の概要
《広島市 2017年1月24日閲覧》
4合意事項
①新しいサッカースタジアムは、県・市・商工会議所・サンフレッチェ広島の4者が協力して整備に向けて取り組んでいく。
②建設候補地は、現在の二つを残しつつ、検討協議会の議論の経過も踏まえ、中央公園広場をその他の候補地として、4者が協力して検討することについて合意する。
③県・市・商工会議所の3者は、中央公園全体のあり方も視野に入れつつ、中央公園広場に新スタジアムを整備できるかどうか、また、整備するとした場合の騒音対策や観客・車の動線のあり方など、周辺地域を含めたまちづくり対策も含めて、早急に検討していく。
④サンフレッチェ広島は、中央公園広場が候補地となった場合の課題を早急に検討していく。
⑤その検討結果を踏まえ、再度、4者の意見交換の場を持ち協議する。
このように候補地を複数残すことはそこまでおかしな話ではありません。
候補地を絞りきってその候補地にNGが出たら計画は頓挫、では困りますから。
一方で、現在は集中的に中央公園広場の検討が進められているのは事実です。
その後、検討が終わった段階で三つの候補地を並べて比較することになるのでしょう。
ただし、サンフレッチェ広島が「作業部会による」広島みなと公園案を認めるとは考えにくく、逆に作業部会も旧広島市民球場跡地を候補地として認めるかは微妙なところです。
したがって、中央公園広場に特に問題がなければ候補地になると予想しています。
そこで問題となってくるのは、中央公園広場を候補地とすることに支障がないかという点。
サッカースタジアム検討協議会の答申では次のような点が指摘されていました。
広島に相応しいサッカースタジアムについて
《広島県サッカー協会 2017年1月25日閲覧》
8)サッカースタジアム整備の課題
候補地ごとの課題は次のとおりである。
(1)「中央公園自由広場・芝生広場等」
協議会で当初より目的としてきたスタジアムの多機能化や複合開発については、都市公園法の制約を受け導入用途に制限があり、敷地の南北方向が狭いため、観客席の拡張にも制約がある。また、北側直近の大規模住宅等に対する騒音対策や日影規制への対応が困難な問題もある。
上記の問題について四者が現在検討をしているということなのでしょう。
そして、その中でも地元民との折衝が重要なポイントとなっている様子*5。
サッカー場4者会談は来年に開催
《中国新聞 2016年12月13日》
中央公園広場に近い基町連合自治会が11日の会合で来月以降に4者へ質問状を送り、担当者を呼んで会合で意見を聞く方針を確認した。これにより候補地選定を進めるために年内開催を目指していた4者トップ会談は越年が確実になった。
11日の会合後、瀬戸口寿一会長(71)は「4者との話し合いはマスコミにも公開したい。いつ開くかは分からない」と説明。市スポーツ振興課は「地元と意見交換をしっかりしながら、できるだけ早く4者で候補地を確定したい」とする。
報道によると、地元住民の中には反対の意向を示されてる方がいらっしゃるようです。
そして、スタジアム建設に反対することは何らおかしなことではありません。
自分が以前から住んでいる環境に突如として大規模建築物が現れるのです。
騒音や日照だけでなく治安や違法駐車など周辺の住環境が大きく変わる可能性があります。
私だって同じ立場に立たされたら嫌です。その「普通」の感覚を忘れないで下さい。
彼らはもともと住んでいたのですから、後から来た者が譲歩するのは当然の話でしょう。
その上で、利益を見せ、代案を検討し、対策をする。それが交渉というものだと思います。
2017年はその検討・交渉過程を注意深く見守る一年になりそうです。
[Ⅸ]コーポレート・ガバナンス…【もう少し頑張りましょう】
2016年はクラブとして緩みが出てしまった一年だったように思います。
その最たる例がミキッチ選手の交通事故と金大伸通訳の交通事故でしょう。
特に金大伸通訳の交通事故は飲酒運転によるものであり、はっきり言って論外です。
いずれもクラブとしてスピーディーかつ毅然とした処分をしています。
ミキッチ選手に対する懲戒内容について
《サンフレッチェ広島 2016年10月24日付》
昨日、お知らせいたしましたサンフレッチェ広島所属のミハエル・ミキッチ選手の交通事故につきまして、弊クラブでは、社会的責任の大きさを鑑みて、下記のとおり、同選手を懲戒することに決定いたしました。
サンフレッチェ広島は、この度の事故について真摯に受けとめ、弊クラブ所属の選手一人一人が社会の規範となるべき存在であることを再認識し、今後の再発防止に向けて、交通安全への取り組みを徹底してまいります。
事故に遭い、怪我をされた方に対して、心から深くお詫び申し上げるとともに、一日も早いご回復をお祈りいたします。
【ミキッチ選手 懲戒内容】
1.10月24日(月) ~ 10月28日 (金) 謹慎 (期間中の練習参加も禁止)
2.10月29日(土) vs.アビスパ福岡 試合出場停止処分
3.11月 3日(祝・木)vs.アルビレックス新潟 試合出場停止処分
クラブスタッフの処分について
《サンフレッチェ広島 2016年12月28日付》
12月24日(土)にクラブスタッフが起こした不祥事につきまして、下記の通り、処分を決定いたしましたのでご報告いたします。
被害にあわれた方に対し、改めて深くお詫び申し上げます。また、ファン・サポーターの皆さま、弊クラブにご支援、ご声援をいただいている皆さまに多大なご迷惑とご心配をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。
今回、このような形で不祥事を起こしてしまい、クラブとしても責任を痛感しております。所属スタッフの酒気帯び運転事故という事実を重く受け止め、今後の再発防止策を講じるとともに、皆さまの信頼回復に努めてまいります。
処分内容
(1)当人
通訳兼用具担当 金大伸 契約解除処分(2016年12月28日付)
(2)社内責任者
代表取締役社長 織田秀和 減給10% 1ヵ月
強化部長 足立修 就業規則に則り、減給 1日、および誓約書の提出
また、本人の申し出により、更に給与の4%(1ヵ月)を自主返納
その迅速性は褒められていいですが、一方で立て続けに大きな事故を起こしているのも事実。
コメントにもあるように社会的責任の大きさ、重さを再度認識し徹底してほしいものです。
一方、普段の取り組みが良い(というのは語弊がありますが)結果に繋がった話題もありました。
千葉和彦選手に対する日本アンチ・ドーピング機構からの暫定的資格停止処分です。
これは本当に寝耳に水な話題であり、千葉選手の選手生命を脅かすほどの事態でした。
それが結果として譴責処分で済んだのは、クラブ、メディカルスタッフと担当弁護士の方々が疑惑解明に努力し、普段からドーピングについて注意を払っていたからこそです。
この経緯については担当弁護士であった望月浩一郎氏のブログとJADAによる決定通知書をお読み下さい。特に、望月浩一郎氏のブログは必読です。
[Ⅹ]2017年のシーズンの展望(的な何か)
2016年シーズンは本当に盛り沢山でした。
全4回に渡ってこれだけ書いておきながらまだ語り尽くせていません。
佐藤寿人選手の移籍と森崎浩司の引退、次代を担うべき若手のレンタル移籍。
浅野拓磨選手の移籍と、その移籍金によってクラブ史上最高の収益を計上したこと*6。
熊本地震が起こり、募金活動や支援物資の受け付けなども行いました。
もちろん東日本大震災の復興支援を継続していることも素晴らしいことです。
このように、紹介できなかったことまで含めて、良くも悪くも沢山の出来事がありました。
2016年はまさに「濃い」シーズンだったと言えましょう。
そして、既に年も明けて新しい選手も加わり2017年シーズンを迎えることになります。
経営的に言えば2017年シーズンは再び「優勝効果のない」一年となります。
特に「ご祝儀」によって増えていたスポンサー収入は減少するでしょうし、グッズ販売益も優勝記念グッズがないため前年よりは減ることでしょう。
もちろんDAZNの放映権料を背景に配分金が増加しますが、それは他クラブも同じこと。
賞金やグッズ売上のようにJリーグの中で相対的な地位が向上するようなものではありません。
毎年監督が言い続けていることですが、地に足を付けて戦っていかなくてはなりません。
幸い、2012年からの好成績と減資・増資のおかげでクラブは安定経営ができています。
2017年以降もその財政基盤を背景にいいチャレンジをしていって欲しいと思います。
チームも、クラブ経営も、スタジアムも、全てにおいて勝利するため、目標達成のため、「心を一つ」にして戦っていきましょう。
《サンフレッチェ広島より》
それではまた来年。
*1:正式名称は「サッカースタジアム実務者検証作業部会」。広島県、広島市、商工会議所の実務担当者で構成しており、サッカースタジアム検討協議会の答申を受けて検討をしていたグループのこと。
*2:サッカースタジアム検討協議会の答申において候補地から外された中央公園自由広場・芝生広場等のこと。「広島に相応しいサッカースタジアムについて」35頁参照。
*3:なお、広島県のホームページでも同様の内容が公開されている。
*4:作業部会の検討については、行政として結論付けようとしていたため批判は必要だと考えている。
*5:なお、担当者を呼んで意見を聞く会合は2017年1月24日に開催された。サッカー場、中央公園調査に予算《中国新聞 2017年1月25日》、中央公園への建設反対伝える《NHK 2017年1月25日閲覧》。
*6:配分金増、まず強化に 織田社長に聞く《中国新聞 2017年1月10日》