第10回サポカン ~「スポンサーシップ」から「パートナーシップ」へ~
第8回、第9回に続いて第10回目のサポカンについて振り返っておきたいと思います。
awayisum.hateblo.jp
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第10回サポカンについてはサンフレッチェ会さんが総括しておられるので、そちらもご紹介。
今回の副題はJリーグニュースプラスVol.11から。
クラブとスポンサーの関係に着目して第10回サポカンを振り返ってみましょう。
[Ⅰ]第10回サポカン議事録を見てみる
まずは議事録に目を通してみましょう。
第10回は成績、戦力、そして経営に関する注目が高かったため運営関係は少なめでした。
今回ピックアップするのは、その他からスポンサーに関する質疑応答。
5)その他(森脇豊一郎企画広報部長)
《第10回サポーターズカンファレンス議事録》
質問
ありがとうございました。地域に根ざすスポンサーをというのをおっしゃっていただいて、私個人としても嬉しいです。一つだけあえて加えさせていただくとすれば、お願いなのですが、企業とのタイアップは非常に良いことなのでぜひやってほしいです。もしできるのであれば、サンフレッチェがスポンサーとスポンサーのハブという形ですね。サンフレッチェと対スポンサーではなく、スポンサーを結ぶサンフレッチェという位置づけで模索を続けていただければと思います。
回答(小谷野社長)
今のご指摘は私も重要だと考えております。スポンサー様がスポンサーシートおよびVIP席にいらした時に、スポンサー同士を紹介や仲介を手がけていて、「サンフレッチェのスポンサーになるといろんなメリットがある」と感じていただけるようになると良いと思います。実は新スタジアムの議論とも絡んでくるのですが、最新のスタジアムはいわゆるホスピタリティゾーンというのがあって、地元の名士の方々や長年チームに貢献されてきたボランティアの方々が集まるゾーンやスペースがあります。そこで新たな地元のつながりというのも、作っていく形になっています。複合機能もそうですし、スポーツスタジアムそのものとしても重要な機能だとわれわれは考えております。スタジアムでも少しずつ実践をやっていきたいと思います。
ここで提案されているスポンサーにとってのハブ機能という視点は大変重要です。
実際に、近年この考え方は他クラブでも注目され始めています。
画像にするほどではないですが、従来のスポンサーとの関係は基本的にクラブとの1対1。
クラブ単体の価値(主に広告宣伝効果)に投資意義を見出すシステムでした。
<Jクラブにとって広告料収入は生命線である>
ここで、Jリーグ公式サイトの営業収入内訳の推移(2011年時点)を見てみましょう。
広告料収入は営業収入のおおよそ45%~55%で推移しています。
広告料を如何に確保するかがクラブにとっての至上命題と言っても過言ではありません。
一方で長引く不況、リーマンショック等々によりスポンサー確保が難航していると聞きます。
従来のやり方だけでは、企業はこちら側を向いてはくれません。
<近年スポンサーはCSR活動を重視している>
少し話が変わりますが、2009年に発表された「スポーツ・スポンサーシップにおける企業の社会的責任: CSR の知覚の先行要因と結果要因」という論文があります。
この論文では、J リーグクラブのユニフォーム・スポンサーについて調査を行っています。
結果、スポンサーシップ目標で平均値が最も高かったのは「社会貢献・地域貢献」。
以下、「社会・地域への責任」、「ブランド・ロイヤルティの向上」、「気づき・認知度の向上」、「イメージの改善と向上」と続いています*2。
近年、クラブを媒介としたCSR活動としてのスポンサーシップが主流となっているようです。
広告効果だけではなく、地域社会への貢献という視点が追加されたのは必然でしょう。
Jクラブは全国30都道府県に存在しており、地域社会との関係性を訴えるのに便利な存在です。
<これからはスポンサー同士の関係に注目!>
しかし、CSRというものは企業ごとに認識の違いがあるものです。
当然力の入れ方も違いますし、それだけでスポンサーを確保するのにも限度があります。
そこで近年重要視され始めているのがスポンサー同士の関係なのです。
本来、なかなか交流の持てない企業同士がクラブを媒介とすることで関係を構築する。
そのメリットが目に見える形となれば新しいスポンサーの獲得にも大きく貢献するでしょう。
[Ⅱ]スポンサーにとってのハブとなっている事例
スポンサーにとってのハブ機能の事例として鹿島アントラーズが有名です。
鹿島のホームタウン・鉾田市で「ちゅう太郎」というトマトジュースが販売されていました。
この商品を更にPRするために、鹿島のスポンサーであるサントリーに打診。
鹿島アントラーズをハブとして、「ちゅう太郎」と「ザ・プレミアム・モルツ」を合わせた「レッド愛」というカクテルが生まれたのです*3。
評判を色々見て回ったのですがおおむね好評の様子。
何より、ちゅう太郎とザ・プレミアム・モルツの値段を考えると破格です(500円)。
今度、カシマスタジアムに行ったときは飲んでみたいと思います。
《J's GOALより》
他にも鹿島ではスポンサー同士の取引促進も行っています。
具体例としてあげられているのがトステムとイエローハットの事例です。
スポーツビジネスを核とした地域活性化フィジビリティ調査 報告書
《経済産業省関東経済産業局 2010年3月付 15頁》
スポンサーに提供できる価値はスポーツチームに内在したものだけではない。実は、スポンサー同士がお互いにとっての価値を生み出す源泉になっていくのである。具体的には、スポンサー同士の交流促進、さらには取引促進である。つまり、スポーツチームがスポンサー同士のビジネスを「仲介」するのだ。仲介といっても、取引の間に入るわけではなく、場・機会・情報の提供である。スポンサー同士のビジネスに貢献することで、自チームを応援してくれるメリットを演出していくという高度なマネジメントである。
「試合前にスポンサーの担当者が交流する機会を設けるなど、スポンサー間の交流を積極的に仲介している。」(鹿島アントラーズ)
「鹿島アントラーズのメインスポンサーであるトステムはビルダー向けの商材しかもっておらず、一般ユーザー向けの商材を持っていない。そこで、アントラーズの他のスポンサー(例えばイエローハット)が新しい店舗や倉庫を作る際には、極力トステムの商材を指名して使ってもらえるように、というようなお願いをしている。こういったことが実際に商売にもつながっているようである。」(鹿島アントラーズ)
また、折角なのでサンフレッチェにもこういった事例がないか調べてみました
サンフレッチェの手摺広告スポンサーである三共ディスプレイ。
そのホームページ上でEDION CI変更工事がショップ実績としてあげられています。
工事内容は、デオデオからエディオンへの店名変更に伴うサイン工事というもの。
これも一つの「スポンサーにとってのハブ」だととして機能した例かもしれません。
[Ⅲ]ビジネスクラブ
スポンサーにとってのハブ機能の1つとして「ビジネスクラブ」というものがあります。
「ビジネスクラブ」とは、サポカン議事録であったホスピタリティゾーンでの活動のようなもの。
スポンサー同士が関わり合いを持つ場のことです。
この「ビジネスクラブ」を設けているJクラブが最近見受けられます。
その中でも一番有名なのは大宮アルディージャでしょうか。
大宮アルディージャのビジネスクラブ=ABCは2008年設立。
アルディージャとそのスポンサー(年間50万円以上)で構成されています。
懇親会だけでなく「ごみゼロの日 大宮クリーン大作戦」なども実施しているようです*4。
ホームタウンへの愛を育む異業種交流会 ~ABC(アルディージャ ビジネスクラブ)の活動~
《JリーグニュースプラスVol.11 3頁》
山下本部長は、「従来のスポンサーセールスは、看板1枚がいくら、という金額交渉が中心だった。それを180度変え、『看板を買ってください』ではなく、『ぜひABC会員に加わってビジネス交流を行い、アルディージャと共に地域を元気にしていきましょう』というメッセージにしていった」と話す。
クラブのホームタウン担当者がABCの事務局を務めるが、会の運営に関する企画は毎年クラブから指名された幹事企業2社が中心となって進める。アウェイゲームの観戦ツアー、ゴルフコンペ、ABC会員企業の工場見学など、会員主導でさまざまな交流が生まれつつある。
「せっかく何か購入するならABC会員企業の商品にしよう」という想いがシナジーを生む。贈答品なら髙島屋へ、社員旅行はJTBに依頼しよう……といった具合である。ある社長は、自宅の建設をABC会員であるパナホームに依頼したという。
このように、従来のスポンサードではなくスポンサー同士の関係、一体感を重視。
それによって前項の取引や商品が生まれたり、シナジーを期待できるというわけです。
サンフレッチェでも感謝の夕べや励ます会を開催していますが、一体感とは異なるでしょう。
こういった視点でスポンサーを巻き込んでいくことも重要ではないでしょうか。
[Ⅳ]終わりに
今回はこのようにスポンサーとの関係に着目してみました。
広告宣伝効果、CSR活動の一環、そしてスポンサー同士の関係。
スポンサーを獲得するためには幅広い視点が必要です。
先ほど取り上げた博士論文によると、「販売業者との取引の促進」は13位、「スポンサー間のネットワークの形成」は19位でした*5。
この視点でのスポンサー獲得はまだまだこれからだと言えます。
ハブとは、ネットワークの中心、中枢、拠点という意味です。
スポンサーにとってのハブになるとは、すなわちクラブが地域社会の中心になるということ。
地域にとってなくてはならない存在になるということです。
小谷野社長は第10回サポカンで、地元企業の深堀り戦略を目指すと発言しました。
決してスポンサー料を支払うのも楽ではない時代。
クラブ、スポンサー、地域がwin-winな関係を築けるよう努力すべき時代になっています。
最後に。
サポーターとしてするべきことはいたってシンプル。
「折角何か購入するならスポンサーの商品にしてみようかな」
まずはそこからでしょう。