第13回Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)
今回取り扱うのは(本題から少し逸れますが)J3クラブライセンス交付規則です。
まず、2014年創設のJ3リーグ参加要件として設けられたJ3規則を簡単にチェック。
続いて交付規則との違いや運用事例を確認したいと思います。
<Jリーグクラブライセンス交付規則を読み解く(2017年改訂版)・目次> | |
回数 | 内容(交付規則の対象条文) |
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第1回 | クラブライセンス制度導入の背景 |
第2回 | クラブライセンス制度の目的と概要(1条、4条、7条) |
第3回 | クラブライセンス制度に関する用語説明(10条~19条、21条~23条) |
第4回 | ライセンスの申請・審査・決定フロー(24条~26条、28条) |
第5回 | ライセンス交付上(決定後)の取扱い(8条、15条、20条、41条) |
第6回 | 競技基準、法務基準(33条、36条) |
第7回 | 施設基準(34条) |
第8回 | 財務基準(37条) |
第9回 | 人事体制・組織運営基準、各種基準の小括(35条) |
第10回 | AFC規則とACL出場権、AFC規則との比較(2条、9条、29条~30条、41条) |
第11回 | クラブライセンス制度上の制裁と交付後の違反(6条、8条~9条、23条) |
第12回 | 上訴制度、その他の改正項目(12条、17条、27条、40条) |
第13回 | J3クラブライセンス交付規則について |
第14回 | クラブライセンス制度の全体像、おわりに |
[Ⅰ]J3クラブライセンス交付規則の趣旨
本筋から外れるのでJ3リーグ創設の背景について詳しく説明はしませんが*1、J3規則が誕生した背景は重要なので、そこだけピックアップしておきます。
J3規則の誕生した背景は、端的に言うとJ2ライセンス取得のための前準備。
というのも、J3は「J2昇格を目指すクラブのリーグ」と位置づけられていました。
《「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について 20頁より》
本シリーズで確認してきたように、J2昇格のためにはJライセンスの取得が必須です。
しかし、JFLのクラブにクラブライセンス制度をいきなり押しつけるのはハードルが高い。
そこで、交付規則ほど厳しいものではないJ3規則をクッションとして挟むことにより、クラブライセンス制度を体感してもらおうというような趣旨でJ3規則は導入されました。
Ⅱ.J3リーグ参加への手続き
《Jリーグ入会(J3リーグ参加)の手引き【新たに入会を目指すクラブ向け】 11頁》
【J3クラブライセンスとJ1・J2クラブライセンス制度との違い】
「J3クラブライセンス交付規則」は、J3リーグへの参加を希望するクラブに対し、Jリーグが独自に、J3クラブとして最低限必要とされる条件を示したものです。従って、当該規則は「Jリーグクラブライセンス(J1クラブライセンス・J2クラブライセンス)」と連動しているものではなく、アジアサッカー連盟が定める「AFCクラブライセンス交付規則」とは独立したものです。しかし、J3に参加するクラブが将来的にはJ2昇格を目指すことに鑑み、「J3クラブライセンス交付規則」は、J2クラブライセンスの構成をある程度意識できるようなレベルに設定しています。これにより、J3に参加するクラブが、J2昇格に向けた準備がより円滑に進められると考えています。
[Ⅱ]J3クラブライセンス交付規則の特徴
それではJ3規則の具体的な中身について確認していきましょう。
ただ単に条文を見ていても仕方がないので交付規則との違いを中心に進めていきます。
まず、交付規則との大きな違いはライセンス申請者です。
J3規則 第3条〔申 請〕
(1) J3ライセンスの審査の申請日において、以下のいずれかの地位にあるクラブのみが、J3ライセンスの申請者(以下「J3ライセンス申請クラブ」という)となり得る。
① J1クラブ
② J2クラブ
③ J3クラブ
④ 日本フットボールリーグ(JFL)に所属するJリーグ百年構想クラブ。ただし、J3ライセンスの審査の申請日の前年の11月30日までに、「Jリーグ百年構想クラブ規程」第5条第1項に定める申請を行っている百年構想クラブに限る。
このように、J1・J2・J3クラブだけでなく、JFLに所属するJリーグ百年構想クラブも対象。
Jリーグ百年構想クラブというのは「Jリーグ準加盟クラブ」の新名称みたいなものです*2。
Jリーグ百年構想クラブがライセンス申請者になるのはJ3規則の趣旨を考えれば当然のこと。
他方で、J1クラブとJ2クラブが対象となるのは少し不思議に感じる人もいるかもしれません。
J1・J2クラブが対象となっている理由は、J3規則3条3項に示されています。
J3規則 第3条〔申 請〕
(2) J3ライセンスの交付を受けようとするクラブは、所定の手続きにより、原則としてJ3ライセンスの対象となるシーズン(以下「対象シーズン」という)の前年6月30日までにJ3ライセンスの交付を受けるための審査の申請をしなければならない。
(3) 前項の規定にかかわらず、Jリーグクラブライセンス交付規則に基づき、そのライセンス申請締切日までにJ1またはJ2のクラブライセンスの申請を行ったものの、いずれのクラブライセンスについてもFIB(クラブライセンス交付第一審機関)またはAB(クラブライセンス交付上訴機関)から交付決定を受けられなかったクラブは、対象シーズンについて前項の申請を行っていたものとみなす。ただし、Jリーグクラブライセンス事務局から、追加でJ3ライセンスに関する申請書類の提出を求められる場合がある。
そもそも、J3リーグで戦うためにはJ3規則に基づいてJ3ライセンスを取得する必要があります。
J3ライセンスの交付申請はその年の6月30日が期限で、Jライセンスと同じスケジュール*3。
つまり、J3ライセンスの交付申請手続きをしていなければ、Jライセンスの交付申請を行ったクラブがライセンス不交付となった際に、いきなりJFL以下に降格することになってしまいます。
Jリーグ:J3の参加資格を明文化
《毎日新聞 2015年4月28日付》
一方で、J1、J2も含めたJリーグクラブが参加基準を満たせなかった場合でも、改善の見込みがあると理事会で認められればJ3に参加できることも定めた。該当したクラブには「勝ち点減」などの制裁が科せられる。大河正明常務理事は「Jクラブのセーフティーネットとして(J3を)活用する趣旨も含めた」と語った。
これはあまりにも酷なので救済措置的にJ3ライセンスの自動申請が認められているのです。
次に着目すべきはその審査方法でしょう。
J3規則 第5条〔審査方法〕
(1) 審査は第7条から第11 条までに定める各基準をすべて充足した場合に合格したものとする。審査に合格したJ3ライセンス申請クラブには、対象シーズンのJ3ライセンスが交付される。
(2) 前項の規定にかかわらず、理事会は、第7条から第11条までに定める基準のいずれかを充足しない場合であっても、対象シーズンのJ3リーグの安定開催に支障を及ぼさないと認められる場合には、J3ライセンスを交付することができる。かかる場合、理事会は、Jリーグ規約第142条第1項に定める制裁を合わせて審議決定するものとする。ただし、基準F.01第3項に定める基準が未充足であったJ3ライセンス申請クラブに対する制裁は、原則として、対象シーズンの勝点減(最大10点)とする。
このように、全ての基準充足がJ3ライセンス交付の原則的な条件となっています。
ただし、Jリーグ理事会に認められた場合にはライセンスが交付される可能性もあると。
この点も交付規則とは大きく異なる点でしょう。
[Ⅲ]J3クラブライセンス交付規則における各種基準
J3規則5条2項にあるように、F.01の第3項を満たさない場合は勝点減の制裁が科されます。
では、その肝心のF.01の第3項は何かというと、次のような内容。
J3規則 F.01 年次財務諸表(監査済み)
(3) J3ライセンス申請クラブが以下のいずれかの状況である場合は、基準F.01 は満たさないものとする。
① 3期連続で当期純損失を計上した場合。
② ライセンスを申請した日の属する事業年度の前年度末日現在、純資産の金額がマイナスである(債務超過である)場合。
③ Jリーグからの指摘に基づき、過年度の決算の修正が必要となった場合において、過年度の決算を修正した結果、前2号に示す事態となった場合。
このように、F.01の第3項は交付規則とほぼ同じ内容で、三期連続赤字と債務超過の禁止です。
特定の制裁が明示されている一方で、ライセンスの交付までは否定していません。
基準未充足の場合はライセンスが交付されない交付規則よりも柔軟な運用と言えます。
このように、J3規則と交付規則は類似した基準が多く、いくつかの基準は緩和されています。
交付規則とJ3規則との比較表がありましたので、こちらで確認してみましょう*4。
《JFA 2012年度第12回理事会 報告事項10 関連資料No.2 37頁より》
《JFA 2012年度第12回理事会 報告事項10 関連資料No.2 38頁より》
上記のように、U-18、U-15、U-12、U-10のユースチームを持つという要件が、U-18、U-15、U-12のうちいずれか1チーム以上となっている点など条件が緩和された基準がいくつかあります。
中でも特徴的な違いがあるのは施設基準でしょう。
まず、ライセンス申請時にJクラブが頭を悩ませる屋根とトイレに関する基準がありません。
また、スタジアムのキャパシティについてもJ1・J2ライセンスとは異なります。
J3規則 I.03 スタジアム:入場可能数
ホームスタジアムは、メインスタンドに椅子席があるものとし、その入場可能数は5,000人以上でなければならない。なお、ベンチシートは1席あたり45cm以上で計算を行うものとし、芝生席は、安全性等についてJリーグが検査し、特段の支障がないと認められる場合には、観客席とみなすことができる。
このように、5000人が基準となっており、芝生席も認められる場合があるのです。
それでも5000席以上の専有できるスタジアムを確保するのはハードルが高いようですが*5。
[Ⅳ]J3クラブライセンス交付規則とJ2ライセンス
冒頭でも確認したように、J3規則は交付規則のチュートリアル的位置づけ。
しかし、財務基準などはいいとしても、施設基準をステップアップするのは至難の業です。
そのため、J3ライセンス取得クラブがJ2ライセンスの取得に苦しむケースが散見されます。
その代表例とも言えるのが鹿児島ユナイテッドのライセンス不交付でしょう。
ライセンス不交付はクラブライセンス制度が導入されてから初めてのことでした。
J2クラブライセンス審査結果について
《鹿児島ユナイテッドFC 2016年9月28日付》
鹿児島ユナイテッドFCは、2017シーズンのJ2クラブライセンスの申請を行い審査を受けてまいりましたが、判定結果は『不交付』となりました。つまり今シーズンの成績に関わらず、来シーズンのJ2昇格はないということとなります。
今回Jリーグから示された不交付の理由は、クラブライセンス交付規則番号I.01とI.03を充足していないことにあります。
I.01は公認スタジアムのことで、クラブとスタジアム所有者とでJリーグ規約に定める要件を満たしたホームスタジアムにおいてホームゲームの80%以上を開催できることが書面で合意されていない状態です。I.03はスタジアムの入場可能数のことで、現在のホームスタジアムである鹿児島県立鴨池陸上競技場は、2020年の鹿児島国体に向けて段階的に改修工事を行っておりますが、2016年度からメインスタンドの全面改修および屋根部分の改修工事を行うこととなっており、シーズン中を通して観客席10,000人を常時満たすことが確約できない状態です。つまりJリーグ規約に定める要件を満たしたホームスタジアムが無い状態ということになります。
このように、不交付の理由は施設基準のキャパシティと専有に関する項目。
屋根やトイレはB等級基準なので制裁で済みますが、A等級基準未充足だと交付は不可能です。
先日、秋田も特別措置を目指しましたが、最終的に交付申請を断念しています。
スタジアム整備 約20人の委員で協議(秋田県)
《秋田放送 2017年6月22日付》
佐竹知事は「仮に新しいスタジアムの建設計画が確定している場合には、J2の基準を満たしていない球技場であっても、簡易な改修によって完成までの時限的なライセンスを取得できないかについてクラブを通してJリーグ側と協議して参ります。」と述べています。
【質疑応答掲載】6.30 2018シーズンクラブライセンスの申請に関する記者会見を行いました
《ブラウブリッツ秋田 2017年6月30日付》
結論からお話しすると、今季についても現段階ではJ2ライセンスの申請は出せず、J3ライセンスの申請で留まったことをご報告するとともに、来季のクラブライセンスの申請については、J2ライセンスを申請すること、すなわち、来季J2に向けた勝負をするシーズンとし、最短で2019シーズンにはJ2昇格を目指すことを合わせてご報告いたします。
このように、主に施設基準がJ2ライセンスの壁となっているのが現状です*6。
また、第7回でも確認したように、スタジアムキャパシティの数字には特に根拠もありません。
たしかにスタジアムのキャパシティはクラブの経営体力にも直結します。
クラブライセンス制度の導入によって施設環境を整えるという趣旨も分かります。
【大河正明×西尾邦明】 観客へのもてなし向上第一 サッカースタジアム 意義どこに
《朝日新聞デジタル 2013年6月3日付》
――観客席に3分の1以上の屋根をつけるクラブライセンスの基準を満たしていないスタジアムが多くあります
ガンバ大阪、北九州、長野では基本的に屋根付きのスタジアムをつくる方向になりました。徳島も防災上の理由から付けようとしている。京都、静岡、広島、沖縄でも議論が進んでいます。地下で潜行しているところもあります。
狙いはライセンスを通じてサッカー界全体がホスピタリティーを上げていくこと。Jリーグが発足したばかりのころは常緑の芝生、1万5千人のスタジアム、ナイター照明を、と言っていたんです。かつて、関西ではナイターができなかったし、天皇杯の決勝も枯れ芝。ちょっと高めの目標を掲げながら、少しずつ向上させていく。それはJリーグのクラブのため、そして一番は観客のためなんです。
ただ、クラブライセンス制度の導入によってキャパシティにも厳格さが求められるようになっている現状と*7、AFC規則では求められていないという事実を踏まえると、スタジアムのキャパシティに係る基準はもう少し緩やかでもいいように思います(例えばB等級にするとか)。
この辺は、クラブライセンス制度によって全体の水準を上げるという趣旨と、「ふるいにかけるわけではない」という建前とのせめぎ合いなのかなと思います。
- J3規則は、いくつかの項目で交付規則と比較して要件が緩和されている
- Jリーグクラブライセンス交付規則の基準はAFC規則よりも厳しめ
それでは次回が最終回。よろしくお願いします。
*1:J3創設の背景に関する資料として、「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について《公益社団法人日本プロサッカーリーグ 2013年3月6日発表》、【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(前編)《フットボールチャンネル 2013年7月13日付》、【J3構想の実態を探る】Jリーグ理事 大河正明氏に聞く、『J3』のアウトライン(後編)《フットボールチャンネル 2013年7月14日付》、クラブの拡大とリーグ構造の変遷《Jリーグ.jp 2017年7月2日閲覧》、大東和美・村井満『Jリーグ再建計画』(日本経済新聞出版社、2014)150頁、宇都宮徹壱『サッカーおくのほそ道』(カンゼン、2016)108頁など。
*2:この辺の説明をすると長くなってしまうので本稿では詳しく取り扱わない。「Jリーグディビジョン3(J3)」の設立について《公益社団法人日本プロサッカーリーグ 2013年3月6日発表 23頁》。
*3:Jリーグクラブライセンス交付規則 別表1。
*4:なお、2013年の資料であるため現在の規定とは多少違いがある。具体的には次のようなものがあげられる。I.15「身体障がいのある観客」が追加されている。P.03「財務担当」について、「J3開幕までに担当者を置くこと」という宥恕規定が設けられた。P.06「広報担当」とP.07「事業担当」の兼任が認められるようになった。P.08「コンプライアンス・オフィサー」が追加された。
*5:みんなでつながり、みんなで創る!奈良を盛り上げる「奈良クラブ」《奈良県 2016年5月31日付》。
*6:静岡県東部初のJリーグクラブ(下)スタジアム要件の壁《静岡新聞アットエス 2016年11月20日付》。
*7:Jリーグ、ライセンス制13年導入、クラブ経営、厳しく審査、3年連続赤字で剥奪。《日本経済新聞 2011年5月31日37面》。